假名遣及假名字體沿革史料 一冊
 大矢透著。明治四十二年刊、著者は國語調査委員會に於いて、假名の起源沿革について研究したのであるが、本書も「假名源流考」と同じくその一部分であり「假名源流考」の後をうけて假名字體の沿革を究明せんとするのがその主目的である。即ち假名を用ひた古書中から時代の確實にして、代表的なもの五十種を選んでその一部分を影摸し、之を整理したものであって。一見して各時代に於ける假名の字體を如實に比較し得るもので、空前の名著と云ふべきである。斯る研究は已に新井白石や伴信友等によってやゝ着手されたが不十分な研究で本書とは比較にもならない。
【參考】 
  * 假名沿革餘材(一名「真木の嬬手」)三巻 大矢透著。
(亀田次郎「国語学書目解題」)


假名遣及假名字體沿革史料 語學書一册
【著者】大矢透
【刊行】明治四十二年三月
【解説】本書は著者が、國語調査委員會に於て擔當した假名研究のため、多年に互つて蒐集した假名の沿革を徴すべき資料の中から年代の確實なものを選んで年代順に列擧したもので、假名を用ひた古書の一々についてその一部分を影摹し、その書の著者・卷册數・製本様式・識語。書寫年時・現在所在を註し、概要を記し、次にその書中の傍訓・字音・音便・假名遣・語法等の例で注目すぺきものを擧げ、且つその書に用ひたあらゆる假名字髏及び略符を示してゐる。本書に收められた古書は、神護寺の「沙門勝道歴山塋玄珠碑」、高嶺秀夫の「法華文句」、石山寺の「金剛般若集驗記」「大智度論」「法華義疏」等を初めとして、平安朝以往のもの三十種、鎌倉時代以後のもの二十種である。卷末に附録として、上記五十種め外、著者が見得た他の古書をも加へて、これに見える假名を年代順に配列した「假名字體沿革一覽」を添へてゐる。本書は各時代の假名字體沿革研究の根本たるべき資料を蒐集し、その代表的なものを整理したものであつて、この種の研究は新井白石・伴信友(各別項)などによつて若干着手されてはゐるが、それ等は本書とは比較にもならぬほど不十分なものである。本書に收められた資料は、すべて年代の明かな叉はほぼ推知し得らるべき確實なもので、これを整然たる組織の下に飽くまでも歴史的に系統づけようとした空前の名著と稱すべきものである。
【備考】この書を作つた材料は、後に「假名沿革餘材」(一名「眞木の嬬手」}三卷。明治四十三年成。寫本)として纒められた「假名遣及假名字體沿革史料」よりも、更に多くの他の資料を含み、約百七十種が採録されてゐる。又後年、「假名遣及假名字體沿革史料」第二編の一部として.「地藏經元慶點」(大正九年刊)「成實論天長點」、同十一年刊)「願經四分律古點」(同年刊)が刊行された。これは「假名遣及假名字體沿革史料」刊行後、平安朝初期の假名資料を、正倉院聖語藏御藏の經卷中に見出して研究を加へたものの中から、その價値多きものを拔き出し刊行したものであつて、この種のものはこの外二十餘種稿本として存する。 〔龜田〕

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