くりかへし符号の使ひ方

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昭和21年3月・文部省教科書局調査課国語調査室

!--くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕（案）
昭和21（1946）年３月・文部省教科書局調査課国語調査室（原文縦書き・旧字体）

本省で編集または作成する各種の教科書・文書などの国語の表記法を統一し、その基準を示すために、

   * 一、送りがなのつけ方（案）
   * 二、くぎり符号の使ひ方〔句読法〕（案）
   * 三、くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕（案）
   * 四、外国の地名・人名の書き方（案）

の四編を印刷に付した。この案はその一つである。

諸官庁をはじめ一般社会の用字上の参考ともなれば幸である。
まへがき

  1. この稿は、くりかへし符号を用ひる場合の基準を定めたものである。
  2. くりかへし符号は同字反復の符号である。これまで、畳《でふ》字・重文《ぢうもん》・送り字・重ね字・をどり字・ゆすり字・ゆすりがな等と呼ばれて来たものであるが、この稿ではさらにあらたに一つの符号を取り上げるとともに、これらの性質を分かりやすく言いあらはし、かつ一般に通じやすいと思はれる呼び名として、かりに「くりかへし符号」といふ名を用ひた。
  3. くりかへし符号は左の五種である。
     一ツ点 ヽ  かなにつけて用ひるもの
     くノ字点 くノ字点  かなまたはかな交りの語句につけて用ひるもの
     同《どう》の字点 々 ｝ 漢字につけて用ひるもの
     二ノ字点 二ノ字点の活字体（二ノ字点の筆写体）
     ノノ点 〃  数字や語句を代表するもの

     右、各種の符号の呼び名は、一部は在来のもので、一部は取扱ひ上の便を考へてあらたに定めたものである。
  4. くりかへし符号の用法の中で、これまで最も統一を欠いてゐたのは、例へば「ぢぢ」「ばらばら」のごとく語頭に濁音をもつことばの書き方であつた。すなはち、「ぢぢ」「ばらばら」を書く場合に次のごとき三様の書き方が行はれてゐたのであるが、この案では、その中の（一）の書き方に従つた。
         * （一） ぢゝ   ばらくノ字点
         * （二） ぢゞ   ばらくノ字点
         * （三） ぢゞ   ばらくノ字点
  5. くりかへし符号は、同一の語の中で用ひることを原則とし、次のごとき場合にはかなを重ねて書く。
         * （一）話したために   読んだだけで
           それとともに   さうしたもののみ
           そののち   いままで
           行つただらう   すべてです
         * （二）香川県《かがはけん》   馬場氏《ばばし》   平《たひら》の知盛《とももり》
         * （三）パパ   ママ   チチハル

     〔付記〕右の原則によつて、例へば「立てて」を「立てゝ」と書くのはよくないといふ人もあるが、しかし、この「立てて」などは、一方から見れば「立つ」と「て」との二つの単位から成つてゐるものであるが、一方から見れば「立てて」でもつて一つの単位を成すものであるから、やはり同一語中の用例であるといふことができる。ゆゑに、「立てゝ」の類の書き方も認められる。

     つぎに、日常の文書において使用率の高い「ことゝ」「ものゝ」「○○町々会」などの書き方も、これを許容的に認めておくことが現代一般の慣用に照らしておだやかであらう。
  6. くりかへし符号はテン（読点）をへだてゝは用ひない。例へば――
         * 「こ、こ、こ、こ。」と、おやどりがよぶ。
           「ちゝ、ちゝ。」と鳴く小鳥の声、
           ド、ド、ドーッといふ波の音、
           さらくノ字点、さらくノ字点と葉ずれの音がして、
           「あっ、兎、兎。」
           一歩、一歩、力強く大地をふみしめてゆく。

           〔付記〕くりかへし符号の適用は、右のごとく一種の修辞的用字法、すなはち文のリズムを表現するものである。

呼び名符号準則用例
(１) 一つ点ゝ

  1. 一つ点は、その上のかな一字の全字形（濁点をふくむ）を代表する（例１）。
     ゆゑに、熟語になつてにごる場合には濁点をうつが（例２）、濁点のかなを代表するばあいにはうたない（例３）。
  2. 「こゝろ」「つゝみ」などを熟語にしてにごる場合には、その「ゝ」をかなに書き改める（例４）。

     〔備考〕「ゝ」は「二ノ字点の筆写体」をさらに簡略にしたものである。

  1. ちゝ   はゝ
  2. たゞ   ほゞ
  3. ぢゝ   ばゝ
  4. づつ   小包《こづつみ》   真心《まごころ》   案内がかり   気がかり   くまざさ

(２) くの字点くノ字点

  1. 「くノ字点」は、二字以上のかな、またはかな交り語句を代表する（例1 2 3 4 5）。

     〔備考〕「くノ字点」は「二ノ字点の連続した形」「二ノ字点＋くノ字点の形」を経て「くノ字点」となつたものである。

  1. いよくノ字点   ますくノ字点
  2. しみくノ字点   それくノ字点
  3. しげくノ字点   しばくノ字点
  4. ばらくノ字点   ごろくノ字点
  5. 一つくノ字点   思ひくノ字点   散りくノ字点   代わるくノ字点   知らずくノ字点   くり返しくノ字点   ひらりくノ字点   エッサッサくノ字点

(３) 同《どう》の字点々

  1. 「々」は漢字一字を代表する（例1 2 3 4 5）。

     〔備考〕「々」は「仝」の字から転化したものと考へられてゐる。

  1. 世々《よヽ》   個々《こヽ》   日々《ひヾ》
  2. 我《われ》々   近《きん》々   近《ちか》々
  3. 正々   堂々   年々   歳々
  4. 一歩々々   賛成々々
  5. 双葉山々々々

(４) 二の字点二ノ字点の活字体二ノ字点の筆写体

  1. 「二ノ字点の筆写体」は、手写では「々」と同価に用ひられるが（例1）、活字印刷では「々」の方が用ひられる（例2）。
  2. 活字印刷で用ひる「二ノ字点の活字体」は「二ノ字点の筆写体」の別体であるが、その働きは、上の一字を重ねて訓《くん》よみにすべきことを示すものである（例3 4）。
  3. 「唯《たゞ》」は「唯二ノ字点の活字体」とは書かない（例5）。
  4. 「各の」「諸の」は「二ノ字点の活字体」がなくても読みうるが（例6 7）、普通には「二ノ字点の活字体」をつける（例8）。
  5. 「二ノ字点の活字体」は「々」で代用される（例9 10）。殊に「多々益々」ではかならず「々」を書く。

     〔備考〕「二ノ字点の筆写体」は「二」の草書体から転化したものと考へられてゐる。
     それを小さくして右に片寄せたものが即ち「二ノ字点の活字体」である。

     〔付記〕例３４５６７８９の類の語は、なるべくかなで書く方がよい。

  1. 草二ノ字点の筆写体
  2. 早々
  3. 稍二ノ字点の活字体（やゝ）   略二ノ字点の活字体（ほゞ）
  4. 愈二ノ字点の活字体（いよくノ字点）   各二ノ字点の活字体（おのくノ字点）   旁二ノ字点の活字体（かたくノ字点）   交二ノ字点の活字体（こもくノ字点）   屡二ノ字点の活字体（しばくノ字点）   抑二ノ字点の活字体（そもくノ字点）   偶二ノ字点の活字体（たまくノ字点）   熟二ノ字点の活字体（つらくノ字点）   熟二ノ字点の活字体（つくくノ字点）   益二ノ字点の活字体（ますくノ字点）
  5. 唯（たゞ）
  6. 各（おのくノ字点）の意見
  7. 諸（もろくノ字点）の国
  8. 各二ノ字点の活字体（おのくノ字点）意見を持ちよつて
  9. 各々（おのくノ字点）   益々（ますくノ字点）
 10. 多々益々

ノノ点〃

  1. 「〃」は簿記にも文章にも用ひる（例1 2）。

     〔備考〕「〃」は外国語で用ひられる「”」から転化したものであり、その意味はイタリア語のDitto 即ち「同上」といふことである。なほ国によつて「“」の形を用ひる。

1.

     甲案を可とするもの　一二八
     乙案　　〃　　　　　三一九
     丙案　　〃　　　　　二六五

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