五味康祐
言葉に、何となく土佐訛りがあった。
伊豆の下田に当時、大坂うまれのお梅という妻を持つ中国人がいて、筆屋を営んでいた。このお梅は、客が筆を買った時に、
「まいどおーきに」
と大坂弁で愛想をふりまいたが「有難う」という意味だと米人は聞き、いかにも愛らしい日本語なので、サンキューの代りにこれを使いたがったのである。どうも日本人はサンキューの一語を「カタジケのうござる」とか「恐悦至極に存じます」とかむつかしく言う。せいぜい略して「ありがとうぞんじます」である。どうも「まいどおーきに」の簡略にしくはない、と見たわけだ。
長州訛りで無念そうなうめき声が聞こえた。