五味康祐


 宗矩は悠之丞が柳生屋敷に來て以來それとなく、言葉訛りを家人に注意させておいた。肥前の浪人なら、九州訛りがある筈だつた。併し、全然左樣の訛りは認められませぬ、と家人は申述べている。それで淨月齋の廻し者でないかという、ひそかな疑いを宗矩ははらして來た。忍者なら、諸國の訛りに通曉している。肥前の者と名乘るからは、故意にも九州訛りを使うのが普通である。訛りがないのは、却つて淨月齋の弟子でない證據となる。


「訛りは?」
「氣づかなんだ。」


忍者は時に行商人となつて諸國を歩くため、土地の訛に通曉する。


 幸兵衞は關西訛りでしきりに辯明をしたが彦左衞門はきかなかつた。


トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2022-08-08 (月) 09:58:44