国語学辞典 矢田部達郎


児童言語学 児童の言語の研究は、あらゆる児童研究と同様に、日常の見聞を逸話的に記録することから始まり、次に、自分の子供の成長を追って伝記的に記録することによって行われるようになった。伝記的記録のうちで、すぐれたものとしては、ドイツの医者プライヤー()や、スクーピン夫妻()のものなどが、有名である。このような研究の結果を他の者の研究と比較して、組織的な著書としたのがシテルン夫妻()の『児童の言語』(一九〇七)であって、これは今日でも催戒ある著述として尊ばれている。一方、多くの児童を対象とした児童語彙の比較研究が十九世紀の前半からすでに行われており、そこから多くの児童の言語活動を同時に調査する、いわゆる横断的研究の傾向が起り、語彙検査(別項)のような標準化された手段による客観的研究が盛んに行われるようになる。近ごろはテープレコーダー(↓録音)の発明によって客観的資料を得ることが容易になり、また少数例統計の進歩によって数量的処理が簡単になったので、同時に多数者を取り扱う横断的研究と、幾人かの特定個人を並行的に広記的に取り扱う縦断的研究とを総合的に行おうとする努力が現われてきた。これが最も有効な研究法であることは言うまでもない。客観的方法の例をあげると、まずサンプリングが上手になってきた。すなわち、あらゆる資料を全部集めるのではなく、最初の五分間に語られる語数とか作文の最初の二百字とかについて集計し、場合によっては、かかる記録を反復する。又そこから特徴を引き出す方法としても、自己中心性指数(独語数と対話語数との比)、の(異語数と総語数との比)、)等の標準化された尺度が用いられるようになった。これらを検定あるいはカイ自乗検定等にかけて(この計算には別段むずかしい数学的知識を必要としない)、容易に現象間の特徴を明らかにすることができる。↓児童語。
              〔矢田部違郎〕
 〔参考〕『児童の言語』矢田部達郎。
 『言語』イェスペルセン著、神保格・市河三喜訳。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 10:07:55