氏名の誕生──江戸時代の名前はなぜ消えたのか
尾崎秀和
ちくま新書
二〇二一年四月一〇日第一刷発行
プロローグー人名の常識をめぐって 009
江戸時代の人の「名前」
今、氏名と呼んでいるもの
江戸時代を起点に
本書の構成
第一章「名前」の一般常識 09
1 一般通称の世界
江戸時代の"下の名前"
名前の"お尻"と頭
人名符号の定着
ルールの範囲内で
名跡化と襲名慣行
名を継ぐ意味
相応しい名前
名は体を表す
2名前としての官名 032
大和守という名前
大名の場合
官名の選択
四品相当の官名
無視された"本来の意味"
叙任という手続き
侍従以上
参議以上と松平の称号
3擬似官名とその増殖 048
国名と京百官
東百官
東百官の変形・増殖
恨めしきまなざし
第二章 「名前」にあらざる「姓名」
1名乗書判の常識
「名乗」とは何か
名乗はいつ・どこで使うか
誰も知らない名乗
名乗と帰納字
書判の設定
書判とは言うけれど
名乗と印形
2本姓と苗字 072
本姓と称するもの
苗字の公称
苗字の私称
武右衛門は気にしない
通称と苗字の関係
村内秩序と苗字
一般の人名常識
第三章 古代を夢みる常識 085
1朝廷官位と「名前」 086
朝廷社会の「名前」
些末な拘泥?
江戸時代の朝廷位階
越えられぬ一線
朝廷の官名
官位相当と家格
京官の定員制限
国司に定員なし
転任と名前
庶民の叙位任官と擬似官名
2「姓名」の用途と「名前」の正体
「姓名」こそが人名
「姓」といわれたもの
姓尸名
官位は姓名の上に接続する
小倉百人一首
称号と実名
実名を呼ぶ文化
用途に応じて
武家官位の申請手続き
長い"フルネーム"は存在しない
朝廷の人名常識
3官名と職名 122
古代を夢みる者たち
職名の存在
名実の不一致
第四章 揺らぐ常識 129
1正論を説く者たち
正しさはどこにあるか
何右衛門らの起源
官名僭称とその名残
官名を盗むな
紛々たる称
今世の風俗は……
武家のルールにご用心
笑わば笑え
靱負佐になりたい
御名差合
荻生徂徠の提起
名を正せ
山県大弐の正名論
2人名部位の総整理
「名字」に注意
通称なるもの
苗字・称号・氏・姓
屋号と苗字
名前でも姓名でもないもの
3官位の褫奪と「王政復古」
解官する常識
解官しない常識
長門宰相から毛利大膳へ
一新と復古
第五章 王政復古のはじまり 167
1官位と職名 168
夢の実現へ向けて
新政府職制の登場
並行する官名と職名
七官制
官等の設定
官位秩序との齟齬
混乱の序曲
徴士の叙位
辞退者との混合
官等と位階
五等官以下の官位停止
2武家官位の行方 187
褫奪と復旧
徳川内府から徳川慶喜へ
姓名把握の嚆矢
肥前少将と鍋島少将
武家官位は続く
旗本らの官位と整理
森有礼の議案
無意味な可決
第六章 名を正した結末
1職員令の波紋 202
旧官の名に拠て更始の実を取る
百官廃止と職員令
官名は官員のみ
どうすればいいの?
波紋の第一波
実名を通称にもする
藩職員の実名系通称
大参事たちの悩み
通称利用は譲れない
非役有位者の削減
波紋の第二波
何右衛門も禁止?
2姓尸名の奔流 228
二つの常識
姓名の人名利用
姓名を申告せよ
これが実名?
藩職貝たちの困惑
「官名」は「通称」ではない?
もうわけがわからない
3正名の破綻と急展開 242
解決策の発明
苗字十実名の登場
「正名」の終焉
姓名の退場
通称・実名の同質化
「一人一名」への帰結
消えたものたち
第七章 「氏名」と国民管理
1苗字の強制
平民の「名」
意味不明な苗字自由令
苗字公称価値の消滅
苗字強制令の背景
僧侶に苗字を
苗字強制令の実行
隠された「不都合」
苗字の設定
屋号と苗字と…
2改名制限という新常識 272
江戸時代の改名
名前は変わるもの
名跡としての名前
同時に複数の本名
壱人両名の世界
改名制限の開始
改名禁止令
改名規制の緩和
名は体を表さない
エピローグ 人名のゆくえ
本書のまとめ
人名のちゃんぽん状態
忘れられた常識
人名は社会を映す