村上龍
村上春樹


龍  ぼくは会話でいちばん苦労したんですよ。ある人に読んでもらったら、「会話がひどい」っていわれたんです。第三稿ぐらいまで書き直したんだけど、いま読み返すと、やはりひどいんですよ。そのころぱ電車に乗っても、他人の会話聞いたりして、ずいふん勉強しましたね。これぱ、ぼくにとっては大きな問題だった。ぼくは十八年間、九州弁でしゃべってたわけですよね。小説って東京弁で書いてあるでしょう。ぽくは東京弁が下手なんですね。他人がしゃべってるように書けなかったんですよ。
春樹 ぼくも十八まで関西弁しかしゃべらなかったんで、東京へ出てきてどうなるかと思ったら、三日で完璧にしゃべれるようになったね。あれは、なんか性格の問題じゃないのかなあ。ぼくは順応性が高いらしい。
龍  ぼくはずいふん苦労したんですよ。
春樹 もっとも、コミュニケーションとなると、まだべつでね。ふつう関西だと、十いうところを六ぐらいしかいわない。それで、反射的に九までわからないと、相手にしてもらえないわけ。ところが、東京じゃそうはいかない。なんでこんなにわからないんだろうって、はじめはショック受けたんですよね。六いっても、せいぜい七しかわかってくれない。向こうが九ぐらいいっちゃうと、ぼくは十三ぐらい考えちゃう。九は九なのにね(笑)。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 08:44:30