武田麟太郎


 長谷川は、最近の陽気な自分が、我ながら不思議でならない。性格というものはこんなにすっかり一変してしまうのかと首をひねるのだ。いや、人間に生れついた決った性格があるのではなかろうかと考えたりする。そこには、種々雑多な性向があって、どれかが、場面や時問により、対人関係により、特徴的に発するだけではないか。
 とにかく、彼は変った。小学校のころから、もう早熟な彼は陰気でもの想いに沈んだ顔をしつづけていたのに、まるで子供みたいな、生き生きとはしゃいだ表情になっている。本当に、四十近くになった今日、子供にかえったように明るくって、そういう言葉を使えば、非常に無邪気《むじやき》な容子だ。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 08:46:05