田村俊子
明治文学全集 女流文学集(二) 日本現代文学全集 小川未明・田村俊子・水上滝太郎集
富枝は歸らうとして校舍の裏手へ出て見た。生徒は大抵散じ盡したあとで、遙か寮舍の方で水を使ふ音が聞えてゐた。園藝好きの古井が、花鋏を持つて坂を下りてゆくのが見えた。何と云うでもなく呼んで見ると彼方は近くを探しながらくるりと振向いて、富枝を見附けると莞爾として又歩き出した。