逢坂剛
小説


 それほどの年でもないのに、言うことが時代がかっている。子供のころ、東映のやくざ映画を見すぎたのかもしれない。東京の下町言葉に、関西方面のアクセントが交じった、奇妙な語り口だ。


言葉遣いはていねいだが、凄みをきかせた口調だった。赤星元一と話したときの、横柄な口の利き方が、耳によみがえる。


言葉遣いは詰問口調だが、顔を見ているとそうは聞こえないところが、実はくせものなのだ。


「節度だなんて、けっこう岡坂さんも、古い言葉を使うんですね」
「古いかね。節度が死語になった、という話はまだ聞かないが」
さぎりは、きょとんとした。
「シゴって」
顔を見直す。
「冗談だろう」
さぎりは少し考え、すぐに眉を開いた。
「あ、分かった。ひそひそ話のことね」
どうやら広告業界も、さぎりくらいの世代では《死語》そのものが、死語になったらしい。


 おじさま族か。古い言葉だ。それでだいたい、世代が分かってしまう。


 かすかに、関西訛りがある。


 前に会ったときも気づいたことだが、話すときのイントネーションに、わずかな関西訛りが感じられた。


トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-02-21 (水) 10:25:06