韻鏡諸鈔大成
おおむね『日本釈名』を襲っているものと思われる。


一に自語とは、天地《アメツチ》男女《ヲメ》父母《チヽハヽ》等の類なり、是上古の時自然に云出せる語なるを以て。其故はかり難《がた》し。妄《みだり》に義理をつけて解ぺからす。
二に転語とは、五音相通によりて名付し語なり。譬は上《カミ》を転じて君《きみ》とし、高《タカ》を轉じて竹《タケ》とし、黒《クロシ》を轉じて烏《カラス》とし、盗《ヌスミ》を轉じて鼠《ネズミ》とし、染《ソミ》を轉じて墨《すみ》とするの類なり。又轉語にして略語をかねたるも多し。
三に略語とは、言葉を略するを云なり。[ひゆる]を氷《ヒ》とし、[しぱしくらき]を時雨《しぐれ》とし、[かすみかがやく]を春日《カスガ》とし、[たちなぴく] を[たなぴく]とし、文出《フンデ》を筆《ふで》とし、墨研《スミスリ》を硯《すゞり》とし、宮所《ミヤトコロ》を都とし、[かヘリ]を鴈とし、前垣《まへかき》を籬《マガキ》とし、[きこえ]を聲《コヱ》とするの類なり。其略に上略中略下略あり、又略語にして轉語をかねたるも多し。
四に借語は他の名と言葉《ことば》を借、其まゝ用ひて名付たるなり。日《い》をかりて火《ヒ》とし、天《アマ》をかりて雨《あめ》とし、地《ツチ》をかりて土《ツチ》とし、上《カミ》をかりて神《カミ》とし、髪《カミ》とし、疾《トシ》をかりて年《トシ》とし、蔓《ツル》をかりて弦《ツル》とし、湖(ママ)《シホ》をかりて鹽《シホ》とし、炭《スミ》をかりて墨《スミ》とするの類也。
五に義語とは、義理を以て名づけたるなり。諸越《モロコシ》を唐《モロコシ》とし、気生《イキヲヒ》を勢《イキヲヒ》とし、明時《アカトキ》を暁《アカツキ》とし、口無《くちなし》を梔《くちなし》とするの類なり、又是を合語とも云。二語を合たる故なり。又義語にして轉語をかねたるもあり。
六に反語とは仮名反切也。[はたをり]を服部《ハトリ》とし、[かるがゆヘ]を[かれ]とし、[かれ]を故《け》とし、[ひら]を葉《ハ》とし、[とをつあはうみ]を遠江《とをたふみ》とし、[やすくきゆる]を雪とする類なり。
七に子語とは母字より生する詞を云。一言母となれば其母より生するを云なり。日の字を母字として于《ひる》、晷《ヒカゲ》、光《ひかり》を生じ、月を母字として晦《ヅゴモリ》、朔《ツイタチ》を生じ、火を母字として炎《ホノヲ》、焔《ホムラ》、埃《ホコリ》を生じ、水を母として源《ミナモト》、溝《ミゾ》、汀《ミギハ》、港《ミナト》を生する類なり。
八に音語とは。音を以て直に和語に用るなり。其音語に三様あり。一には字の音を其のまゝ用ひて和語とせしは、菊《きく》、桔梗《キキヤウ》、繪馬《ヱムマ》、石榴《しゃくろ》等なり。二には唐音《タウヰン》を其まゝ和語に用たるあり。杏子《アンズ》、石灰《シツクイ》、波稷《ハウレン》等なり。三には梵語を用たるあり。尼《アマ》、猿《サル》、斑《マダラ》、盗《すり》等なり。
右八つの法をはづるる和語はなし。異朝の文字は、六書をのがれざるが如し。
(原文片仮名)

以下、天象、時節、地理、宮室、地名、水火土石金玉、人品、形体、人事、鳥類、獣類、虫類、魚類、介類、米穀、草類、木類、飲食、衣服、文具、武具、雑器、虚字。これも、日本釈名に同じ。

ただし、中身は違うものもあり。
上記、「梵語」で、ホトトギスの代わりに、盗《すり》を出すなど。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 10:06:15