五味康祐
五味康祐『柳生武藝帳』


 宗矩は悠之丞が柳生屋敷に來て以來それとなく、言葉訛りを家人に注意させておいた。肥前の浪人なら、九州訛りがある筈だつた。併し、全然左樣の訛りは認められませぬ、と家人は申述べている。それで淨月齋の廻し者でないかという、ひそかな疑いを宗矩ははらして來た。忍者なら、諸國の訛りに通曉している。肥前の者と名乘るからは、故意にも九州訛りを使うのが普通である。訛りがないのは、却つて浮月齋の弟子でない證據となる。


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