林望

九州弁小説
時代小説

おいどん


 土佐の訛りだった。


 堀(堀達之助)は長崎の人で、外国で語学を学んだという経験はないのだが一種の天才だったのであろう、殆ど完璧なクイーンズ・イングリッシュを話し、かつ読み書きすることができた。しかも、年中幕府の役人などと接触してきたためか、長崎の訛りもあまりなく、まるで江戸の御家人のような口調で話すのだった。


 さすがの堀もこのスコットランド弁にはたじたじというところであった。もごもごと口のなかで言いなずむ感じが、どこか東北弁を思わせる。


町田はできるだけ薩摩弁を避けて角張った言葉遣いをした。


ロニーは最初の二日だけは姿を見せたが、だんだん話してみると、彼の日本語は最初思ったほどには達者でなく、薩摩の男たちが薩摩弁で話しているのにはまったく歯が立たない様子で、いつも退屈そうに黙っていた。


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