http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokaidai/i/kokusyo_i094.html

さて開奩は六卷より成りて自等庵宥朔の寛永四年(二二八七)の著。正保四年(二十一年後)にも出版せられたのは大に世に行はれたのだらう。卷一には各轉につきて局位の誤れる文字を正し、廣韻の反切によりて百五十五字を補ひ、七音総括圖としては
 七音 清濁 字音の行 五音 五行 五萬 五時 五臓 五色 五常
の十段を重ね、脣音の輕母字、助紐字を出して最後に

人名の反切には音和を取るを正と爲す云々五行の相生を取る事肝要なり。

と云って居るが韻學秘典の「謹考韻鑑歸字例」の書式を出す程の事では無い。然るに秘典は世に流布しなかった爲に開奩が罪魁とせられて、磨光韻鏡餘論にも

或は人名反切の贅辯を費すなど蕪穢見るに勝へず、其の説を詳にするに開奩實に之が祖たり。

と指斥せられて居る。
 卷二には十二反切、卷二には字子、卷四・五には張氏の序例の解について詳述し、卷六は専ら神珙九弄辨を釋したが、この處で注意すべきは九弄圖の別本とも云ふべき慈覺大師將來の唐院本十紐圖を收めて居ることだ(九弄圖や十紐圖につきては拙著「玉篇の研究」に述べて置いた)。
 本書にも反切によりて其の字義までも得ると云って居る點は切要抄と同じい。けれども抄の如き適例の常に存せぬを知ったからか、上字にのみ義が有りて下字には義が無い者を立てゝ 臣-承眞切 京-居卿切 を其の例とし、上下倶に義を得られぬ時は字畫を分析して互に之を換反すれば義を得ぬは無いと云って居る。又三十六字母の三十六を四九の積とするも切要抄に同じきが

四は金の生數たり九は金の成數たり、金は五行の一にして位、西方に在りて秋の時となす。秋は衆籟争ひ吹き昆蟲聲を挑むも金氣の其の象に應ずるなり、故に金は音を主る。金の數を字母の定數とするも蓋し此の意か

と云った如く更に一歩を進めて居るには多大の苦心をした事だらう。而して開奩が跡づけた一路が爾後一百年の研究を導いたは更に新増易解大全の條に述べる。
岡井慎吾『日本漢字学史』

岩波日本古典文学大辞典 福永静哉

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