#author("2020-07-29T00:06:21+09:00","default:kuzan","kuzan")
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語學指南 ごがくしなん 語學書 四卷
【著者】佐藤誠實
【刊行】明治十二年七月。黒川眞頼の序(明治八年六月卅日)、著者の例言(同年同月)あり。明治八年六月以前脱稿、眞頼の一閲を得た。
【内容】「調八衢」「詞通路」「山口栞」(各別項)等の説を基本として、初學者のために、國文法の一般を説いたものである。著者は國語を、體言(名詞)・用言(動詞)・形状言・助詞の四品種に分ち、用言を四種の正格(四段.一段.中二段・下二段).三種變格(力行・サ行.ナ行)、羅行四段一格(有リ・飽ケリ)の三種に分ち、形状言を二種(ク活・シク活)及び羅行一格(善カリ)に分けてゐる。さて本文に入るに先立ち、五十音圖及び前記の活用圖(活用とこれに續く助詞――助辭及び助動詞――の圖)を掲げ、これだけは先づ諳誦すべしと云ってゐる。本文は語學研究の必要に次いで、體言を説き、用言に入つて、四種の正格、三種の變格、羅行四段の一格から將然・連用・終止・連體・已然の五段、用言の自他、命令言、雅言俗言の別を説き(以上卷一)、次に五十音の各行について、一行毎に活用を説き(以上巻二・三)、次に形状言の活用、助詞の概要、活用助詞(助動詞)を示し、延言・約言・轉音言・音便・通音・複音・増言・省言を説き.次に俗語について説き、その活用圖(四段・上一段・下一段・三段〔カ變〕、二段〔サ變〕、クイノ活・シクシイノ活)を示してゐる。而して上記の各品詞を説くに當つては、「古事記」「日本紀」「萬葉」「古今」「源氏」を初め、「和名抄」「類聚名義抄」「新撰字鏡」「色葉字類抄」乃至「沙石集」「寶物集」「三部假名抄」等の和書、及び「史記」「文選」「白氏文集」等の漢籍まで約百四十部の書かち用語例を蒐集し、その用語を、
(一)上世(光仁天皇以前)
(二)中世(桓武--安徳)、
(三)季世(後鳥羽―正親町)、
(四)近世(後陽成以後)の四期に時代を、分ち、中世以後用ひられないものは.「古言」と云つて、これを區別してゐる等、用意周到、頗る懇切なものである。而して最後に「語學試驗法」と標して、古歌古文を文法的に解剖する方法、及びその實例を示してゐる。
【價値】江戸時代に於て、急速な進展をした國語研究は、明治維新に至つて一頓挫を來し、文明開化の謳歌と共に、國文典も亦、西洋文典摸倣のものが出づるに至つた(田中氏の小學日本文典、中根氏の日本文典等)。これ等洋式文典は、大體の秩序が整然としてゐる點で優れてゐたが、細部に於ては不備の點も少なくなか
つたので、舊來の「玉の緒」「八衢」の流れを汲む反洋式文典が擡頭するに至つたのである。
本書は、この反洋式文典の代表的なもので、その内容に於ては、助動詞と助辭を一括して「助訶」なる一品詞とした事、助詞の説明が、用言・形状言に比して甚だ簡略である事、用言の活用に於て下一段活を逸した事、活用形に命令形を加へなかった事等.不備の點も存するが、その記述は首尾一貫して頗る眞面目であり、殊に多數の古書から用語例を蒐集した點は、大に多とすべをものである。而して本書に於て特に注目すべきは、俗言〔口語)の活用を説いた點である。口語を研究したものは、里見義の「雅俗文法便覽」((明治十年十月刊)が本書よりも少しく前に發表せられたのであるが、本書の稿本は明治八年以前に出來たものであるから、里見氏のそれと本書との前後は定め難い。而して説明は同氏のそれよりも整然としてゐる。この口語法を説いたこと、-及び反洋式文典の代表といふ點に於て、我が文法史上特に注目すべきものである。
【參考】日本文法史 福井久藏   〔龜田〕
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語学指南 四巻四冊
 明治八年佐藤誠實著。明治十二年刊。明治維新以後西欧文明の謡歌移入と共に國文典も亦西洋文典模倣のものが多く出た。是等は一面整然たる組織を有つと共に細部では缺點が少くなかった。この潮流に対し一方舊來の文典に流を汲む反洋式文典の出現を見たのであるが。本書も「玉緒」「八衢」流の反洋式文典の代表的なるものであって「八衢」「[[通路]]」「山口栞」等の説を基本として初學者の爲に國語法の一般を説いてゐる。本書では國語を體言・用言・形状言・助詞の四種に分ち、更に用言及形状言を活用によって夫々三種に分けてこれを説明し、次に將然・連用・終止・連體・已然の五段、用言の自他・命令言・雅言・俗言の別(以上巻一)五十音各行の活用(以上二・三巻)形状言の活用、助詞の概要、活用助詞の圖示、或は延言・約言その他について説明し、次に俗語について述べ合ぜて[[活用圖]]を示して居る。而して上記各品詞を説くに當つては古文献約百四十部から用評例を蒐集し又その用語を時代的に四期に分けてゐる等周到な注意を拂つてゐる。本書は一面には、助動詞と助辞とを一括して「助詞」と云ふ一品詞にしてしまった事、用言の活用で下一段活用を逸した事、活用形に命令形を加へなかった事、その他不備はあるが全體として首尾一貫し、その用語例の豊富な事殊に俗言の活用を説く等見るべき點が多い。(因に口語研究書としては本書と前後して里見義の「[[雅俗文法便覧]]」があるがその研究成功の前後は孰れとも遽に定め難い。)
【參考】
    * 日本文法史 福井久藏著。明治四十年刋。 
(亀田次郎「国語学書目解題」)
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https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992000


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