傭字例
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岩波日本古典文学大辞典 高松政雄
国語学辞典・国語学大辞典 奥村三雄
国語学研究辞典・日本語学研究辞典 前田富祺
>http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokai...
ようじれい
傭字例 一巻 關藤政方《マサミチ》
音の「ん」と「む」との區別を主と考論したるものなり。附...
◎關藤政方の傳は「聲調編」の下にあり。
<<
>http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/syomokukai...
ようじれい 傭字例 一卷 附録
關政方《マサミチ》撰 天保六年自叙、兼松誠序、依田利...
この書は、ンム等の昔の區別より論じて、「蝉《セミ》」、「...
附録には、漢呉音圖の説によりて、「芭蕉」「杲」、「鍾禮《...
この書、首卷に足代弘訓、屋代弘賢の書翰をも序にかへて掲ぐ...
<<
関政方
新潮日本文学大辞典 補遺にて「政方をみよ」と。
*本文 [#c951ac86]
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/ingaku/yojirei/yoji...
大阪市立大学森文庫
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents...
金城学院大学本(国文学研究資料館)
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM...
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傭字例序
石川君達備中笠岡人也 来游余門一日手其兄關士常郎著傭字例...
丙申孟春之月
匠里依田利用撰
宮原龍書
<<
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天保十三寅歳孟春新鐫
嘉平田舎翁著
傭字例 全
浪華 種玉堂
序
余嘗問輪池屋代翁國字ん字ン字所由出翁曰吾見佐理行成諸人之...
傭字者何傭之彼以達我〓也譬
如傭人苟随其乎性駆而使之雖
千百人唯吾所欲無不如志焉使
字之然苟達其音韻轉以用之
雖千栄字唯吾所令無不聴命
焉此古人傭字之妙所以不言萬
語無一舛差也夫古之賢達
合稽漢呉之音兼以悉曇之学
舌運筆寫神機話不可意
測其蹟存乎今昭々者日本書
紀古事記及萬葉集之類皆是
也中世此學漸廃古言亦〓轉
訛於是間新撰字鏡倭名類聚
鈔等之作其後数百年世道陵夷
禍亂薦臻而古訓掃地焉後又
四百五十年所雖世或小康未
及此之起慶元爾降治運日
隆文教漸闡至於元禄享保間
古訓之學大起矣當是時荷田
氏〓[風易]聲于平安契沖氏振響
于浪華加茂氏接至于江戸更於
唱導學徒輩出〓然其力而本
居氏間〓〓生後跨前人而著
述尤多如其字音假字用格三
音考實可謂起千古之廢矣吾
輩〓{弓翦}劣梯之得窺其一斑者耳
雖然愚者或有一得智者千慮
寧無一失如彼舌脣之韻混以
為一者蓋亦白圭之微〓[玉占]也
余於音韻雖不能解粗檢尋古
人傭字之例掲其一二以示子弟
非敢曰磨之〓[玉占]也天保六年
二月備中関政方自叙
香雪山内晉書
傭字例
蝉
せみは.蝉の字音を収(ヲサ)めたるか.又は.せみ〳〵と鳴聲...
第六巻に岸乃黄土粉二寳比天由加名(キシノハニフニニホヒテユ...
第十二巻に丹波道之(タニハヂノ)云々.また射去為海部之楫音...
讃丹弾敏の四字は.韻鏡に見えねども.寒翰珎等の韻の字なり...
是等のタン.カン.セン.などの如く撥(ハヌ)る音は.古へは...
べし.さて.五十音の中にしては.ナニヌネノの五音。やゝ鼻...
しか有て後に.今の平假字(ヒラカンナ)片假字(カタカンナ)と...
の末をはねてんに造れるものなり.されば.韻鏡十七轉より....
五音は.ナニヌネノよりは.同じく鼻に韻(ヒビ)く音なれども...
と訓めり.こはミを濁音に呼(ヨ)べるなり.マミムメモの濁音...
文
ふみは.踏(フミ)の義にて.古へを歴見するといふ意なり.故...
郷俗の語に老病々て不食になれるをブニの無なれるならむ...
旻樂
續日本後紀に太宰府馳傳言遣唐三箇舶.共指松浦郡旻樂埼發行...
ると云々.俊頼我日の本の島ならばとよめるは.日本にはあら...
考万葉集十六.自肥前国松浦縣美祢良久埼発舶云々.此国と云...
停二處遣唐之使従此停發到美祢良久(ミネラク)之濟(ワタリ)云...
とあり.是にてミネラクと訓べきこと明けし.そも〳〵
韻學者流.五十音の中にて.タラナの三行(ミクダリ)を舌音と
し.ハマの二行(フタクダリ)を脣音とせり.しからば仮字(カナ...
も.その差別(ワイタメ)あるべき事なり.本居氏の三音考にも...
曇の空涅槃點三内の説を引ていへらく.漢ノ對注ニ仰
講向等ノ字ヲ用ヒタルヲ喉内声ト云【此方ノ音ニテウノ韻ナル...
見桿等ノ字ヲ用ヒタルヲ舌内声ト云. 嚴劒等ノ字ヲ
用ヒタルヲ脣内声ト云.【此方ノ音ンノ韻ミナ舌内脣内ニ摂ス...
音ニテ分ツニ.仰等ハウノ韻ナレバ喉声ニ論ナキヲ.安等
等ハ共ニンノ韻ニシテ舌脣ノ差別ナシ.故ニ脣内声ヲハムトシ
舌内声ヲハントシテ是ヲ分カツナリ.然レトモ.ンハ全ク鼻声...
ソアレ.舌ニハサラニ関(アヅカ)ラザレバ.是ヲ舌内ニ充(アツ...
思フニ.舌内ヲハヌノ韻トスベシ.ヌハ舌声ナレバナリ云々....
つはらに論らひながら.旻樂をばいかで誤られけむ.旻は
舌内聲にて唇内聲にはあらす.悉曇舌内聲の例は沙
摩那(シャマナ)といふを沙門(シャモニ)と譯(ヲサ)め.舎枳也...
かごとし.摩那(マナ)に門字を充(ア)て.謨尼(モニ)に文字を...
ヌネノの舌音に収(ヲサ)まる故なり.ヌの韻をのみ舌内聲と
するはいかゞあらむ.よしやヌのみとせば.かの旻樂をば.
ミヌラクとこそ訓べけれ
桑門をもシヤモニと訓り桑をシヤと譯るは桑は本[又3]字に...
今は韻を略けるものなり釈字の例に同し
支那
梵語に.漢國を支那泥舎(.ナテイシャ)といへり.この泥舎は....
麼駄也泥舎(マダヤテイシャ).天竺國を[口皿]怒泥舎(キドテイ...
ことゝ見ゆ.支那(シナ)は按(オモフ)に晉の字音なるべし.佛...
て唐山(モロコシ)へ来たるは.後漢明帝の時なりといへども....
行(オコナ)はれたりしは.晋代より六朝の間.天竺の僧等おほ...
て.専ら翻譯のわざをせしことゞも見ゆ.今こゝにも
人の尊(タフト)むめる.法華経は晋の鳩麼羅汁(クマラジフ)と...
の翻訳せしなり.されば.晉字を梵音にうつして支那
といへるなるべし.晉は舌内声の字にて.門を摩那.文を
謨尼といふにおなじ.又按に.八字三昧經に.於此瞻部洲東
北方有國名大振郡云々.この大振郡は.大秦にて.大支那
といはむがごとし.漢書張騫傳に.益發使抵安息奄蔡
犂軒條支身毒國云々.とある註に.師古曰自安息以下五
國皆西域胡也.犂即大秦國也といへり.是によりて見れ
ば.本は秦字の音にや.されど秦晋ともに舌内聲なれ
ば.義は違(タカ)ふ事なし.また震旦とも書(カケ)り.是も支...
じ.那字の漢音ダなれば.シダとも.シナとも轉るなり.震
旦の二字.共に舌内聲なれども.韻を省(ハブ)きてシダと呼(ヨ)
べるなり.今俗シンダンと唱(トナ)ふるは僻事(ヒガコト)なり...
國言(ミクニゴト)にわたらぬことなれども.天竺の音は御國(ミ...
いとちかく.脣舌内の韻などのさま違(タガ)ふ事なければ.
因(チナミ)にいふなり.御(ミ)國にても信濃をシナヌ.雲梯を...
デ.民太をミノダ.雲飛をウネビなと訓るがごとし.此
雲民信等の字は.文欣真諄等の韻にて.共に舌内
聲なり.
近義
姓氏録に.近義首(オビト)新羅國王(コニキシ)角析王之後云々...
いかに訓べきにや.近比或人の訂正(タダ)せる本にコムギと訓...
按に.書紀に.任那(ミマナ)新羅(シラキ)百濟(クタラ)等の國...
書て.コニキシ又はコキシと訓り.通證に杜氏通典云百濟
王号於羅瑕百姓呼為(ヨヒナス)〓吉支といへり.旱岐.干岐は...
を省かれたるにて.やかて[牛建]吉支なり.[牛建]は.玉篇に...
ケン呉音コンなり.舌内声の字なればコニと轉る.故にコニギシ
と訓べし.干旱等も呉音コンなるべし.又カとコとは
常に通ふ例なれは.轉してコニとせしにも有べし.されば
この近義氏は新羅國王(シラキノコニキシ)の後なる故に.コニ...
姓氏を賜(タマ)ひて.近義の字を充(アテ)られたるものなるべ...
は玉篇に其謹切にて.漢音キン.呉音コン.欣韻にて舌内
声なり.かゝれば.是もコニギシと訓べし.下の支(シ)に充(ア...
省(ハブ)きたるは.干岐の例にひとし.且二字にさだめられし...
有べし.又同書に.温義といふ氏あり.是はヲヌギなるべし.後
世小野木といへる氏は.この温義の轉れるにや.野は古へはヌと
呼べり.温は合口音舌内聲の字なり。【假字用格ゐむ尹の條に...
ハいゆむノ音ナルヲ直音ニ轉シ
タル者ナリ.他ノ例ニヨレバいむナレトモ.是ハ姑ラクゐむト...
式ニ.大臣宣(ノル)侍座(シキヰン)ト云コトアリ.是ヲ北山抄...
カヽレタル。是ゐんノ假字ニテ合ヘリ.韻鏡ニモ合轉ニ属セリ...
今江次第を閲るに.内辨宣(ノル)之支井尓(シキヰニ)とかゝれ...
ことは.敷居(シキヰ)ニセヨ.又は敷居ニヲレ.などいふ義な...
て.後の詞を省ける也.今尹字は.舌内声のヰニといふ音韻を...
言とするものなり.尹字は韻鏡一八轉準韻舌内ンとなるなり.
今脣内ム韻とする時は.ヰムなり.さらばかの文義解難かるべ...
〓.〓斯。堅祖.等の氏あり.皆舌内の字なり考ふべし.
灘
今俗(ヨ)に.海上のいと廣らかなるを奈太(ナダ)といへり.遠...
磨灘(ハリマナダ).など是なり.この灘字は義(コトワリ)たが...
者達(.タチ)は洋字を書けり.そも〳〵奈太(ナダ)といふ称(ナ)...
海上のことゝ思へるは.中々に違(タガ)へるなるべし.古歌に...
あしのやの灘の塩やき.またなたの浦.云々などよみ
て.摂津(ツ)國の地名に今も灘といふ處あり.猶他國にも
多かり.吾郷人(.サトビト)ども.濱邉(ハマベ)の潮(ウシホ)の...
たひ出て.網打(アミウチ)するを.ナダウチといへり.奈太は...
か.なだむ.など活用(ハタラ)く詞(コトバ)にて.濱邉(ハマベ...
處(トコロ)をさしていへるにて.澳中(オキナカ)のことにはあ...
は.他丹切寒韻の字にて舌内声なれば.呉音ナンを轉(ウツ)
してナダとしたるなり.字を充(アテ)たるは誤(アヤマリ)には...
字の例になむ.そも舌内聲といふは.(音は)何にまれ.韻(ヒ...
内に収(ヲサ)まるをいふなり.脣内声も是に准(ナラ)ふべし.
安達
萬葉集十四巻に.安太多良乃祢尓布須思之(アダタラノネニフス...
美知乃久能安太多良末由美(ミチノクノアダタラマユミ)云々....
にて.後にアダチの真弓(マユミ)ともよみて.今の安達なるこ...
先達の説にて知られたり.さて安太多良(アダタラ)を安達と書(...
けるよしは.地名を二字に定められし時などに.安達の
二字に定めて.猶アダゝラとぞよめりけむ.そも安字は.
灘と同韻なれば.舌内声の例にて.ンをダに轉し用たる
なるべし.河内(カフチ)國の郡名.多治比(タヂヒ)を丹比と書...
を但馬と書るがごとし.丹但ともに舌内聲の字なれば.
ンをヂに轉したるなり.【ンは本.ニ字なる故にタチツテトに...
時は皆濁音となるなり.灘安丹但等是也.】
後世になりて.古言を失ひしより.安達の字のまゝに.
たやすく.アダチと唱(トナ)ることゝはなれりけむ.さて達字を
タラと訓(ヨム)よしは.達磨をダルマともダラマとも訓が如し.
ダルマもダラマも梵語なるを.唐山(モロコシ)にてやゝ近き音...
を充て.達磨と書(カケ)るなり.今の安達もこの例なり.又達は
寒桓韻の入声字なれば.舌内声にて.タラナの三行に
轉し用べき例植えに居減るが如し.
尓太遥越賣
萬葉集十三巻に.都追慈花尓太遥越賣作樂
花在可遥越賣(ツツジバナニホヘルヲトメサクラバナサカエヲト...
こは此歌の前に.茵花香未通女(ツツジバナニホヘルヲトメ)櫻...
歌と.その反歌と.又一首と有がまぎれて.一歌となれる
にて.尓太遥(ニホヘル)の遥は邉字の誤なるべし.ヘンをヘル...
し用る例.建字の處にいへるが如し.舌内声のンを.ラリ
ルレロの行(クダリ)に轉し用る例は漢韓等の字をカラと訓(ヨム...
如し.カラといふは.空殻(カラ)の義にて.彼邦をいやしめて...
國(クニ)といふ辞なり.と思へるは.傭字の例をしらぬなり.萬
葉集に.情進をサカシラとも訓り.なほ播磨をハリマ.
駿河をスルガ.得干をウカレ.人名仲満をナカマロ.と訓
る類ひおして知べし.さて越賣(ヲトメ)の越は入声字にて.ヱ...
ヱチ.ヲツ.ヲチ.など通例なり.舌内タチツテトの通韻に
てヲトと轉したるなり.凡て舌内入声のツは.タチツテト
に轉る例なり.設樂をシダラ.秩父をチゝブ.伊達をイ
ダテ.といふたぐひ准(ナゾラ)へ辨(ワキマ)ふべし.
狹殘
萬葉集第六巻に家持卿歌の序に.狹殘行宮といへる
あり.荒木田神主の槻落葉に.延喜式神名帳に.伊勢國
多氣(タケ)郡に佐々夫江(ササブエ)神社みえ.倭姫命(ヤマトヒ...
佐々牟江(マナヅルササムエ)<ノ>宮<ノ>前<ノ>葦原還行鳴(アシ...
郡大淀村の西.根倉(ネクラ)村.行部(イクベ)村の間に入江あ...
せる橋を.今猶,篠笛(ササブエ)の橋といふ.是古への頓宮の地...
云々といへり.今按に.この篠笛(ササフエ)<ノ>橋は.古への...
さも有べし.然(サレ)ど.狹殘を佐々牟江(ササムエ)なり.と...
らむ.残は寒韻の字にて昨安切サン舌内声なり.佐牟と
脣内には呼べからず.舌内のン韻.タラナの三行に轉る例を
猶いはゞ.書紀孝徳の御巻(ミマキ)に.人<ノ>名紫檀とあるを...
御紀(ミマキ)に辛檀努(シダマ)とあり.檀は寒韻なれば.ダヌ...
を知らせて.努字を添(ソヘ)て.かゝれたるなるべし.又神の...
素戔嗚(スサノヲ)<ノ>尊(ミコト)の戔字は在安切.是も寒韻に...
たるなり.又姓氏録に.丸部とある氏はワニベと訓なり.古事記
に丸迩臣(ワニノオミ)とみえたる迩字を省(ハブ)きて.丸字を...
葉集八巻に相佐和仁(アフサワニ)といふ辞を.十一巻に相狭丸(...
丸は胡官切本音ウワンなれどもウはおのづから省(ハブ)かる例な
れば.ワニと轉るなり.其他(ソノホカ).出雲風土記に近志呂(...
名見えたり.又薫衣香をクノエカウ.近衛をコノヱ.と訓
ことは人よく知れり.又日本紀竟宴歌に.段楊尓を多仁
野宇仁(タニヤウニ).と訓る類(タグヒ)みな舌内声の例なり....
殘は別地(コトトコロ)なるか.又は本書に脱誤などあるにやと...
佐々牟江(ササムエ)に字音を傭(ヤト)はゞ.脣内声の字を用べ...
聲の字は.侵覃咸嚴等の韻の上去入の字等なり.是らの
字韻には.ハマの二行を轉し用る例なり.伊参をイサマ.伊甚
をイジミ.南佐をナメサ.恵曇をヱトモなどのたぐひ是なり.
甜酒
書紀神代巻に.醸(カミテ)天甜酒(アマノタムザケヲ)甞之(ニヒ...
本紀の甜酒(タムサケ)<ハ>美酒也云々.倭名鈔に私記<ニ>甜酒<...
説文<ニ>〓甜同<シ>.切韻<ニ>〓<ハ>酒味長也といへる.又貞...
米都物云々.延喜式の多明米多明(ヨネタメ)酒等.また姓氏録...
称.云々.成務天皇御世仕奉(ツカヘマツリテ)大炊寮御飯香美...
いへるを引て.多無(タム)と多明(タメ)と通ひ米都(メツ)の切...
本居氏の古事記傳に.多米都物(タメツモノ)のことを説(イヘ)...
らの書等(ドモ)を引て多米(タメ)は.古への美味飲食をいへる名
なり云々.書紀の甜酒も本の訓は多米邪祁(タメザケ)なりけむ
を.後人さかしらに字音と意得て.多武(タム)とはよみなし
つらむ云々.とみえたり.今按にタムはタブに轉り.タメは
タベと轉り.又出羽<ノ>國<ノ>郡名.置賜をオイタミと訓めり...
タビとも轉るべし.是らのタビ.タブ.タベは賜の義なり.ハ...
濁の通(カヨヒ)にて.タミ.タム.タメとも云べし.しかれば...
賜酒にて.多牟(タム)酒ともいふべし.故(カレ)多牟(タム)と...
傭へるなり.甜字は玉篇に徒兼切テムなれども.同じ唇内声
覃韻の〓と同義なる故に.借音にてタムと轉したるものなり.
字音によれる訓にはあらず.傭字の例にこそ有けれ.かゝ
れば.多米佐介と訓(ヨマ)むもなでふことかあらむ.
習宜
姓氏録に.中臣(ナカトミ)<ノ>習宜<ノ>朝臣<ハ>.味瓊杵田命...
は.いかに訓べきにか.或人はシフギと訓れどもいかゞあらむ.
是も字音を傭へるには有べけれども.シフギといひては.い
かなる事とも聞えず.今試にいはゞ.シホゲなど訓べからむか.
殊(コト)に考へ得たるにはあらねど.味瓊杵田命(ウマシニキタ...
て.塩笥(シホゲ)を強(シヒ)て思ひよれるなり.又は塩氣(シホ...
字は脣内声に属る入声字なれば.フ韻なり.フをホに
轉し用たる例多し.入字は音シフなるを.一入再入と書
て.ヒトシホフタシホと訓み.又呉音ニフなれば.入鳥をニホ...
よめり.今用る鳰字は.入鳥の新製字なり.又備前國の郡
名.オホクを邑久とかけり.邑字は漢音イフ.呉音オフなり.
また播磨國郡名イヒボを揖保とかけり.是はイヒボとも.イ
フボとも呼べり.フ韻をホに轉し用る例.これらにて準ら
へ知るべし.又淡路國郷名賀集を加之乎とあるは.例に違
へる如くなれども.悉曇にてはワヰウヱヲを脣音とする
故に.入声のフ韻を.ワ行のヲに轉し用たるなるべし.抑.
脣内声の緝合葉洽業乏等の入声字のフ韻は.ハヒヘホに
轉し用る例なり.愛甲をアユカハ.雜賀をサヒカ.周匝をス
サヒ.の類にて推て知べし.さて又宜字はギの 字に用ひ
たるは.萬葉集に芳宜といふあれども.古書には大方ゲの
傭音としたり.今是等の例によりて.習宜もシホゲと訓
べきにはあらしかといふなり.
雜豆臘
萬葉集七巻旋頭歌に.住吉.波豆麻君之馬乗衣.雜豆臘.
漢女乎座而.縫衣叙.といへる歌を古點に.スミノエノ.ハヅ...
ガ.マソゴロモ.サニヅラフ.ヲトメヲスヱテ.ヌヘルコロモ...
達人たち.馬乗衣をウマノリゴロモ.【一説に.ワキアケゴロ...
ケツテキと訓ならへり.四位以下武官の服なり.といへり.】...
いとよろしきを.雜豆臘は猶古點のまゝに.サニツラフと訓り.
サニツラフといふことは.集中に.散釣相.散追良布.狹丹頬...
など書り.散は.舌内声の字なれば.サニと訓は.固よりなれ
ども.雜は.韻鏡三十九轉入声字にてサフと呼ぶ.脣内聲
なり.サッとつめて呼べども.そは入聲の常なり.脣内フ韻
は.ハヒフヘホに活き轉る例にて.伊雑をイサハ.雑賀をサヒ
カと轉し用たり.サニと轉し用し例なし.今按に.雜豆
臘はサヒヅラフ.又はサヘヅラフ.など訓べくや有む.ラフ
はルてふ言を延たるにて.サヒヅルヤ辛碓につき.などいへるに
同じく.サヒヅル漢女といふ義なるべし.かゝれば.漢女はカ
ラメと訓べくや.アヤメと訓むも.義は違ふ事なし.
芭蕉
芭蕉は.倭名鈔に.巴焦二音.倭名發勢乎波.とあり.古今集に
もバセヲバと書り.波字は葉のことなれば省くべきよし.餘材
鈔にもいへり.焦は韻鏡二十六轉宵韻の字なり.セヲの如く聞
ゆる故に.轉してかくいへる.襖子をアヲシ.といふも同じ....
韻に用るはアイウエオ等なれば.セオと書べけれども.拗音の
ヲをかけるは.直音の字なれども.御國の音より見ればなほ.
拗音なる故に.御國の拗音の韻を用しにや.御國の音韻は
紀伊.基肄.都宇.斗於.囎唹.弟翳.頴娃.などゝは韻けど...
韻かず.焦は子姚切にて.シエウのつゞまる音故に.拗音にて
おのづからセヲの如く聞ゆるなり.紀長谷雄卿の書玉へる.大藏
太夫の七十壽序にも.自の名を發昭と書玉へり.この昭字も同じ
宵韻の字にてセヲなり.又拾遺集に.紅梅をかくして.鴬の巣つ
くる枝を折たらばこをばいかでかうまむとすらむ.此紅字は
東韻の字にて.コウなれども.コオのごとく聞ゆる故に.セヲの
例にて.拗音にコヲとしるにや.しかれども又.高字をコの
假字に用たるは.カヲの切コなる故と見え.刀字をトの假字
に用るも.タヲの切トとなる故なり.かゝれば.蕭宵豪肴等
の字韻は本はカヲ.タヲ.ハヲ.サヲ.アヲ.なるか又はワヰ...
ヲの行を脣音とする.悉曇の切によりて.此ウ韻はおのづ
から.ヲとも.ウとも.轉るにやあらむ.
杲
萬葉集二巻に.見杲石山.六巻に在杲石.十巻に来鳴杲鳥.十
六巻に己蚊杲.また十巻に朝杲.など杲字をカホと訓り.玉
篇に古老切又公老切にてコウなり.今カホと訓は.音を借る
なり.と先達はいはれたれど.猶委しからず.按に杲字は.
韻鏡二十五轉晧韻にて.豪の上声の字なれば.セヲの例に
て.カヲとは轉し用べけれども.カホとは轉るべからず.【ホ...
フ韻轉用ノ例ナリ】書紀に考羅濟をカワラノワタリと訓り.古...
には加和羅とあり.此考字また晧韻なれば.カヲと轉し
用べきを.ワヰウヱヲの通音にて.カワとしたり.しかれば.
杲もカヲ.カワ.など轉用べきを.カホとする解きは例に違へ...
故又按に杲は本音カヲにて.悉曇家に.ワ行を脣音と
するによりて.脣内声の例をもて.ヲをホに轉してカホ
としたるなるべし.かゝれば.倭名鈔に筑前國郡名早良
をサハラと訓り.早字また晧韻の字なり.古事記に平群都
久宿称者平群臣.佐和良臣.云々等の祖也.とあるを.姓氏録...
良臣と書り.是考羅と同例なり.さるをサハラとかけるは.杲
と同例にて.ハヒフヘホとワヰウヱヲを相通はせて.轉用ひたる
なるべし.さておのれ韻學に踈ければ.こゝに疑はしき事
あり.杲考早等の例によれば.韻鏡二十五轉のウ韻は.脣内
声なるべきに.入声借音に鐸藥等の韻字を出せり.鐸藥は.
三十一轉唐陽韻の入声字なり.是は喉内声にて.相樂をサガ
ラ.相模をサガム.と訓が如く.悉曇にはカキクケコを喉音と...
故に陽韻の相字をサガと轉し用たり.さる故に喉内声に
属る入声クキ等の韻を.カケコと轉し用るなり.八尺をヤ
サカ.葛飾をカトシカ.周防國郷名益必をヤケヒト.色男をシコ
ヲ.烏徳をヲトコなどのたぐひなり.因て又さらに考ふるに.彼
二十五轉の借音は.韻を借れるには非ず.唯音のみを借れる
ものならむか.音のみを借とは.カウ.コウ.サウ.ソウ.タ...
のまぎらはしき故にコウにはあらず.カウなり.トウには
あらず.タウなりといふ切音をしらしめむとて.タク.ヤク.カ
ク.などの入声字を借れるものにやあらむ.よくたつぬべし
多配
倭名鈔に讃岐國郷名多配を多倍と訓り.配字漢音ハイ.呉
音ヘなり.書紀には.裴拜等の字をヘの假字に用られたり.
今按に韻鏡十三轉より十六轉までの〓海代灰賄隊佳蠏泰.
等のイ韻には.エ韻なるもまじれりと見ゆ.たとへば.才.采...
の字是なり.古へ共にサエと訓り.又裴字は合口音灰韻にて
歩回切なり.拜は隊韻にて布怪切なれば.并に音フワイとなる.
これをまた切むればハイとなる.しかれども.ハイを切めてヘ...
ならず.かゝればこの.裴拜等もフワエ.ハエにて終にヘとは
ならむ.才字を古への片假字にセに用るも.サエの切セとなる
故なるべし.又開階をケの 字に用るは.カエの切め.代 は
タエの切め.愛哀はアエの切.礼はラエの切.賣米はマエの切.
隈はウワエの切.などにはあらじか.されど.裴.拜.隈.等...
口音のフワエ.ウワエなどは.フワヱ.ウワヱ.とワヰウヱヲ...
かともいふべけれど.花をクヱ.帰をクヰ.和をクワ.などの...
ツヌフムユルウ.等の音の韻は.ワ行なれども.ウワ.クワ....
アなる故に.エ韻とすべし.今配字は.合口音隊韻にて普對
切.また切字脣音なれば.ハヒフヘホの行にて.フワイ.又切...
となる.此イ韻をエ韻とする時は.ハエの切ヘとなるものなり...
あれども.配は猶.漢音ハイなりとせば.ハイの切ヒなれば....
べからず.さらば漢音.五十連音の第一位なるは.合口音なれば
大かた第三位の同行の音となる.呉音の礼に因ときは.ハイは
フエなどに轉るべきか.フエの切やがてヘとなるなり.是等の...
おのれ思得たりとにはあらず.試に古の例をあげて猶.よく
しれらむ人のさだを待のみ.
そも〳〵.漢字に直音拗音の差別あれども.吾大御國の音より
見れば.皆.拗音なり.五十連音の中.ヤイユエヨ.ワヰウヱ...
の二行は拗音なれども.唐山の拗音に比ぶれば.猶直音なり.
此外の四十音は悉く單直の音なり.されば.唐山人の如くは
言がたき故に.かの拗音をも.直音になほして用ひられたり.
譬ば.水良玉.水長鳥の水字は.玉篇に尸癸切スヰなるを.
直音になほしてシとせり.されど猶.本音のまゝにスヰとも呼
べり.石字をシの假字に用たるも.イシのイを省けるにはあら...
セキの切シとなる故なり.韓人の.島津氏を石曼子と呼しも.
石はシの音.子は舊の唐音スなるを.今の唐音にヅウと
呼ゆゑに.石曼子は即ち島津なり.【子字は 似切音シにて....
にても古へは.障子.厨子.合子.など
音便によりて.清濁はかはれども.皆シと呼べり.後に唐音の...
も又.倚子.扇子を.イス.センス.など呼ぶことも.出来れ...
訛りて.ヅウと呼ぶ.かの國の
古音を失へることしるへし.】また雷杯等の字は.韻鏡合轉に...
なれば.雷は本音ルワイなれども.ルワの切ラなる故にライと...
杯はフワイなれば.フワを切めてハイと呼が如し.然れども猶.
拗音のまゝに呼字もあり.懐回等是なり.又法華経はホクヱ
キヤウ.源氏をグヱンジ.變化はヘングヱ.などの類ひ.物語...
たま〳〵拗音のまゝにも呼べり.是等のおもむきは.假字用格.
三音考.等に委曲にかゝれたり.されど字音の假字に.ンとムと
の差別をせられざりしは惜むべし.ンは御國になき音なり
とて.なべてムとせられたれども.ンはニ.んはに.の字の末...
にて.殊に字音のへのことなれば.何てふことにかはあらむ....
ざれば.舌内.脣内の差別なし.古書の例.こと〴〵に是を分...
をや.又悉曇字記に.短阿字.【上声短呼音近惡.】長阿字....
近屋.】短伊字.【上声近於翼反.】など有を見るに.吾大御...
オ.と単直に呼ことあたはざる故に.惡に近し.屋に近し.など
いひて入声の如くよぶ.是はおのづから.國土の異ひめなるべ...
この故に.彼邦人等.梵音を訳むるに.多く入声字を用たり.
然るに.近世の學者たちの著せる書等に.歌.或は者名.など悉
に入聲字を充たり.唐山には.御國の如く単直なる音なき
故に.せむかたなく入声字を充たるなり.されどそれも猥りに
然るには非ず.今その一をいはゞ. 字を阿勒迦と訳むるが如...
先この勒は入声にて.ロクなり.さて 字は素は. と と
二合の字にて. の上へ.半體の を加へたるものなり.さらば
アラキヤなれば.阿洛迦などの字を訳むべけれども.洛のラ
の韻アにて喉内声.クの韻はウ【ワ行】にて脣内声なれば.
舌内を超て.喉脣連属するときは不音便なる故に.勒字を
用て.ラを口に轉し.アロキヤと譯むるなり.勒字音ロの韻は
ヲにて脣内声.クの韻もまたともに脣内声なれば.是を
音便よろしとするが故なり.といへり.又我御國言を.支那人の
訳めたるも.天皇を主明樂美御徳.あめたらしひこといふ
を阿毎多利恩比孤.やまとを耶摩堆.また邪馬臺.つしまを
都斯麻.つくしを竹斯國.まつらを末盧國.など書る類ひ.
吾傭字の例と異なることなし.又かの國後世南宋といへる
時に.御國の僧安覺がいへる言を訳めたるを見るに.筆を分
直.墨を蘇彌.頭を加是羅.手を提.眼を媚.口を窟底.耳を
々。雨を下米.風を客安之.塩を洗和.酒を沙嬉.などいへる
たぐひ.世降りて音韻やゝ 差たれども.猶降のおもかげ
残れるところもあり.此後.蒙古に國を奪はれてより.訛音ます
〳〵出来て.凡て他邦の言を訳むるに.入声字をおほく用
たり.【入声字を多く用るきは.元主の名を勿必烈.または銕...
書るが如し.又轉訛の音は.尓.児.而.似.等の字をルと呼...
皆この格にならへり.且おらんだ学の徒.かの邦言を.訳むる...
または 蘭陀とかけり.阿は開口音なれば.オとは轉るべし....
ワなればヲと轉る例なり.かの邦人の語音いかゞ聞ゆるにや....
夫藍.など訳めたり.郎をランと呼は.喉内ウ韻をンに轉ず...
藍字と互に用るは違へり.藍は脣内声ラムなり.喉.舌.唇.の
差別もなく.猥に翻訳をするは.尾籠なるわざならずや.】か...
傭字のさまは.音韻をよく正し.拗音をば直音になほ
し.喉舌脣三内の字韻などそれ〳〵に轉し用る差別
ありて.猥ならぬものを.吾古へを學ばず.漢をのみまね
び得て.かしこの人に諾なはれむと思ふ故に.古人のごとく.
我物にすることあたはず.中々にも字のつかはれて.
彼が奴丁とならむは.いとあさましきわざになむ.
天保五年といふとしのきさらき
関万沙路誌
ンん.の二ツの假字は.ニ.に.の末を撥て.造れるならむと...
おく山のをかひにさわぐ蝉のこゑあなかまと にきく人もが...
附録
傭字例者.初.事乃次手遠母定須.其所墓止無久書鶴随尓.僻...
此附録叔母物斯都.
天保六年九月 嘉平田舎麼裟密
いようじれいは。はじめ。ことのついでをもさだめず。そこは...
このふろくをばものしつ
かへてのやのまさ...
芭蕉 杲
芭蕉.發昭.のことは前にいひつれど.おのれ音韻の學に踈け...
鐘禮
萬葉集に鐘禮能雨云々.また鐘禮とも書り.鐘は韻鏡第三轉合...
アイウエオの濁音はガギグゲゴとなるものか.】そも〳〵.喉...
さうび
古今集物名に.我はけさうひにそ見つる花の色をあだなるもの...
きちかう
同集に.あきちかう野はなりにけり白露のおける草葉も色かは...
けにごし
同集に.うちつけにこしとや花の色を見むおく白露のそむるは...
しをに
同集に.ふりはへていざ故郷の花見にとこしをにほひぞうつろ...
りうたむ はなかむし
同集に.吾宿の花ふみしたくとりうたむ野はなれけばやこゝに...
今私に按に.當時語言おほく音便にくづれて.ンとムとやゝ分...
三郎を今 サムラウ又 サブラウと 呼べり。又法華纖法に...
四十九日
拾遺集に.秋風のよもの山よりおのがじゝふくにちりぬる紅葉...
紅の色こきむめを折人の袖にはふかき香やとまるらむ.
春風の吹おこせむにさくら花となりくるしくぬしやおもはん.
山吹の花さく井手の里こそはやしうゐたりと思はざりけむ.
と見えたり.此古今は.今字脣内声なれば.コキムメにて字韻...
又同集に五葉の下に.二葉なる小松どもの侍けるを.子日にあ...
山家集
伊勢人はひかことしけりさゝくりのさゝにはならて柴とこ...
唯
神武紀に.曰唯唯而寐云々.これを.ヲゝトマヲストミテサメ...
由為ノ反ハ以ニ帰リテ.為ニ帰ラズ. 位ハ于為ノ反ニテ為ニ...
マガハシキ故ニ.古キ假字ニモ誤レル多シ.云々といへり.今...
命靈 使切属諧和 音弋隨反と見えたり.今弋随反ハユヰなり...
をいへるなり.命靈 .などいへる註は誤りなるべし.】かゝ...
声なること明らけし.されど此。オゝといふ言は.御國言なれ...
といへり.又玉篇に.應於陵切とあり.正韻に陵音令と見えた...
べし.そも〳〵.天の下の國とある國の人の聲音言語は.こと...
かゝれば.御國の古言の假字の知がたきは.又漢字の古音.悉...
礼記ニモ父命呼唯不諾トモ見エタリ
諾
萬葉集十六巻に.否藻諾藻隨欲可赦貌所見哉我藻将依.また何...
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岩波日本古典文学大辞典 高松政雄
国語学辞典・国語学大辞典 奥村三雄
国語学研究辞典・日本語学研究辞典 前田富祺
>http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokai...
ようじれい
傭字例 一巻 關藤政方《マサミチ》
音の「ん」と「む」との區別を主と考論したるものなり。附...
◎關藤政方の傳は「聲調編」の下にあり。
<<
>http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/syomokukai...
ようじれい 傭字例 一卷 附録
關政方《マサミチ》撰 天保六年自叙、兼松誠序、依田利...
この書は、ンム等の昔の區別より論じて、「蝉《セミ》」、「...
附録には、漢呉音圖の説によりて、「芭蕉」「杲」、「鍾禮《...
この書、首卷に足代弘訓、屋代弘賢の書翰をも序にかへて掲ぐ...
<<
関政方
新潮日本文学大辞典 補遺にて「政方をみよ」と。
*本文 [#c951ac86]
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/ingaku/yojirei/yoji...
大阪市立大学森文庫
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents...
金城学院大学本(国文学研究資料館)
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM...
>>
傭字例序
石川君達備中笠岡人也 来游余門一日手其兄關士常郎著傭字例...
丙申孟春之月
匠里依田利用撰
宮原龍書
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天保十三寅歳孟春新鐫
嘉平田舎翁著
傭字例 全
浪華 種玉堂
序
余嘗問輪池屋代翁國字ん字ン字所由出翁曰吾見佐理行成諸人之...
傭字者何傭之彼以達我〓也譬
如傭人苟随其乎性駆而使之雖
千百人唯吾所欲無不如志焉使
字之然苟達其音韻轉以用之
雖千栄字唯吾所令無不聴命
焉此古人傭字之妙所以不言萬
語無一舛差也夫古之賢達
合稽漢呉之音兼以悉曇之学
舌運筆寫神機話不可意
測其蹟存乎今昭々者日本書
紀古事記及萬葉集之類皆是
也中世此學漸廃古言亦〓轉
訛於是間新撰字鏡倭名類聚
鈔等之作其後数百年世道陵夷
禍亂薦臻而古訓掃地焉後又
四百五十年所雖世或小康未
及此之起慶元爾降治運日
隆文教漸闡至於元禄享保間
古訓之學大起矣當是時荷田
氏〓[風易]聲于平安契沖氏振響
于浪華加茂氏接至于江戸更於
唱導學徒輩出〓然其力而本
居氏間〓〓生後跨前人而著
述尤多如其字音假字用格三
音考實可謂起千古之廢矣吾
輩〓{弓翦}劣梯之得窺其一斑者耳
雖然愚者或有一得智者千慮
寧無一失如彼舌脣之韻混以
為一者蓋亦白圭之微〓[玉占]也
余於音韻雖不能解粗檢尋古
人傭字之例掲其一二以示子弟
非敢曰磨之〓[玉占]也天保六年
二月備中関政方自叙
香雪山内晉書
傭字例
蝉
せみは.蝉の字音を収(ヲサ)めたるか.又は.せみ〳〵と鳴聲...
第六巻に岸乃黄土粉二寳比天由加名(キシノハニフニニホヒテユ...
第十二巻に丹波道之(タニハヂノ)云々.また射去為海部之楫音...
讃丹弾敏の四字は.韻鏡に見えねども.寒翰珎等の韻の字なり...
是等のタン.カン.セン.などの如く撥(ハヌ)る音は.古へは...
べし.さて.五十音の中にしては.ナニヌネノの五音。やゝ鼻...
しか有て後に.今の平假字(ヒラカンナ)片假字(カタカンナ)と...
の末をはねてんに造れるものなり.されば.韻鏡十七轉より....
五音は.ナニヌネノよりは.同じく鼻に韻(ヒビ)く音なれども...
と訓めり.こはミを濁音に呼(ヨ)べるなり.マミムメモの濁音...
文
ふみは.踏(フミ)の義にて.古へを歴見するといふ意なり.故...
郷俗の語に老病々て不食になれるをブニの無なれるならむ...
旻樂
續日本後紀に太宰府馳傳言遣唐三箇舶.共指松浦郡旻樂埼發行...
ると云々.俊頼我日の本の島ならばとよめるは.日本にはあら...
考万葉集十六.自肥前国松浦縣美祢良久埼発舶云々.此国と云...
停二處遣唐之使従此停發到美祢良久(ミネラク)之濟(ワタリ)云...
とあり.是にてミネラクと訓べきこと明けし.そも〳〵
韻學者流.五十音の中にて.タラナの三行(ミクダリ)を舌音と
し.ハマの二行(フタクダリ)を脣音とせり.しからば仮字(カナ...
も.その差別(ワイタメ)あるべき事なり.本居氏の三音考にも...
曇の空涅槃點三内の説を引ていへらく.漢ノ對注ニ仰
講向等ノ字ヲ用ヒタルヲ喉内声ト云【此方ノ音ニテウノ韻ナル...
見桿等ノ字ヲ用ヒタルヲ舌内声ト云. 嚴劒等ノ字ヲ
用ヒタルヲ脣内声ト云.【此方ノ音ンノ韻ミナ舌内脣内ニ摂ス...
音ニテ分ツニ.仰等ハウノ韻ナレバ喉声ニ論ナキヲ.安等
等ハ共ニンノ韻ニシテ舌脣ノ差別ナシ.故ニ脣内声ヲハムトシ
舌内声ヲハントシテ是ヲ分カツナリ.然レトモ.ンハ全ク鼻声...
ソアレ.舌ニハサラニ関(アヅカ)ラザレバ.是ヲ舌内ニ充(アツ...
思フニ.舌内ヲハヌノ韻トスベシ.ヌハ舌声ナレバナリ云々....
つはらに論らひながら.旻樂をばいかで誤られけむ.旻は
舌内聲にて唇内聲にはあらす.悉曇舌内聲の例は沙
摩那(シャマナ)といふを沙門(シャモニ)と譯(ヲサ)め.舎枳也...
かごとし.摩那(マナ)に門字を充(ア)て.謨尼(モニ)に文字を...
ヌネノの舌音に収(ヲサ)まる故なり.ヌの韻をのみ舌内聲と
するはいかゞあらむ.よしやヌのみとせば.かの旻樂をば.
ミヌラクとこそ訓べけれ
桑門をもシヤモニと訓り桑をシヤと譯るは桑は本[又3]字に...
今は韻を略けるものなり釈字の例に同し
支那
梵語に.漢國を支那泥舎(.ナテイシャ)といへり.この泥舎は....
麼駄也泥舎(マダヤテイシャ).天竺國を[口皿]怒泥舎(キドテイ...
ことゝ見ゆ.支那(シナ)は按(オモフ)に晉の字音なるべし.佛...
て唐山(モロコシ)へ来たるは.後漢明帝の時なりといへども....
行(オコナ)はれたりしは.晋代より六朝の間.天竺の僧等おほ...
て.専ら翻譯のわざをせしことゞも見ゆ.今こゝにも
人の尊(タフト)むめる.法華経は晋の鳩麼羅汁(クマラジフ)と...
の翻訳せしなり.されば.晉字を梵音にうつして支那
といへるなるべし.晉は舌内声の字にて.門を摩那.文を
謨尼といふにおなじ.又按に.八字三昧經に.於此瞻部洲東
北方有國名大振郡云々.この大振郡は.大秦にて.大支那
といはむがごとし.漢書張騫傳に.益發使抵安息奄蔡
犂軒條支身毒國云々.とある註に.師古曰自安息以下五
國皆西域胡也.犂即大秦國也といへり.是によりて見れ
ば.本は秦字の音にや.されど秦晋ともに舌内聲なれ
ば.義は違(タカ)ふ事なし.また震旦とも書(カケ)り.是も支...
じ.那字の漢音ダなれば.シダとも.シナとも轉るなり.震
旦の二字.共に舌内聲なれども.韻を省(ハブ)きてシダと呼(ヨ)
べるなり.今俗シンダンと唱(トナ)ふるは僻事(ヒガコト)なり...
國言(ミクニゴト)にわたらぬことなれども.天竺の音は御國(ミ...
いとちかく.脣舌内の韻などのさま違(タガ)ふ事なければ.
因(チナミ)にいふなり.御(ミ)國にても信濃をシナヌ.雲梯を...
デ.民太をミノダ.雲飛をウネビなと訓るがごとし.此
雲民信等の字は.文欣真諄等の韻にて.共に舌内
聲なり.
近義
姓氏録に.近義首(オビト)新羅國王(コニキシ)角析王之後云々...
いかに訓べきにや.近比或人の訂正(タダ)せる本にコムギと訓...
按に.書紀に.任那(ミマナ)新羅(シラキ)百濟(クタラ)等の國...
書て.コニキシ又はコキシと訓り.通證に杜氏通典云百濟
王号於羅瑕百姓呼為(ヨヒナス)〓吉支といへり.旱岐.干岐は...
を省かれたるにて.やかて[牛建]吉支なり.[牛建]は.玉篇に...
ケン呉音コンなり.舌内声の字なればコニと轉る.故にコニギシ
と訓べし.干旱等も呉音コンなるべし.又カとコとは
常に通ふ例なれは.轉してコニとせしにも有べし.されば
この近義氏は新羅國王(シラキノコニキシ)の後なる故に.コニ...
姓氏を賜(タマ)ひて.近義の字を充(アテ)られたるものなるべ...
は玉篇に其謹切にて.漢音キン.呉音コン.欣韻にて舌内
声なり.かゝれば.是もコニギシと訓べし.下の支(シ)に充(ア...
省(ハブ)きたるは.干岐の例にひとし.且二字にさだめられし...
有べし.又同書に.温義といふ氏あり.是はヲヌギなるべし.後
世小野木といへる氏は.この温義の轉れるにや.野は古へはヌと
呼べり.温は合口音舌内聲の字なり。【假字用格ゐむ尹の條に...
ハいゆむノ音ナルヲ直音ニ轉シ
タル者ナリ.他ノ例ニヨレバいむナレトモ.是ハ姑ラクゐむト...
式ニ.大臣宣(ノル)侍座(シキヰン)ト云コトアリ.是ヲ北山抄...
カヽレタル。是ゐんノ假字ニテ合ヘリ.韻鏡ニモ合轉ニ属セリ...
今江次第を閲るに.内辨宣(ノル)之支井尓(シキヰニ)とかゝれ...
ことは.敷居(シキヰ)ニセヨ.又は敷居ニヲレ.などいふ義な...
て.後の詞を省ける也.今尹字は.舌内声のヰニといふ音韻を...
言とするものなり.尹字は韻鏡一八轉準韻舌内ンとなるなり.
今脣内ム韻とする時は.ヰムなり.さらばかの文義解難かるべ...
〓.〓斯。堅祖.等の氏あり.皆舌内の字なり考ふべし.
灘
今俗(ヨ)に.海上のいと廣らかなるを奈太(ナダ)といへり.遠...
磨灘(ハリマナダ).など是なり.この灘字は義(コトワリ)たが...
者達(.タチ)は洋字を書けり.そも〳〵奈太(ナダ)といふ称(ナ)...
海上のことゝ思へるは.中々に違(タガ)へるなるべし.古歌に...
あしのやの灘の塩やき.またなたの浦.云々などよみ
て.摂津(ツ)國の地名に今も灘といふ處あり.猶他國にも
多かり.吾郷人(.サトビト)ども.濱邉(ハマベ)の潮(ウシホ)の...
たひ出て.網打(アミウチ)するを.ナダウチといへり.奈太は...
か.なだむ.など活用(ハタラ)く詞(コトバ)にて.濱邉(ハマベ...
處(トコロ)をさしていへるにて.澳中(オキナカ)のことにはあ...
は.他丹切寒韻の字にて舌内声なれば.呉音ナンを轉(ウツ)
してナダとしたるなり.字を充(アテ)たるは誤(アヤマリ)には...
字の例になむ.そも舌内聲といふは.(音は)何にまれ.韻(ヒ...
内に収(ヲサ)まるをいふなり.脣内声も是に准(ナラ)ふべし.
安達
萬葉集十四巻に.安太多良乃祢尓布須思之(アダタラノネニフス...
美知乃久能安太多良末由美(ミチノクノアダタラマユミ)云々....
にて.後にアダチの真弓(マユミ)ともよみて.今の安達なるこ...
先達の説にて知られたり.さて安太多良(アダタラ)を安達と書(...
けるよしは.地名を二字に定められし時などに.安達の
二字に定めて.猶アダゝラとぞよめりけむ.そも安字は.
灘と同韻なれば.舌内声の例にて.ンをダに轉し用たる
なるべし.河内(カフチ)國の郡名.多治比(タヂヒ)を丹比と書...
を但馬と書るがごとし.丹但ともに舌内聲の字なれば.
ンをヂに轉したるなり.【ンは本.ニ字なる故にタチツテトに...
時は皆濁音となるなり.灘安丹但等是也.】
後世になりて.古言を失ひしより.安達の字のまゝに.
たやすく.アダチと唱(トナ)ることゝはなれりけむ.さて達字を
タラと訓(ヨム)よしは.達磨をダルマともダラマとも訓が如し.
ダルマもダラマも梵語なるを.唐山(モロコシ)にてやゝ近き音...
を充て.達磨と書(カケ)るなり.今の安達もこの例なり.又達は
寒桓韻の入声字なれば.舌内声にて.タラナの三行に
轉し用べき例植えに居減るが如し.
尓太遥越賣
萬葉集十三巻に.都追慈花尓太遥越賣作樂
花在可遥越賣(ツツジバナニホヘルヲトメサクラバナサカエヲト...
こは此歌の前に.茵花香未通女(ツツジバナニホヘルヲトメ)櫻...
歌と.その反歌と.又一首と有がまぎれて.一歌となれる
にて.尓太遥(ニホヘル)の遥は邉字の誤なるべし.ヘンをヘル...
し用る例.建字の處にいへるが如し.舌内声のンを.ラリ
ルレロの行(クダリ)に轉し用る例は漢韓等の字をカラと訓(ヨム...
如し.カラといふは.空殻(カラ)の義にて.彼邦をいやしめて...
國(クニ)といふ辞なり.と思へるは.傭字の例をしらぬなり.萬
葉集に.情進をサカシラとも訓り.なほ播磨をハリマ.
駿河をスルガ.得干をウカレ.人名仲満をナカマロ.と訓
る類ひおして知べし.さて越賣(ヲトメ)の越は入声字にて.ヱ...
ヱチ.ヲツ.ヲチ.など通例なり.舌内タチツテトの通韻に
てヲトと轉したるなり.凡て舌内入声のツは.タチツテト
に轉る例なり.設樂をシダラ.秩父をチゝブ.伊達をイ
ダテ.といふたぐひ准(ナゾラ)へ辨(ワキマ)ふべし.
狹殘
萬葉集第六巻に家持卿歌の序に.狹殘行宮といへる
あり.荒木田神主の槻落葉に.延喜式神名帳に.伊勢國
多氣(タケ)郡に佐々夫江(ササブエ)神社みえ.倭姫命(ヤマトヒ...
佐々牟江(マナヅルササムエ)<ノ>宮<ノ>前<ノ>葦原還行鳴(アシ...
郡大淀村の西.根倉(ネクラ)村.行部(イクベ)村の間に入江あ...
せる橋を.今猶,篠笛(ササブエ)の橋といふ.是古への頓宮の地...
云々といへり.今按に.この篠笛(ササフエ)<ノ>橋は.古への...
さも有べし.然(サレ)ど.狹殘を佐々牟江(ササムエ)なり.と...
らむ.残は寒韻の字にて昨安切サン舌内声なり.佐牟と
脣内には呼べからず.舌内のン韻.タラナの三行に轉る例を
猶いはゞ.書紀孝徳の御巻(ミマキ)に.人<ノ>名紫檀とあるを...
御紀(ミマキ)に辛檀努(シダマ)とあり.檀は寒韻なれば.ダヌ...
を知らせて.努字を添(ソヘ)て.かゝれたるなるべし.又神の...
素戔嗚(スサノヲ)<ノ>尊(ミコト)の戔字は在安切.是も寒韻に...
たるなり.又姓氏録に.丸部とある氏はワニベと訓なり.古事記
に丸迩臣(ワニノオミ)とみえたる迩字を省(ハブ)きて.丸字を...
葉集八巻に相佐和仁(アフサワニ)といふ辞を.十一巻に相狭丸(...
丸は胡官切本音ウワンなれどもウはおのづから省(ハブ)かる例な
れば.ワニと轉るなり.其他(ソノホカ).出雲風土記に近志呂(...
名見えたり.又薫衣香をクノエカウ.近衛をコノヱ.と訓
ことは人よく知れり.又日本紀竟宴歌に.段楊尓を多仁
野宇仁(タニヤウニ).と訓る類(タグヒ)みな舌内声の例なり....
殘は別地(コトトコロ)なるか.又は本書に脱誤などあるにやと...
佐々牟江(ササムエ)に字音を傭(ヤト)はゞ.脣内声の字を用べ...
聲の字は.侵覃咸嚴等の韻の上去入の字等なり.是らの
字韻には.ハマの二行を轉し用る例なり.伊参をイサマ.伊甚
をイジミ.南佐をナメサ.恵曇をヱトモなどのたぐひ是なり.
甜酒
書紀神代巻に.醸(カミテ)天甜酒(アマノタムザケヲ)甞之(ニヒ...
本紀の甜酒(タムサケ)<ハ>美酒也云々.倭名鈔に私記<ニ>甜酒<...
説文<ニ>〓甜同<シ>.切韻<ニ>〓<ハ>酒味長也といへる.又貞...
米都物云々.延喜式の多明米多明(ヨネタメ)酒等.また姓氏録...
称.云々.成務天皇御世仕奉(ツカヘマツリテ)大炊寮御飯香美...
いへるを引て.多無(タム)と多明(タメ)と通ひ米都(メツ)の切...
本居氏の古事記傳に.多米都物(タメツモノ)のことを説(イヘ)...
らの書等(ドモ)を引て多米(タメ)は.古への美味飲食をいへる名
なり云々.書紀の甜酒も本の訓は多米邪祁(タメザケ)なりけむ
を.後人さかしらに字音と意得て.多武(タム)とはよみなし
つらむ云々.とみえたり.今按にタムはタブに轉り.タメは
タベと轉り.又出羽<ノ>國<ノ>郡名.置賜をオイタミと訓めり...
タビとも轉るべし.是らのタビ.タブ.タベは賜の義なり.ハ...
濁の通(カヨヒ)にて.タミ.タム.タメとも云べし.しかれば...
賜酒にて.多牟(タム)酒ともいふべし.故(カレ)多牟(タム)と...
傭へるなり.甜字は玉篇に徒兼切テムなれども.同じ唇内声
覃韻の〓と同義なる故に.借音にてタムと轉したるものなり.
字音によれる訓にはあらず.傭字の例にこそ有けれ.かゝ
れば.多米佐介と訓(ヨマ)むもなでふことかあらむ.
習宜
姓氏録に.中臣(ナカトミ)<ノ>習宜<ノ>朝臣<ハ>.味瓊杵田命...
は.いかに訓べきにか.或人はシフギと訓れどもいかゞあらむ.
是も字音を傭へるには有べけれども.シフギといひては.い
かなる事とも聞えず.今試にいはゞ.シホゲなど訓べからむか.
殊(コト)に考へ得たるにはあらねど.味瓊杵田命(ウマシニキタ...
て.塩笥(シホゲ)を強(シヒ)て思ひよれるなり.又は塩氣(シホ...
字は脣内声に属る入声字なれば.フ韻なり.フをホに
轉し用たる例多し.入字は音シフなるを.一入再入と書
て.ヒトシホフタシホと訓み.又呉音ニフなれば.入鳥をニホ...
よめり.今用る鳰字は.入鳥の新製字なり.又備前國の郡
名.オホクを邑久とかけり.邑字は漢音イフ.呉音オフなり.
また播磨國郡名イヒボを揖保とかけり.是はイヒボとも.イ
フボとも呼べり.フ韻をホに轉し用る例.これらにて準ら
へ知るべし.又淡路國郷名賀集を加之乎とあるは.例に違
へる如くなれども.悉曇にてはワヰウヱヲを脣音とする
故に.入声のフ韻を.ワ行のヲに轉し用たるなるべし.抑.
脣内声の緝合葉洽業乏等の入声字のフ韻は.ハヒヘホに
轉し用る例なり.愛甲をアユカハ.雜賀をサヒカ.周匝をス
サヒ.の類にて推て知べし.さて又宜字はギの 字に用ひ
たるは.萬葉集に芳宜といふあれども.古書には大方ゲの
傭音としたり.今是等の例によりて.習宜もシホゲと訓
べきにはあらしかといふなり.
雜豆臘
萬葉集七巻旋頭歌に.住吉.波豆麻君之馬乗衣.雜豆臘.
漢女乎座而.縫衣叙.といへる歌を古點に.スミノエノ.ハヅ...
ガ.マソゴロモ.サニヅラフ.ヲトメヲスヱテ.ヌヘルコロモ...
達人たち.馬乗衣をウマノリゴロモ.【一説に.ワキアケゴロ...
ケツテキと訓ならへり.四位以下武官の服なり.といへり.】...
いとよろしきを.雜豆臘は猶古點のまゝに.サニツラフと訓り.
サニツラフといふことは.集中に.散釣相.散追良布.狹丹頬...
など書り.散は.舌内声の字なれば.サニと訓は.固よりなれ
ども.雜は.韻鏡三十九轉入声字にてサフと呼ぶ.脣内聲
なり.サッとつめて呼べども.そは入聲の常なり.脣内フ韻
は.ハヒフヘホに活き轉る例にて.伊雑をイサハ.雑賀をサヒ
カと轉し用たり.サニと轉し用し例なし.今按に.雜豆
臘はサヒヅラフ.又はサヘヅラフ.など訓べくや有む.ラフ
はルてふ言を延たるにて.サヒヅルヤ辛碓につき.などいへるに
同じく.サヒヅル漢女といふ義なるべし.かゝれば.漢女はカ
ラメと訓べくや.アヤメと訓むも.義は違ふ事なし.
芭蕉
芭蕉は.倭名鈔に.巴焦二音.倭名發勢乎波.とあり.古今集に
もバセヲバと書り.波字は葉のことなれば省くべきよし.餘材
鈔にもいへり.焦は韻鏡二十六轉宵韻の字なり.セヲの如く聞
ゆる故に.轉してかくいへる.襖子をアヲシ.といふも同じ....
韻に用るはアイウエオ等なれば.セオと書べけれども.拗音の
ヲをかけるは.直音の字なれども.御國の音より見ればなほ.
拗音なる故に.御國の拗音の韻を用しにや.御國の音韻は
紀伊.基肄.都宇.斗於.囎唹.弟翳.頴娃.などゝは韻けど...
韻かず.焦は子姚切にて.シエウのつゞまる音故に.拗音にて
おのづからセヲの如く聞ゆるなり.紀長谷雄卿の書玉へる.大藏
太夫の七十壽序にも.自の名を發昭と書玉へり.この昭字も同じ
宵韻の字にてセヲなり.又拾遺集に.紅梅をかくして.鴬の巣つ
くる枝を折たらばこをばいかでかうまむとすらむ.此紅字は
東韻の字にて.コウなれども.コオのごとく聞ゆる故に.セヲの
例にて.拗音にコヲとしるにや.しかれども又.高字をコの
假字に用たるは.カヲの切コなる故と見え.刀字をトの假字
に用るも.タヲの切トとなる故なり.かゝれば.蕭宵豪肴等
の字韻は本はカヲ.タヲ.ハヲ.サヲ.アヲ.なるか又はワヰ...
ヲの行を脣音とする.悉曇の切によりて.此ウ韻はおのづ
から.ヲとも.ウとも.轉るにやあらむ.
杲
萬葉集二巻に.見杲石山.六巻に在杲石.十巻に来鳴杲鳥.十
六巻に己蚊杲.また十巻に朝杲.など杲字をカホと訓り.玉
篇に古老切又公老切にてコウなり.今カホと訓は.音を借る
なり.と先達はいはれたれど.猶委しからず.按に杲字は.
韻鏡二十五轉晧韻にて.豪の上声の字なれば.セヲの例に
て.カヲとは轉し用べけれども.カホとは轉るべからず.【ホ...
フ韻轉用ノ例ナリ】書紀に考羅濟をカワラノワタリと訓り.古...
には加和羅とあり.此考字また晧韻なれば.カヲと轉し
用べきを.ワヰウヱヲの通音にて.カワとしたり.しかれば.
杲もカヲ.カワ.など轉用べきを.カホとする解きは例に違へ...
故又按に杲は本音カヲにて.悉曇家に.ワ行を脣音と
するによりて.脣内声の例をもて.ヲをホに轉してカホ
としたるなるべし.かゝれば.倭名鈔に筑前國郡名早良
をサハラと訓り.早字また晧韻の字なり.古事記に平群都
久宿称者平群臣.佐和良臣.云々等の祖也.とあるを.姓氏録...
良臣と書り.是考羅と同例なり.さるをサハラとかけるは.杲
と同例にて.ハヒフヘホとワヰウヱヲを相通はせて.轉用ひたる
なるべし.さておのれ韻學に踈ければ.こゝに疑はしき事
あり.杲考早等の例によれば.韻鏡二十五轉のウ韻は.脣内
声なるべきに.入声借音に鐸藥等の韻字を出せり.鐸藥は.
三十一轉唐陽韻の入声字なり.是は喉内声にて.相樂をサガ
ラ.相模をサガム.と訓が如く.悉曇にはカキクケコを喉音と...
故に陽韻の相字をサガと轉し用たり.さる故に喉内声に
属る入声クキ等の韻を.カケコと轉し用るなり.八尺をヤ
サカ.葛飾をカトシカ.周防國郷名益必をヤケヒト.色男をシコ
ヲ.烏徳をヲトコなどのたぐひなり.因て又さらに考ふるに.彼
二十五轉の借音は.韻を借れるには非ず.唯音のみを借れる
ものならむか.音のみを借とは.カウ.コウ.サウ.ソウ.タ...
のまぎらはしき故にコウにはあらず.カウなり.トウには
あらず.タウなりといふ切音をしらしめむとて.タク.ヤク.カ
ク.などの入声字を借れるものにやあらむ.よくたつぬべし
多配
倭名鈔に讃岐國郷名多配を多倍と訓り.配字漢音ハイ.呉
音ヘなり.書紀には.裴拜等の字をヘの假字に用られたり.
今按に韻鏡十三轉より十六轉までの〓海代灰賄隊佳蠏泰.
等のイ韻には.エ韻なるもまじれりと見ゆ.たとへば.才.采...
の字是なり.古へ共にサエと訓り.又裴字は合口音灰韻にて
歩回切なり.拜は隊韻にて布怪切なれば.并に音フワイとなる.
これをまた切むればハイとなる.しかれども.ハイを切めてヘ...
ならず.かゝればこの.裴拜等もフワエ.ハエにて終にヘとは
ならむ.才字を古への片假字にセに用るも.サエの切セとなる
故なるべし.又開階をケの 字に用るは.カエの切め.代 は
タエの切め.愛哀はアエの切.礼はラエの切.賣米はマエの切.
隈はウワエの切.などにはあらじか.されど.裴.拜.隈.等...
口音のフワエ.ウワエなどは.フワヱ.ウワヱ.とワヰウヱヲ...
かともいふべけれど.花をクヱ.帰をクヰ.和をクワ.などの...
ツヌフムユルウ.等の音の韻は.ワ行なれども.ウワ.クワ....
アなる故に.エ韻とすべし.今配字は.合口音隊韻にて普對
切.また切字脣音なれば.ハヒフヘホの行にて.フワイ.又切...
となる.此イ韻をエ韻とする時は.ハエの切ヘとなるものなり...
あれども.配は猶.漢音ハイなりとせば.ハイの切ヒなれば....
べからず.さらば漢音.五十連音の第一位なるは.合口音なれば
大かた第三位の同行の音となる.呉音の礼に因ときは.ハイは
フエなどに轉るべきか.フエの切やがてヘとなるなり.是等の...
おのれ思得たりとにはあらず.試に古の例をあげて猶.よく
しれらむ人のさだを待のみ.
そも〳〵.漢字に直音拗音の差別あれども.吾大御國の音より
見れば.皆.拗音なり.五十連音の中.ヤイユエヨ.ワヰウヱ...
の二行は拗音なれども.唐山の拗音に比ぶれば.猶直音なり.
此外の四十音は悉く單直の音なり.されば.唐山人の如くは
言がたき故に.かの拗音をも.直音になほして用ひられたり.
譬ば.水良玉.水長鳥の水字は.玉篇に尸癸切スヰなるを.
直音になほしてシとせり.されど猶.本音のまゝにスヰとも呼
べり.石字をシの假字に用たるも.イシのイを省けるにはあら...
セキの切シとなる故なり.韓人の.島津氏を石曼子と呼しも.
石はシの音.子は舊の唐音スなるを.今の唐音にヅウと
呼ゆゑに.石曼子は即ち島津なり.【子字は 似切音シにて....
にても古へは.障子.厨子.合子.など
音便によりて.清濁はかはれども.皆シと呼べり.後に唐音の...
も又.倚子.扇子を.イス.センス.など呼ぶことも.出来れ...
訛りて.ヅウと呼ぶ.かの國の
古音を失へることしるへし.】また雷杯等の字は.韻鏡合轉に...
なれば.雷は本音ルワイなれども.ルワの切ラなる故にライと...
杯はフワイなれば.フワを切めてハイと呼が如し.然れども猶.
拗音のまゝに呼字もあり.懐回等是なり.又法華経はホクヱ
キヤウ.源氏をグヱンジ.變化はヘングヱ.などの類ひ.物語...
たま〳〵拗音のまゝにも呼べり.是等のおもむきは.假字用格.
三音考.等に委曲にかゝれたり.されど字音の假字に.ンとムと
の差別をせられざりしは惜むべし.ンは御國になき音なり
とて.なべてムとせられたれども.ンはニ.んはに.の字の末...
にて.殊に字音のへのことなれば.何てふことにかはあらむ....
ざれば.舌内.脣内の差別なし.古書の例.こと〴〵に是を分...
をや.又悉曇字記に.短阿字.【上声短呼音近惡.】長阿字....
近屋.】短伊字.【上声近於翼反.】など有を見るに.吾大御...
オ.と単直に呼ことあたはざる故に.惡に近し.屋に近し.など
いひて入声の如くよぶ.是はおのづから.國土の異ひめなるべ...
この故に.彼邦人等.梵音を訳むるに.多く入声字を用たり.
然るに.近世の學者たちの著せる書等に.歌.或は者名.など悉
に入聲字を充たり.唐山には.御國の如く単直なる音なき
故に.せむかたなく入声字を充たるなり.されどそれも猥りに
然るには非ず.今その一をいはゞ. 字を阿勒迦と訳むるが如...
先この勒は入声にて.ロクなり.さて 字は素は. と と
二合の字にて. の上へ.半體の を加へたるものなり.さらば
アラキヤなれば.阿洛迦などの字を訳むべけれども.洛のラ
の韻アにて喉内声.クの韻はウ【ワ行】にて脣内声なれば.
舌内を超て.喉脣連属するときは不音便なる故に.勒字を
用て.ラを口に轉し.アロキヤと譯むるなり.勒字音ロの韻は
ヲにて脣内声.クの韻もまたともに脣内声なれば.是を
音便よろしとするが故なり.といへり.又我御國言を.支那人の
訳めたるも.天皇を主明樂美御徳.あめたらしひこといふ
を阿毎多利恩比孤.やまとを耶摩堆.また邪馬臺.つしまを
都斯麻.つくしを竹斯國.まつらを末盧國.など書る類ひ.
吾傭字の例と異なることなし.又かの國後世南宋といへる
時に.御國の僧安覺がいへる言を訳めたるを見るに.筆を分
直.墨を蘇彌.頭を加是羅.手を提.眼を媚.口を窟底.耳を
々。雨を下米.風を客安之.塩を洗和.酒を沙嬉.などいへる
たぐひ.世降りて音韻やゝ 差たれども.猶降のおもかげ
残れるところもあり.此後.蒙古に國を奪はれてより.訛音ます
〳〵出来て.凡て他邦の言を訳むるに.入声字をおほく用
たり.【入声字を多く用るきは.元主の名を勿必烈.または銕...
書るが如し.又轉訛の音は.尓.児.而.似.等の字をルと呼...
皆この格にならへり.且おらんだ学の徒.かの邦言を.訳むる...
または 蘭陀とかけり.阿は開口音なれば.オとは轉るべし....
ワなればヲと轉る例なり.かの邦人の語音いかゞ聞ゆるにや....
夫藍.など訳めたり.郎をランと呼は.喉内ウ韻をンに轉ず...
藍字と互に用るは違へり.藍は脣内声ラムなり.喉.舌.唇.の
差別もなく.猥に翻訳をするは.尾籠なるわざならずや.】か...
傭字のさまは.音韻をよく正し.拗音をば直音になほ
し.喉舌脣三内の字韻などそれ〳〵に轉し用る差別
ありて.猥ならぬものを.吾古へを學ばず.漢をのみまね
び得て.かしこの人に諾なはれむと思ふ故に.古人のごとく.
我物にすることあたはず.中々にも字のつかはれて.
彼が奴丁とならむは.いとあさましきわざになむ.
天保五年といふとしのきさらき
関万沙路誌
ンん.の二ツの假字は.ニ.に.の末を撥て.造れるならむと...
おく山のをかひにさわぐ蝉のこゑあなかまと にきく人もが...
附録
傭字例者.初.事乃次手遠母定須.其所墓止無久書鶴随尓.僻...
此附録叔母物斯都.
天保六年九月 嘉平田舎麼裟密
いようじれいは。はじめ。ことのついでをもさだめず。そこは...
このふろくをばものしつ
かへてのやのまさ...
芭蕉 杲
芭蕉.發昭.のことは前にいひつれど.おのれ音韻の學に踈け...
鐘禮
萬葉集に鐘禮能雨云々.また鐘禮とも書り.鐘は韻鏡第三轉合...
アイウエオの濁音はガギグゲゴとなるものか.】そも〳〵.喉...
さうび
古今集物名に.我はけさうひにそ見つる花の色をあだなるもの...
きちかう
同集に.あきちかう野はなりにけり白露のおける草葉も色かは...
けにごし
同集に.うちつけにこしとや花の色を見むおく白露のそむるは...
しをに
同集に.ふりはへていざ故郷の花見にとこしをにほひぞうつろ...
りうたむ はなかむし
同集に.吾宿の花ふみしたくとりうたむ野はなれけばやこゝに...
今私に按に.當時語言おほく音便にくづれて.ンとムとやゝ分...
三郎を今 サムラウ又 サブラウと 呼べり。又法華纖法に...
四十九日
拾遺集に.秋風のよもの山よりおのがじゝふくにちりぬる紅葉...
紅の色こきむめを折人の袖にはふかき香やとまるらむ.
春風の吹おこせむにさくら花となりくるしくぬしやおもはん.
山吹の花さく井手の里こそはやしうゐたりと思はざりけむ.
と見えたり.此古今は.今字脣内声なれば.コキムメにて字韻...
又同集に五葉の下に.二葉なる小松どもの侍けるを.子日にあ...
山家集
伊勢人はひかことしけりさゝくりのさゝにはならて柴とこ...
唯
神武紀に.曰唯唯而寐云々.これを.ヲゝトマヲストミテサメ...
由為ノ反ハ以ニ帰リテ.為ニ帰ラズ. 位ハ于為ノ反ニテ為ニ...
マガハシキ故ニ.古キ假字ニモ誤レル多シ.云々といへり.今...
命靈 使切属諧和 音弋隨反と見えたり.今弋随反ハユヰなり...
をいへるなり.命靈 .などいへる註は誤りなるべし.】かゝ...
声なること明らけし.されど此。オゝといふ言は.御國言なれ...
といへり.又玉篇に.應於陵切とあり.正韻に陵音令と見えた...
べし.そも〳〵.天の下の國とある國の人の聲音言語は.こと...
かゝれば.御國の古言の假字の知がたきは.又漢字の古音.悉...
礼記ニモ父命呼唯不諾トモ見エタリ
諾
萬葉集十六巻に.否藻諾藻隨欲可赦貌所見哉我藻将依.また何...
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