東関紀行
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齡は百年の半に近づきて、鬢の霜漸く冷しといへども、なす...
東山の邊なるすみかを出て、相坂の關うち過ぐる程に、駒ひ...
「いにしへのわらやのとこのあたりまで心をとむる相坂の...
東三條院【詮子一條御母】石山に詣でゝ、還御ありけるに、...
「さゞ波や大津の宮のあれしより名のみ殘れるしがの故郷...
曙の空になりて、せたの長橋うち渡すほどに、湖はるかにあ...
「世の中をこぎゆく舟によそへつゝながめし跡を又ぞ眺む...
此の程をも行き過ぎて、野路といふ所に至りぬ。草の原露し...
「東路の野路の朝露けふやさは袂にかゝるはしめなるらむ...
しの原といふ所をみれば、西東へ遙に長き堤なり。北には里...
「行く人もとまらぬ里となりしより荒れのみまさるのぢの...
鏡の宿に至りぬれば、昔なゝの翁のよりあひつゝ、老をいと...
「立ちよらでけふはすぎなむ鏡山しらぬ翁のかげは見ずと...
ゆき暮れぬれば、むさ寺といふ山寺のあたりにとまりぬ。ま...
「都いでゝいくかもあらぬ今夜だに片しきわびぬ床の秋風...
この宿を出でゝ、笠原の野原うちとほる程に、おいその杜と...
「かはらじなわがもとゆひにおく霜も名にしおいその杜の...
音にきゝし醒が井を見れば、蔭くらき木のしたの岩根より流...
「道のべの木陰の清水むすぶとてしばし凉まぬ旅人ぞなき...
かしは原といふ所を立ちて美濃國關山にもかゝりぬ。谷川霧...
「知らざりき秋の半の今宵しもかゝる旅ねの月をみむとは...
かやつの東宿の前を過ぐれば、そこらの人集まりて里も響く...
「花ならぬ色香もしらぬ市人のいたづらならでかへる家づ...
尾張國熱田の宮に至りぬ。神垣のあたり近ければ、やがて參...
「思ひ出のなくてや人の歸らまし法の形見をたむけおかず...
この宮を立ち出、濱路に趣く程、有明の月かげふけて、友な...
「古郷は日を經て遠くなるみがた急ぐ汐干の道ぞ苦しき」。
やがて夜の中に、二村山にかゝりて、山中などを越え過ぐる...
「玉くしげ二村山のほのぼのと明けゆく末は波路なりけり...
ゆきゆきて三河國八橋のわたりを見れば、在原業平、杜若の...
「花ゆゑに落ちし涙のかたみとや稻葉の露をのこしおくら...
源義種が此國の守にて下りける時、とまりける女のもとにつ...
「別れぢに茂りもはてゝ葛のはのいかでかあらぬ方にかへ...
ほんの川原にうち出でたれば、よもの望かすかにして山なく...
「植ゑおきし主なき跡の柳原猶そのかげを人やたのまん」。
豐河といふ宿の前をうち過ぐるに、あるものゝいふをきけば...
「覺束ないざ豐河のかはるせをいかなる人の渡りそめけむ...
參河遠江のさかひに、高師の山と聞ゆるあり。山中に越えか...
「岩づたひ駒うちわたす谷川の音もたかしの山にき来にけ...
橋本といふ所に行きつきぬれば、きゝわたりしかひありて、...
「行きとまる旅ねはいつもかはらねどわきて濱名の橋ぞす...
さても此の宿に一夜とまりたりしやどあり。軒ふりたる萱【...
「言のはの深き情は軒ばもる月の桂の色に見えにき」。
なごり多く覚えながら、此の宿をもうち出でゝ行過ぐる程に...
「たのもしな入江に立てるみをつくし深きしるしのありと...
天龍と名づけたるわたりあり。川ふかく流激しくみゆ。秋の...
「この河の早き流も世の中の人の心のたぐひとは見ず」。
遠江の國府いまの浦につきぬ。爰に宿かりて一日二日留まり...
「浪の音も松の嵐もいまの浦に昨日の里の名殘をぞきく」。
ことのまゝと聞ゆる社おはします。その御前をすぐとて、聊...
「ゆふだすきかけてぞたのむ今思ふことのまゝなる神のし...
小夜の中山は、古今集の歌に「よこほりふせる」とよまれた...
「踏みかよふ峯の梯とだえして雲に跡とふ佐夜の中山」。
此の山をも越えつゝ猶過ぎ行く程に菊川といふ所あり。去に...
「かきつくる形みも今はなかりけり跡は千年と誰かいひけ...
菊川をわたりて幾程もなく一村の里あり。二【こイ】はまと...
「日數ふる旅の哀れは大井川わたらぬ水も深き色かな」。
まへ島の宿を立ちて、岡部のいまずくをうち過ぐる程、かた...
「これぞこのたのむ木のもと岡べなる松の嵐よ心して吹け...
宇津の山を越ゆれば、蔦かえでは茂りて昔の跡たえず。かの...
「世を厭ふ心の奧やにごらましかゝる山邊のすまひならで...
此の庵のあたり幾程遠からず、峠といふ所に至りて、おほき...
「我もまたこゝをせにせむうつの山分けて色ある蔦の下露...
猶うちすぐる程に、ある木陰に、石を高く積み上げて、めに...
「哀にも空にうかれし玉梓の道のべにしも名をとゞめけり...
清見が關も過ぎうくてしばしやすらへば、沖の石、村々潮干...
「清見潟關とはしらでゆく人も心ばかりはとゝめおくらむ...
この關とほからぬ程に、興津といふ浦あり。海に向ひたる家...
「おきつ【きよみイ】潟いそべに近きいは【たびイ】枕か...
こよひは更にまどろむ間だになかりつる、草の枕のまろぶし...
「沖つ風けさあら磯の岩づたひ浪わけ衣ぬれぬれぞゆく」。
神原といふ宿の前をうちとほる程に、おくれたる者まちつけ...
「さゆる夜に誰こゝにしもふしわひて高ねの雪を思ひやり...
田子の浦にうち出でゝふじの高ねを見れば、時わかぬ雪なら...
「ふじのねの風に漂ふ白雲を天つ乙女の袖かとぞみる」。
浮嶋が原はいづくよりもまさりてみゆ。北はふじの麓にて、...
「影ひたす沼の入江にふじのねの煙も雲も浮嶋が原」。
やがて此の原につきて千本の松原といふ所あり。海の渚遠か...
「見渡せば千本の松の末とほみみどりにつゞく波の上かな...
車返しと云ふ里あり。或る家に宿りたれば、網つりなどいと...
「これぞこの釣するあまの苫庇いとふありかや袖に殘らむ...
伊豆の國府に至りぬれば、三嶋の社の御しめうちおがみ奉る...
「せきかけし苗代水の流れきて又天下る神ぞこの神」。
かぎりある道なれば、この砌をも立ち出でゝ猶ゆきすぐる程...
「今よりは思ひ亂れし蘆の海の深き惠を神にまかせて」。
此の山もこえおりて湯本といふ所にとまりたれば、大山おろ...
「それならぬ頼みはなきを古郷の夢路ゆるさぬ瀧の音かな...
此の宿をも立ちて、鎌倉につく。日の夕つ方雨俄に降りて、...
「さびしさはすぎこし方の浦々もひとつ眺めの沖のつり舟。
玉よする三浦が崎の波間より出でたる月の影のさやけさ...
抑鎌倉のはじめを申せば、故右大將家【頼家】ときこえ給ふ...
かやうの事どもを見きくにも、心とまらずしもは無けれども、...
「歸るべき春をたのむの雁がねもなきてや旅の空にいでに...
かゝる程に神無月の二十日あまりの頃、はからざるにとみの...
「故郷にかへる山ぢの木がらしに思はぬ外の錦をやきむ」。
十月二十三日の曉、すでに鎌倉を立ちて都へ赴くに、宿の障...
「なれぬれは都を急ぐ今朝なれどさすが名残のをしき宿か...
RIGHT:国文大観
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齡は百年の半に近づきて、鬢の霜漸く冷しといへども、なす...
東山の邊なるすみかを出て、相坂の關うち過ぐる程に、駒ひ...
「いにしへのわらやのとこのあたりまで心をとむる相坂の...
東三條院【詮子一條御母】石山に詣でゝ、還御ありけるに、...
「さゞ波や大津の宮のあれしより名のみ殘れるしがの故郷...
曙の空になりて、せたの長橋うち渡すほどに、湖はるかにあ...
「世の中をこぎゆく舟によそへつゝながめし跡を又ぞ眺む...
此の程をも行き過ぎて、野路といふ所に至りぬ。草の原露し...
「東路の野路の朝露けふやさは袂にかゝるはしめなるらむ...
しの原といふ所をみれば、西東へ遙に長き堤なり。北には里...
「行く人もとまらぬ里となりしより荒れのみまさるのぢの...
鏡の宿に至りぬれば、昔なゝの翁のよりあひつゝ、老をいと...
「立ちよらでけふはすぎなむ鏡山しらぬ翁のかげは見ずと...
ゆき暮れぬれば、むさ寺といふ山寺のあたりにとまりぬ。ま...
「都いでゝいくかもあらぬ今夜だに片しきわびぬ床の秋風...
この宿を出でゝ、笠原の野原うちとほる程に、おいその杜と...
「かはらじなわがもとゆひにおく霜も名にしおいその杜の...
音にきゝし醒が井を見れば、蔭くらき木のしたの岩根より流...
「道のべの木陰の清水むすぶとてしばし凉まぬ旅人ぞなき...
かしは原といふ所を立ちて美濃國關山にもかゝりぬ。谷川霧...
「知らざりき秋の半の今宵しもかゝる旅ねの月をみむとは...
かやつの東宿の前を過ぐれば、そこらの人集まりて里も響く...
「花ならぬ色香もしらぬ市人のいたづらならでかへる家づ...
尾張國熱田の宮に至りぬ。神垣のあたり近ければ、やがて參...
「思ひ出のなくてや人の歸らまし法の形見をたむけおかず...
この宮を立ち出、濱路に趣く程、有明の月かげふけて、友な...
「古郷は日を經て遠くなるみがた急ぐ汐干の道ぞ苦しき」。
やがて夜の中に、二村山にかゝりて、山中などを越え過ぐる...
「玉くしげ二村山のほのぼのと明けゆく末は波路なりけり...
ゆきゆきて三河國八橋のわたりを見れば、在原業平、杜若の...
「花ゆゑに落ちし涙のかたみとや稻葉の露をのこしおくら...
源義種が此國の守にて下りける時、とまりける女のもとにつ...
「別れぢに茂りもはてゝ葛のはのいかでかあらぬ方にかへ...
ほんの川原にうち出でたれば、よもの望かすかにして山なく...
「植ゑおきし主なき跡の柳原猶そのかげを人やたのまん」。
豐河といふ宿の前をうち過ぐるに、あるものゝいふをきけば...
「覺束ないざ豐河のかはるせをいかなる人の渡りそめけむ...
參河遠江のさかひに、高師の山と聞ゆるあり。山中に越えか...
「岩づたひ駒うちわたす谷川の音もたかしの山にき来にけ...
橋本といふ所に行きつきぬれば、きゝわたりしかひありて、...
「行きとまる旅ねはいつもかはらねどわきて濱名の橋ぞす...
さても此の宿に一夜とまりたりしやどあり。軒ふりたる萱【...
「言のはの深き情は軒ばもる月の桂の色に見えにき」。
なごり多く覚えながら、此の宿をもうち出でゝ行過ぐる程に...
「たのもしな入江に立てるみをつくし深きしるしのありと...
天龍と名づけたるわたりあり。川ふかく流激しくみゆ。秋の...
「この河の早き流も世の中の人の心のたぐひとは見ず」。
遠江の國府いまの浦につきぬ。爰に宿かりて一日二日留まり...
「浪の音も松の嵐もいまの浦に昨日の里の名殘をぞきく」。
ことのまゝと聞ゆる社おはします。その御前をすぐとて、聊...
「ゆふだすきかけてぞたのむ今思ふことのまゝなる神のし...
小夜の中山は、古今集の歌に「よこほりふせる」とよまれた...
「踏みかよふ峯の梯とだえして雲に跡とふ佐夜の中山」。
此の山をも越えつゝ猶過ぎ行く程に菊川といふ所あり。去に...
「かきつくる形みも今はなかりけり跡は千年と誰かいひけ...
菊川をわたりて幾程もなく一村の里あり。二【こイ】はまと...
「日數ふる旅の哀れは大井川わたらぬ水も深き色かな」。
まへ島の宿を立ちて、岡部のいまずくをうち過ぐる程、かた...
「これぞこのたのむ木のもと岡べなる松の嵐よ心して吹け...
宇津の山を越ゆれば、蔦かえでは茂りて昔の跡たえず。かの...
「世を厭ふ心の奧やにごらましかゝる山邊のすまひならで...
此の庵のあたり幾程遠からず、峠といふ所に至りて、おほき...
「我もまたこゝをせにせむうつの山分けて色ある蔦の下露...
猶うちすぐる程に、ある木陰に、石を高く積み上げて、めに...
「哀にも空にうかれし玉梓の道のべにしも名をとゞめけり...
清見が關も過ぎうくてしばしやすらへば、沖の石、村々潮干...
「清見潟關とはしらでゆく人も心ばかりはとゝめおくらむ...
この關とほからぬ程に、興津といふ浦あり。海に向ひたる家...
「おきつ【きよみイ】潟いそべに近きいは【たびイ】枕か...
こよひは更にまどろむ間だになかりつる、草の枕のまろぶし...
「沖つ風けさあら磯の岩づたひ浪わけ衣ぬれぬれぞゆく」。
神原といふ宿の前をうちとほる程に、おくれたる者まちつけ...
「さゆる夜に誰こゝにしもふしわひて高ねの雪を思ひやり...
田子の浦にうち出でゝふじの高ねを見れば、時わかぬ雪なら...
「ふじのねの風に漂ふ白雲を天つ乙女の袖かとぞみる」。
浮嶋が原はいづくよりもまさりてみゆ。北はふじの麓にて、...
「影ひたす沼の入江にふじのねの煙も雲も浮嶋が原」。
やがて此の原につきて千本の松原といふ所あり。海の渚遠か...
「見渡せば千本の松の末とほみみどりにつゞく波の上かな...
車返しと云ふ里あり。或る家に宿りたれば、網つりなどいと...
「これぞこの釣するあまの苫庇いとふありかや袖に殘らむ...
伊豆の國府に至りぬれば、三嶋の社の御しめうちおがみ奉る...
「せきかけし苗代水の流れきて又天下る神ぞこの神」。
かぎりある道なれば、この砌をも立ち出でゝ猶ゆきすぐる程...
「今よりは思ひ亂れし蘆の海の深き惠を神にまかせて」。
此の山もこえおりて湯本といふ所にとまりたれば、大山おろ...
「それならぬ頼みはなきを古郷の夢路ゆるさぬ瀧の音かな...
此の宿をも立ちて、鎌倉につく。日の夕つ方雨俄に降りて、...
「さびしさはすぎこし方の浦々もひとつ眺めの沖のつり舟。
玉よする三浦が崎の波間より出でたる月の影のさやけさ...
抑鎌倉のはじめを申せば、故右大將家【頼家】ときこえ給ふ...
かやうの事どもを見きくにも、心とまらずしもは無けれども、...
「歸るべき春をたのむの雁がねもなきてや旅の空にいでに...
かゝる程に神無月の二十日あまりの頃、はからざるにとみの...
「故郷にかへる山ぢの木がらしに思はぬ外の錦をやきむ」。
十月二十三日の曉、すでに鎌倉を立ちて都へ赴くに、宿の障...
「なれぬれは都を急ぐ今朝なれどさすが名残のをしき宿か...
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