#author("2021-08-09T23:47:15+09:00","default:kuzan","kuzan") 石垣謙二 序 一 「から」の原義 二 「から」の變邁 三 「ながら」の變遷 >> 現代において動作の出發點や事件の原因をあらはす助詞とみとめられてゐる「から」は、その成立が比較的あたらしいものと考へられるのであるが、すでに上代から一種の「から」といふ語があり、すくなくも現在の「から」と連絡ありと見るのが常識になつてゐる。 しかるに「から」の語義をみると、きはめて多岐にわたつてをり、たとへば『大日本國語辭典』のごとき、その品詞分類からして助詞と接尾辭の二つにわかち、助詞の項には「二つの間を移り行く意を表はす語」と註して「より」と釋し、接尾辭の項は、さらにこれを二分して、一は「或る語に添へて、其れを副詞とする語」と註して「に因りて・の故に」、「あひだ(間)」、「ながら(にも拘らずの義)」等の諸義をあげ、他は「或る語に添へて、其れを名詞とする語」と註して「人倫のつづきあひ」、「しな・くらゐ・身分・分際」の兩義をしめしてゐる。 かやうに多義を有するのは、辭典の性質上各時代の用法を網羅したためとも考へられるが、同辭典における引用例を檢するに、いづれの語義の場合にも上代からすでに用例のあることをしめしてをり、また、こころみに『萬葉集略解」について集中個々の「から」をいかに釋してゐるかを通覽しても、 <<