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[[谷崎潤一郎]]

「舞子はんは京都に限りますなあ。東京の雛妓《おしやく》はとても抗《かな》ひまへん」
と長田君は、西京かぶれのした口調で感嘆の聲を放つ。


着京早々、手きびしいところを見せ付けられるのかと、大いに恐縮しながら、ぺら〳〵喋舌《しやぺ》る[[京言葉]]を、私はビールに陶然と醉つて、默つて拜聽して居た。若い方のは、今夜都踊に出るとかで、其の支度の儘の艶な頭である。先づ祗園では十人の指の中へ數へられる一流所の女ださうだが、肌理《きめ》の細かいのは勿論の事、鼻筋が通つて眼元がばつちりと冴えて  唇の薄い、肉附のいゝ美人である。外の一人は、黒の縞のお召を着た年増で、此れはなか〳〵好く喋る。「あんたはん」とか、「どないにしやはつたら」とか、舌たるい辯を用ゐて東京の藝者に負けずに冗談も云へば、輕口も叩く。


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