上田萬年「言語学者としての新井白石」
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上田萬年
>>
今ではなくなられましたが、もと私の師匠でありました、伯林...
>>
日本人の独りだちで為した精神的作動の中では、此言語学上に...
<<
と書かれました。私には、今茲に所謂他の学域なる者が、果し...
さりながら此名誉ある日本語学の研窮の歴史は、このほんもと...
其一番よき例は、今日私の論題と致した新井白石であります。...
そこで私は自分の無学不才をも顧みず、茲に此大先生が言語学...
しかし其前に一言御断りを致しておきたきは、私が白石を観察...
次には此人の履歴でありますが、それも今は委敷陳べませぬ。
かれが土屋侯の足軽の子たりし事、其幼少の頃非常に発明なり...
西洋では英国で彼のオリバー、クロンウェルの死んだ一年前 の...
欧羅巴で言語学が建立されましたのは、
フンボルト W. Humbolt 1767-1835
グリム J. Grimm 1785-1863
ボツプ F. Bopp 1791-1867
以後の事で、今泰西で言語学の誇りて居ります学説は、多くは...
大部前置きが長引きましたが、これより本領に立ち入らうと思...
偖て白石が書きました書籍の中で、直接間接に言語学と関係あ...
采覧異言 正徳三年三月 成 一七一三(西暦)
西洋紀聞 正徳五年 成 一七一五
古史通 享保元年 成 一七ニ八
東雅 享保二年 成 一七一七
東音譜 享保四年十二月 成 一七二〇
同文通考 未詳(宝暦十年出版 一七六〇)
等でありますが、右の中采覧異言と西洋紀聞とは、外来語研究...
私は先づ右の書籍中より、東雅、殊にその序論を取出て、お話...
偖て東雅を読み、東雅中の学説に就きて論弁致さうとせらるゝ ...
此窮厄の際の著述著、此参考書に冨まぬ時に書きあげた白石の...
今私が東雅序論の中で、白石のおもな意見を箇条だてしてお話...
第壱 白石は言に種類のある事を認めます。白石は申します に...
>>
天下の言には、古言あり、今言あり、其古今の間において、又...
<<
此上にて白石が爾雅を襲へる事は事実であります。しかも爾雅...
第二 白石は語源解釈法に一定見を有ちて居りました。白石は...
旧事記 古事記 日本紀 姓氏録
古語拾遺 風土記 万葉集
等の上に材料を求め、猶これらの上より洩れた所を論じようと...
東雅を御覧になります皆様は、義不詳と申す語が大層多く用ゐ...
かく注意に注意を致しても、それでもあやまる事があるのは、...
第三 白石は言に通ず、先づ須く世を論ずべしといふ説を有ち...
>>
旧事記古事記日本紀等の書に見へし太古の語言の如きも、其書...
<<
と申して古書の言語中に既に新古の差別がありますのを認め、...
>>
古をさる事やゝ遠うして、海外の人のゆきかよふ事ありしより...
<<
と申して、第一に三韓語が日本語に接しました事を申し、次に
>>
六経の学の伝はれるより後、百済の博士等各其学をもて来り仕...
<<
と申して、第二に漢学が日本語に及ぼせる影響の概畧を陳べ、...
>>
それより後仏氏の書また伝はれる、梵語のごときも其教と共に...
<<
と申して、第三に梵語並に宋元の音が日本語中に侵入し来りし...
>>
近世に及びては、西南洋の蕃語も俗用行はれしありけり
<<
とて、玻璃をビードロといひ、毛布をトロメントといふ、致塊...
>>
されば我国太古の初より今世に至るまで、五方雅俗の言、風と...
<<
と申します、実に見事な意見ではありませぬか。しかし白石の...
>>
我師ののたまひしは、我年十二三の時に、貞徳のいひし事ある...
<<
とあります、此に至りましては、われ〳〵はたゞ嘆服の外あり...
しかし以上申し述べました白石の説、即ち言を論ずるまづ須く...
第四 白石の声音論 白石は和漢洋の声音を論じて、東方の言...
さうは申しますものゝ、白石も
>>
凡そ言詞の間、声音の相成る所にあらずといふものなし、我国...
<<
と申します。従つて白石が転音の上の見識も、誠に見事なのが...
>>
我国古今の言、其声音の転ぜし殊に多かり、その変を尽さんに...
<<
と申し、そして音を軽重により、清濁と清濁相半とにより、緩...
序でに東音譜のことを附け加へて申しあげ置きますが、此上で...
猶一つ序でに申し上げて置きますが、此の声音変化の上では、...
此上には余程おもしろいことも沢山ありますが、余り岐路に入...
第五 白石は言と詞との区別をいたしました。白石の申しますに
>>
言といひ詞といふ義をもよくわきまふべき事なり、音発為言言...
<<
と申し、さて第一に太古の言の如きは、其音単出して則ち言と...
第六 白石は漢学の跋扈を述べて、日本語の為に其萎靡不振を ...
>>
古語拾遺に、"書契已来、浮華競興、顧問故実、靡識根源"とい...
<<
と申して、猶語をつき
>>
我国の古言其義隠れ失せし事、漢字行はれて古文廃せしによれ...
<<
と申します。実にあつぱれなる見識と申すより外ありませぬ。...
白石は右の通り、漢文が我が日本の古語保存を妨げた事跡を論...
>>
細かにこれを論じなむには、此語と彼字と主客の分なき事あた...
<<
とあります。此の白石の言葉を聞き、此上に深く覚悟する処の...
其他東雅に於て申しますことは、白石の漢音考、韓語考、或は...
>>
美昔遇和蘭人、獲観其国字、因請以其字写東方音韻、図第一行...
<<
の一節があるによつてもわからうと存じます。それはまづどう...
>>
中国之書本于象、以形兼声、故字多而音少、外国之書由於音、...
<<
とありますのは実に名言で此点ではかれが音標字(ホノグラフ...
>>
五方之音、本非文字之可該、音託於字、不如音托於音之近
<<
と申した処から見れば、大概は其意見のあつた処が察せられま...
語源論者、或は音韻学者としての白石は先づざつと以上に述べ...
最後に申し述べて置かうと存じますのは、古史通と采覧異言及 ...
以上は白石が言語学に関して、抱きました意見の一理に過ぎま...
以上述べました処を御覧になりますと、いかに白石が卓越なる...
併しながら、白石の言語学上の意見は幾多の点より破れなけれ...
強ひて私に白石の短処であつた処を申せといふならば、
第一 白石の語原上の研究が、益軒の釈名と同じく、主として...
第二 白石は歴史的研究法には充分着眼いたしましたが、勿論...
第三 白石が、其先輩であつた契沖のやうに、仮字遣ひの上の...
かやうな批評は、まづなくてもよいことゝして、つまる処日本...
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上田萬年
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今ではなくなられましたが、もと私の師匠でありました、伯林...
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日本人の独りだちで為した精神的作動の中では、此言語学上に...
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と書かれました。私には、今茲に所謂他の学域なる者が、果し...
さりながら此名誉ある日本語学の研窮の歴史は、このほんもと...
其一番よき例は、今日私の論題と致した新井白石であります。...
そこで私は自分の無学不才をも顧みず、茲に此大先生が言語学...
しかし其前に一言御断りを致しておきたきは、私が白石を観察...
次には此人の履歴でありますが、それも今は委敷陳べませぬ。
かれが土屋侯の足軽の子たりし事、其幼少の頃非常に発明なり...
西洋では英国で彼のオリバー、クロンウェルの死んだ一年前 の...
欧羅巴で言語学が建立されましたのは、
フンボルト W. Humbolt 1767-1835
グリム J. Grimm 1785-1863
ボツプ F. Bopp 1791-1867
以後の事で、今泰西で言語学の誇りて居ります学説は、多くは...
大部前置きが長引きましたが、これより本領に立ち入らうと思...
偖て白石が書きました書籍の中で、直接間接に言語学と関係あ...
采覧異言 正徳三年三月 成 一七一三(西暦)
西洋紀聞 正徳五年 成 一七一五
古史通 享保元年 成 一七ニ八
東雅 享保二年 成 一七一七
東音譜 享保四年十二月 成 一七二〇
同文通考 未詳(宝暦十年出版 一七六〇)
等でありますが、右の中采覧異言と西洋紀聞とは、外来語研究...
私は先づ右の書籍中より、東雅、殊にその序論を取出て、お話...
偖て東雅を読み、東雅中の学説に就きて論弁致さうとせらるゝ ...
此窮厄の際の著述著、此参考書に冨まぬ時に書きあげた白石の...
今私が東雅序論の中で、白石のおもな意見を箇条だてしてお話...
第壱 白石は言に種類のある事を認めます。白石は申します に...
>>
天下の言には、古言あり、今言あり、其古今の間において、又...
<<
此上にて白石が爾雅を襲へる事は事実であります。しかも爾雅...
第二 白石は語源解釈法に一定見を有ちて居りました。白石は...
旧事記 古事記 日本紀 姓氏録
古語拾遺 風土記 万葉集
等の上に材料を求め、猶これらの上より洩れた所を論じようと...
東雅を御覧になります皆様は、義不詳と申す語が大層多く用ゐ...
かく注意に注意を致しても、それでもあやまる事があるのは、...
第三 白石は言に通ず、先づ須く世を論ずべしといふ説を有ち...
>>
旧事記古事記日本紀等の書に見へし太古の語言の如きも、其書...
<<
と申して古書の言語中に既に新古の差別がありますのを認め、...
>>
古をさる事やゝ遠うして、海外の人のゆきかよふ事ありしより...
<<
と申して、第一に三韓語が日本語に接しました事を申し、次に
>>
六経の学の伝はれるより後、百済の博士等各其学をもて来り仕...
<<
と申して、第二に漢学が日本語に及ぼせる影響の概畧を陳べ、...
>>
それより後仏氏の書また伝はれる、梵語のごときも其教と共に...
<<
と申して、第三に梵語並に宋元の音が日本語中に侵入し来りし...
>>
近世に及びては、西南洋の蕃語も俗用行はれしありけり
<<
とて、玻璃をビードロといひ、毛布をトロメントといふ、致塊...
>>
されば我国太古の初より今世に至るまで、五方雅俗の言、風と...
<<
と申します、実に見事な意見ではありませぬか。しかし白石の...
>>
我師ののたまひしは、我年十二三の時に、貞徳のいひし事ある...
<<
とあります、此に至りましては、われ〳〵はたゞ嘆服の外あり...
しかし以上申し述べました白石の説、即ち言を論ずるまづ須く...
第四 白石の声音論 白石は和漢洋の声音を論じて、東方の言...
さうは申しますものゝ、白石も
>>
凡そ言詞の間、声音の相成る所にあらずといふものなし、我国...
<<
と申します。従つて白石が転音の上の見識も、誠に見事なのが...
>>
我国古今の言、其声音の転ぜし殊に多かり、その変を尽さんに...
<<
と申し、そして音を軽重により、清濁と清濁相半とにより、緩...
序でに東音譜のことを附け加へて申しあげ置きますが、此上で...
猶一つ序でに申し上げて置きますが、此の声音変化の上では、...
此上には余程おもしろいことも沢山ありますが、余り岐路に入...
第五 白石は言と詞との区別をいたしました。白石の申しますに
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言といひ詞といふ義をもよくわきまふべき事なり、音発為言言...
<<
と申し、さて第一に太古の言の如きは、其音単出して則ち言と...
第六 白石は漢学の跋扈を述べて、日本語の為に其萎靡不振を ...
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古語拾遺に、"書契已来、浮華競興、顧問故実、靡識根源"とい...
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と申して、猶語をつき
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我国の古言其義隠れ失せし事、漢字行はれて古文廃せしによれ...
<<
と申します。実にあつぱれなる見識と申すより外ありませぬ。...
白石は右の通り、漢文が我が日本の古語保存を妨げた事跡を論...
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細かにこれを論じなむには、此語と彼字と主客の分なき事あた...
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とあります。此の白石の言葉を聞き、此上に深く覚悟する処の...
其他東雅に於て申しますことは、白石の漢音考、韓語考、或は...
>>
美昔遇和蘭人、獲観其国字、因請以其字写東方音韻、図第一行...
<<
の一節があるによつてもわからうと存じます。それはまづどう...
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中国之書本于象、以形兼声、故字多而音少、外国之書由於音、...
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とありますのは実に名言で此点ではかれが音標字(ホノグラフ...
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五方之音、本非文字之可該、音託於字、不如音托於音之近
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と申した処から見れば、大概は其意見のあつた処が察せられま...
語源論者、或は音韻学者としての白石は先づざつと以上に述べ...
最後に申し述べて置かうと存じますのは、古史通と采覧異言及 ...
以上は白石が言語学に関して、抱きました意見の一理に過ぎま...
以上述べました処を御覧になりますと、いかに白石が卓越なる...
併しながら、白石の言語学上の意見は幾多の点より破れなけれ...
強ひて私に白石の短処であつた処を申せといふならば、
第一 白石の語原上の研究が、益軒の釈名と同じく、主として...
第二 白石は歴史的研究法には充分着眼いたしましたが、勿論...
第三 白石が、其先輩であつた契沖のやうに、仮字遣ひの上の...
かやうな批評は、まづなくてもよいことゝして、つまる処日本...
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