岡島昭浩「近世唐音の重層性」
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[[岡島昭浩]]「[[近世唐音]]の 重層性」([[『語文研究』]]六...
http://ci.nii.ac.jp/naid/120000981590
日本漢字音史における唐音は、普通、中世唐音と近世唐音と...
しかし、このうち近世唐音に関して言えば、それが一様な性...
筆者はこれら近世唐音資料について調べていくうちに、これ...
一
先学により指摘されていることであるが、江戸時代の唐音関...
華音者俗所謂唐音也。其音多品。とある。本居宣長の『漢字...
西川如見の「華夷通商考」では中国の十五省の言語について...
文雄は杭州音を「正音」として韻鏡研究をした訳だが、『三...
『四書唐音弁』の南京音と浙江音の比較は高松政雄氏が詳細...
「四書唐音弁」が二音を併記した理由は明らかではないが、...
二
本稿で使用した資料は以下の十五種である。
[一] 寛文二年版禅林課誦 大本一冊 九州大学蔵
寛文二年壬寅林鐘吉旦
二條通鶴尾町田原仁左衛門刻
「朝課」「暮課」「朔望儀」「雑集」よりなる。
[二] 重刻禅林課誦 大本一冊 九州大学蔵
二條通鶴尾町田原氏仁左衛門重刻(刊年不載)
[一]と内容にも多少の出入りがある。[一]で「朝課」...
音の違いは「般」の「パ」「ポ」両形あるのを「ポ」に統一...
[三] 寛文十年版慈悲水懺法 大本三巻一冊 長崎崇福...
寛文十年歳次庚戌
平安城田原道住刻
田原道住は[一][二]の田原仁左衛門と同一人物である。...
○凡旁音用一字者、其音當曳曳而呼之、勿類入聲直而促與世俗...
○凡旁音有用小圏於上者矣。如イキ字須撮脣舌居中而呼之也。...
○凡旁音入聲者用小圏於下。如ハ字之類是也。或又上下用兩小...
○凡旁音兩字中間 用-此一画者、開張上一字而呼之、蹙聚下...
○凡旁音有二音合為一音者、如ツア字之類是也。全類反切法、...
○凡旁音間有不全叶反切者、如完字似属喩字母。蓋音韵之楚夏...
[四] 延宝七年版慈悲水懺法 折本三帖 九州大学蔵
時延宝歳次己未臘八月弟子道月和南拝書
[三]とは異版で「音釈」「国字旁音例」はない。
[五] 天和三年黄檗版観音経 折本一帖 奥村先生蔵
『近代語研究』第三集に、奥村三雄先生が解題を付し、「天...
[六]九州大学蔵「寛文二年原刻仏遺教経」書き込み 折本一帖
寛文二年の「板存山城州宇治縣黄檗萬福禅寺印房流行」とい
う刊記が見えるが、次のような刊記が続く。
京都西九条
長建禅寺 蔵版
京寺町通五条上ル 東側
弘所 黄檗山
書林 藤屋東七
藤屋東七は『近世書林版元総覧』(注%5)によれば享保十八...
[七] 元禄三年版仏説梵網経 折本一帖 長崎崇福寺蔵
元禄三龍次庚午歳九月日
邑上第五橋邊書肆林五郎兵衛壽梓
[八] 慈悲道場懺法 大本一冊 長崎崇福寺蔵
有坂氏は天和三年版を用いるが、筆者の見た崇福寺本は末尾...
[九] 三千仏名経 折本三帖 九州大学蔵
有坂氏は「千仏名経」と記すが、帙題が「唐音三千仏名経...
[十] 観音懺法 折本一帖 九州大学蔵
刊記等見えない。
[十一]金剛般若波羅蜜経 折本一帖 長崎崇福寺蔵
刊記等見えない。
[十二]貝葉版金剛般若波羅蜜経 折本一帖 奥村先生蔵
[十一]とは異版で、経文の前の「金剛経啓請」前後の文章...
[十三]貝葉版観音経 折本一帖 奥村先生蔵
外題は「普門品」。[五]とは異版で音も異なる。法華経...
音釋 東冬江ハヌル支微魚虞齊佳灰隊ヒク
真文欣元寒刪先ハヌル 蕭肴豪歌麻ヒク
陽庚青蒸ハヌル 尤ヒク 侵覃鹽咸嚴ハヌル
屋沃覺質勿迄月曷黠屑藥陌錫緝入声ツムル
世若衆被之重施巍慧持如支沙夜
阿種我娑彼誓過推咸終詛然國切
のようなものである。後半部の二つの音を示す部分は、「切...
[十四]貝葉版黄檗清規 大本 一冊
有坂氏は古版を用い、貝葉版は誤刻があるとしているが、と...
[十五]禅林課誦 折本二帖 奥村先生蔵
外題は「禅林朝課」「禅林暮課」。[二]の「重刻禅林課誦...
表す音は違ってはいない。有坂氏のいう「小型絵入の折本...
三
黄檗唐音で資料によって付音に差のあるもののうち、個別的...
なお「三音正譌」などで、方音差であると記されているもの...
○清濁の対立が表れているか。
これは「三音正譌」で、例えば第一転に
蓬 暴 並母ニ属メ濁ヲ正音トス。杭州音是ナリ。若シ...
と見え、杭州音が清濁の区別を有するのに対し、官話にはそれ...
ある資料に清・次清対濁の区別があるかを考える際に、濁点...
また清濁の区別有無の判別には、匣母・奉母の表れ方でも判...
資料の中で、清濁の区別があると見られるのは「仏遺教経」...
並母 菩ブ弁ベン病ビン 被避婢ピ貧ピン槃畔パン...
白ペ
定母 動ドン独毒度ド定ヂイン 提 第テイ
大ダイ・ダゝ脱ドウ田デン 但タン達タ電テン陀駄ト
道導ダウ頭デウ談ダン 定騰テン
澄母 重ヂヨン治ジイ除住ヂイ 陳テイン陣チン
住ジウ・ジユ杖ヂヤン 墜ツイ持チ・ツ植チ
着ヂヤ宅ヅエ 長チヤン籌チウ
群母 窮ギヨン及ギ 其具キ勤禽キン掘ケツ
強キヤン狂クワン求キウ
従母 自ヅウ財在ザイ罪ヅイ 疵ツ静チン
蔵暫慚ザン
淨ヂン集ジツ雑ザ賊ヅエ
邪母 誦ゾン従ズイ 緒チイ
牀母 事ズ術ジエ蛇ゼ 示ス船セン食シ
禅母 是時ズ樹ジユ慎甚ジン 睡スイ視ス折チエ
常ヂヤン上ジヤン禅善ゼン 上シヤン石シツ
匣母 壊懐ワイ害アイ患ワン 玄ヘエン降ヒヤン護フ
禍ヲ活ヲツ陥エン 慧会フイ何和惑ホ下瑕ヒヤ
賢ヘン厚後猴ヘウ
合ハ弘ホン
奉母 煩ワン縛ヲツ 伏復服扶仏フ分フン仏フエ
防フワン
ただしこの資料は清音の字にも濁点を付すことがある。
照母 終ヂヨン
精母 縦ヅヲン進ヂン
穿母 触ヂヨ始ヅヲ(ツヲソヲもあり)
心母 喪ザン
審母 恕ジ手獣ジウ
滂母 譬ビ(ピもあり)
幇母 比ビ(ピもあり)
見母 愧グイ グハイ
透母 土ド
渓母 鎧ガイ
切韻系の韻書では清声母であっても当時の原音では濁音化し...
以上のほかはほとんどが歯音であって、ここに問題がありそ...
この「仏遺教経」以外の黄檗資料でも疑母・日母以外は濁点...
塵ヂン尽ヂン上ジヤン静ヂン浄ヂン乗ヂン受ジウ寿ジウ甚...
道ダウ
黄檗版観音経では
尋ヂン・ジン 浄ヂン ジイ・シイ 婆ボ
三千仏名経では「上ジヤン」、仏説梵網経では「尚ジヤン」...
なお歯音の問題に関しては、他に摩擦音と破擦音の交替の問...
○薬韻・覚韻は「ヤツ」か「ヨツ」か (表1)
これは「三音正譌」で第三転の条に、
降項巷鬨學 官話ヒヤンヒヤトス又斈ヲヒヨトスルハ...
琢卓 已上数字正音チユアナルヲ俗音チヨトス
と見える。すると官話ヤ・杭州音ヨということになりそうだが...
○祭韻の歯音と止摂の舌上音・正歯音はチイかツウか(止摂の歯...
これは「三音正譌」で第四転に
知蜘 智 褫 第四第六第八支脂之ノ開ニ属スル舌音歯音...
とあり、第十五転では
制製掣世勢逝誓 筮 俗音ツウスウズウトス
とある。
「四書唐音弁」で見えるこの差は高松政雄氏が指摘のように...
貝葉版観音経の音釈では、世(スウシイ)施(スウシイ)誓(スウ...
○疑母のアヤワ・ガ・ナ行の表れ方 (表3)
「三音正譌」で指摘があるが、文雄は「磨光韻鏡」でも疑母...
「四書唐音弁」での二重注音は、魏ヲイ・グイと宜イイ・ニ...
貝葉版観音経の音釈では、我(ゴ・ヲ)巍(グイ・ウイ)が見え...
資料によってもっとも差があるのは止摂の表れ方である。こ...
○日母のヤ・ザ・ナ行の表れ方 (表4)
これは「三音正譌」「四書唐音弁」には見えないものである...
有坂氏は「如」イを福州音のものであるとした。この日母の...
○通摂がウンかオンか
これはあまり他では注目されていないが、資料によって表れ...
黄檗版観音経と貝葉版金剛経ではすべてウンになる。
観音経
蒙ムン功クン空クン東トン通トン童トン風フン窮キウン中...
金剛経
蒙ムン東トン通トン動トン同トン功クン空クン夢ムン中ツ...
舌音の時にはトンと注意符号を付けて記される。このトがt...
○徳韻合口のエツ型とオツ型 (表5)
貝葉版観音経の音釈では国(クエフ・コツ)が見える。該当の...
「四書唐音弁」で徳韻の合口は国クヲツ或フヲツ・ウヲツと...
○唇内韻尾をムで表記するか
これは奥村先生が既に指摘しているが、天和三年版黄檗観音...
侵韻 甚深心シム金キム今音飲イム 尋ジン臨リン品ピン
覃韻 男南ナム甘カム アン
談韻 敢カム三サム
塩韻 検ケム険ヘム瞻チエム
添韻 念ネム
咸韻 咸ヘン巌エン
凡韻 梵ハン
この他に貝葉版金剛般若波羅蜜経も同様にムで表記している。
侵韻 今金キム甚ジム心深シム音イム 吽ホン
覃韻 貪タム男南ナム闇アム含ハム
談韻 三サム 擔タン
添韻 念ネン
咸韻 喃ナム
厳韻 厳エム
凡韻 凡梵ハン
例外の字はあるが、舌内韻尾の字をムで表記した例はないの...
凡梵品がムでなく、ンで表記されているが、これは原音がm...
現在の中国諸方言で舌内と唇内との区別を有するのは、汕頭...
四
唇内韻尾をムで表記する二つの文献「天和三年版観音経」「...
また、清濁の区別を有しない点を考え合わせると、これらの...
ところでこの二資料は音の様相が似ているだけではなくて、...
伏願罪花凋謝妙菓圓成九
品臺上親受
如来記 頓悟無生之旨法界
寛親咸沾利楽此板現貯于
黄檗山寳善庵十方有縁……
と続くのだが、金剛経の方は、
伏願罪花凋謝妙果圓成九
品臺上親受
如来記 頓悟無生之旨法界寛
と、一字分繰り上がって「寛」の字を組み込んで、この行で終...
このように貝葉版金剛経と黄檗版観音経とは非常に関係が深...
次に仏遺教経に記された音は濁点が多く打たれ清濁の区別を...
このような音の様相を示すのはこの資料のみであるが、この...
以上の三資料の他の資料は分類が困難である。日母のヤ行表...
仏説梵網経を含めてこのグループは、清濁の区別を有しない...
五
以上のように黄檗唐音は資料によって字音体系の異なりを見...
有坂氏は黄檗唐音は南京音を中心に福州音が混入したものだ...
黄檗唐音の原音がどこの方音であるかという問題を離れても...
有坂氏は、
黄檗唐音に於ては、最古の最も信頼すべき資料についてみ...
として、当時の京都ではハの子音がfでなかった証拠とした。...
この中に於て支那原音faを屡ハで表しているのは、恐く最...
と解釈している。黄檗版観音経は有坂氏が用いなかった資料で...
また観音経の貝葉版では、黄檗版と異なり、有坂氏のいう「...
有坂氏は、
支那原音のfaとhuaとを共にハで写しているものはすべて長...
として、長崎におけるハ行の唇音性残存を言うのだが、黄檗唐...
haのハ表記という点で、近世唐音のハ音の状況は中世までの...
有坂氏が唐通事関係の資料については唇音性の残存を言い、...
-注-
(%1)「江戸時代中頃に於けるハの頭音について」『国語音韻...
(%2)九州大学付属図書館蔵本による。
(%3)京都大学付属図書館蔵本による。
(%4)「近世唐音弁-南京音と浙江音-」岐阜大学国語国文学...
(%5)井上隆明氏、青裳堂書店『日本書誌学大系』14
(%6)国立中央研究院歴史語言研究所単刊甲種之十二 上海
(%7)「日本漢字音に於ける頭子音の清濁-韻鏡清の字にして...
(%8)高松政雄「近世的唐音-破擦音を主として-」岐阜大学...
(%9)汲古書院『唐話辞書類集』第八集。
(%A)北京大学中国語言文学系語言学教研室。
(%B)汲古書院『唐話辞書類集』第十六集・思文閣『陽明叢書 ...
(%C)「アジア・アフリカ言語文化研究」六号
(%D)中華民国中山学術文化基金〓事会補助出版、台湾
(%E)古版である黄檗版ではハ表記され、時代的に新しい貝葉...
[付記]本稿は、昭和六十年度国語学会秋季大会での発表をも...
資料の閲覧をお許しくださいました長崎の崇福寺、宮田安氏に...
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[[岡島昭浩]]「[[近世唐音]]の 重層性」([[『語文研究』]]六...
http://ci.nii.ac.jp/naid/120000981590
日本漢字音史における唐音は、普通、中世唐音と近世唐音と...
しかし、このうち近世唐音に関して言えば、それが一様な性...
筆者はこれら近世唐音資料について調べていくうちに、これ...
一
先学により指摘されていることであるが、江戸時代の唐音関...
華音者俗所謂唐音也。其音多品。とある。本居宣長の『漢字...
西川如見の「華夷通商考」では中国の十五省の言語について...
文雄は杭州音を「正音」として韻鏡研究をした訳だが、『三...
『四書唐音弁』の南京音と浙江音の比較は高松政雄氏が詳細...
「四書唐音弁」が二音を併記した理由は明らかではないが、...
二
本稿で使用した資料は以下の十五種である。
[一] 寛文二年版禅林課誦 大本一冊 九州大学蔵
寛文二年壬寅林鐘吉旦
二條通鶴尾町田原仁左衛門刻
「朝課」「暮課」「朔望儀」「雑集」よりなる。
[二] 重刻禅林課誦 大本一冊 九州大学蔵
二條通鶴尾町田原氏仁左衛門重刻(刊年不載)
[一]と内容にも多少の出入りがある。[一]で「朝課」...
音の違いは「般」の「パ」「ポ」両形あるのを「ポ」に統一...
[三] 寛文十年版慈悲水懺法 大本三巻一冊 長崎崇福...
寛文十年歳次庚戌
平安城田原道住刻
田原道住は[一][二]の田原仁左衛門と同一人物である。...
○凡旁音用一字者、其音當曳曳而呼之、勿類入聲直而促與世俗...
○凡旁音有用小圏於上者矣。如イキ字須撮脣舌居中而呼之也。...
○凡旁音入聲者用小圏於下。如ハ字之類是也。或又上下用兩小...
○凡旁音兩字中間 用-此一画者、開張上一字而呼之、蹙聚下...
○凡旁音有二音合為一音者、如ツア字之類是也。全類反切法、...
○凡旁音間有不全叶反切者、如完字似属喩字母。蓋音韵之楚夏...
[四] 延宝七年版慈悲水懺法 折本三帖 九州大学蔵
時延宝歳次己未臘八月弟子道月和南拝書
[三]とは異版で「音釈」「国字旁音例」はない。
[五] 天和三年黄檗版観音経 折本一帖 奥村先生蔵
『近代語研究』第三集に、奥村三雄先生が解題を付し、「天...
[六]九州大学蔵「寛文二年原刻仏遺教経」書き込み 折本一帖
寛文二年の「板存山城州宇治縣黄檗萬福禅寺印房流行」とい
う刊記が見えるが、次のような刊記が続く。
京都西九条
長建禅寺 蔵版
京寺町通五条上ル 東側
弘所 黄檗山
書林 藤屋東七
藤屋東七は『近世書林版元総覧』(注%5)によれば享保十八...
[七] 元禄三年版仏説梵網経 折本一帖 長崎崇福寺蔵
元禄三龍次庚午歳九月日
邑上第五橋邊書肆林五郎兵衛壽梓
[八] 慈悲道場懺法 大本一冊 長崎崇福寺蔵
有坂氏は天和三年版を用いるが、筆者の見た崇福寺本は末尾...
[九] 三千仏名経 折本三帖 九州大学蔵
有坂氏は「千仏名経」と記すが、帙題が「唐音三千仏名経...
[十] 観音懺法 折本一帖 九州大学蔵
刊記等見えない。
[十一]金剛般若波羅蜜経 折本一帖 長崎崇福寺蔵
刊記等見えない。
[十二]貝葉版金剛般若波羅蜜経 折本一帖 奥村先生蔵
[十一]とは異版で、経文の前の「金剛経啓請」前後の文章...
[十三]貝葉版観音経 折本一帖 奥村先生蔵
外題は「普門品」。[五]とは異版で音も異なる。法華経...
音釋 東冬江ハヌル支微魚虞齊佳灰隊ヒク
真文欣元寒刪先ハヌル 蕭肴豪歌麻ヒク
陽庚青蒸ハヌル 尤ヒク 侵覃鹽咸嚴ハヌル
屋沃覺質勿迄月曷黠屑藥陌錫緝入声ツムル
世若衆被之重施巍慧持如支沙夜
阿種我娑彼誓過推咸終詛然國切
のようなものである。後半部の二つの音を示す部分は、「切...
[十四]貝葉版黄檗清規 大本 一冊
有坂氏は古版を用い、貝葉版は誤刻があるとしているが、と...
[十五]禅林課誦 折本二帖 奥村先生蔵
外題は「禅林朝課」「禅林暮課」。[二]の「重刻禅林課誦...
表す音は違ってはいない。有坂氏のいう「小型絵入の折本...
三
黄檗唐音で資料によって付音に差のあるもののうち、個別的...
なお「三音正譌」などで、方音差であると記されているもの...
○清濁の対立が表れているか。
これは「三音正譌」で、例えば第一転に
蓬 暴 並母ニ属メ濁ヲ正音トス。杭州音是ナリ。若シ...
と見え、杭州音が清濁の区別を有するのに対し、官話にはそれ...
ある資料に清・次清対濁の区別があるかを考える際に、濁点...
また清濁の区別有無の判別には、匣母・奉母の表れ方でも判...
資料の中で、清濁の区別があると見られるのは「仏遺教経」...
並母 菩ブ弁ベン病ビン 被避婢ピ貧ピン槃畔パン...
白ペ
定母 動ドン独毒度ド定ヂイン 提 第テイ
大ダイ・ダゝ脱ドウ田デン 但タン達タ電テン陀駄ト
道導ダウ頭デウ談ダン 定騰テン
澄母 重ヂヨン治ジイ除住ヂイ 陳テイン陣チン
住ジウ・ジユ杖ヂヤン 墜ツイ持チ・ツ植チ
着ヂヤ宅ヅエ 長チヤン籌チウ
群母 窮ギヨン及ギ 其具キ勤禽キン掘ケツ
強キヤン狂クワン求キウ
従母 自ヅウ財在ザイ罪ヅイ 疵ツ静チン
蔵暫慚ザン
淨ヂン集ジツ雑ザ賊ヅエ
邪母 誦ゾン従ズイ 緒チイ
牀母 事ズ術ジエ蛇ゼ 示ス船セン食シ
禅母 是時ズ樹ジユ慎甚ジン 睡スイ視ス折チエ
常ヂヤン上ジヤン禅善ゼン 上シヤン石シツ
匣母 壊懐ワイ害アイ患ワン 玄ヘエン降ヒヤン護フ
禍ヲ活ヲツ陥エン 慧会フイ何和惑ホ下瑕ヒヤ
賢ヘン厚後猴ヘウ
合ハ弘ホン
奉母 煩ワン縛ヲツ 伏復服扶仏フ分フン仏フエ
防フワン
ただしこの資料は清音の字にも濁点を付すことがある。
照母 終ヂヨン
精母 縦ヅヲン進ヂン
穿母 触ヂヨ始ヅヲ(ツヲソヲもあり)
心母 喪ザン
審母 恕ジ手獣ジウ
滂母 譬ビ(ピもあり)
幇母 比ビ(ピもあり)
見母 愧グイ グハイ
透母 土ド
渓母 鎧ガイ
切韻系の韻書では清声母であっても当時の原音では濁音化し...
以上のほかはほとんどが歯音であって、ここに問題がありそ...
この「仏遺教経」以外の黄檗資料でも疑母・日母以外は濁点...
塵ヂン尽ヂン上ジヤン静ヂン浄ヂン乗ヂン受ジウ寿ジウ甚...
道ダウ
黄檗版観音経では
尋ヂン・ジン 浄ヂン ジイ・シイ 婆ボ
三千仏名経では「上ジヤン」、仏説梵網経では「尚ジヤン」...
なお歯音の問題に関しては、他に摩擦音と破擦音の交替の問...
○薬韻・覚韻は「ヤツ」か「ヨツ」か (表1)
これは「三音正譌」で第三転の条に、
降項巷鬨學 官話ヒヤンヒヤトス又斈ヲヒヨトスルハ...
琢卓 已上数字正音チユアナルヲ俗音チヨトス
と見える。すると官話ヤ・杭州音ヨということになりそうだが...
○祭韻の歯音と止摂の舌上音・正歯音はチイかツウか(止摂の歯...
これは「三音正譌」で第四転に
知蜘 智 褫 第四第六第八支脂之ノ開ニ属スル舌音歯音...
とあり、第十五転では
制製掣世勢逝誓 筮 俗音ツウスウズウトス
とある。
「四書唐音弁」で見えるこの差は高松政雄氏が指摘のように...
貝葉版観音経の音釈では、世(スウシイ)施(スウシイ)誓(スウ...
○疑母のアヤワ・ガ・ナ行の表れ方 (表3)
「三音正譌」で指摘があるが、文雄は「磨光韻鏡」でも疑母...
「四書唐音弁」での二重注音は、魏ヲイ・グイと宜イイ・ニ...
貝葉版観音経の音釈では、我(ゴ・ヲ)巍(グイ・ウイ)が見え...
資料によってもっとも差があるのは止摂の表れ方である。こ...
○日母のヤ・ザ・ナ行の表れ方 (表4)
これは「三音正譌」「四書唐音弁」には見えないものである...
有坂氏は「如」イを福州音のものであるとした。この日母の...
○通摂がウンかオンか
これはあまり他では注目されていないが、資料によって表れ...
黄檗版観音経と貝葉版金剛経ではすべてウンになる。
観音経
蒙ムン功クン空クン東トン通トン童トン風フン窮キウン中...
金剛経
蒙ムン東トン通トン動トン同トン功クン空クン夢ムン中ツ...
舌音の時にはトンと注意符号を付けて記される。このトがt...
○徳韻合口のエツ型とオツ型 (表5)
貝葉版観音経の音釈では国(クエフ・コツ)が見える。該当の...
「四書唐音弁」で徳韻の合口は国クヲツ或フヲツ・ウヲツと...
○唇内韻尾をムで表記するか
これは奥村先生が既に指摘しているが、天和三年版黄檗観音...
侵韻 甚深心シム金キム今音飲イム 尋ジン臨リン品ピン
覃韻 男南ナム甘カム アン
談韻 敢カム三サム
塩韻 検ケム険ヘム瞻チエム
添韻 念ネム
咸韻 咸ヘン巌エン
凡韻 梵ハン
この他に貝葉版金剛般若波羅蜜経も同様にムで表記している。
侵韻 今金キム甚ジム心深シム音イム 吽ホン
覃韻 貪タム男南ナム闇アム含ハム
談韻 三サム 擔タン
添韻 念ネン
咸韻 喃ナム
厳韻 厳エム
凡韻 凡梵ハン
例外の字はあるが、舌内韻尾の字をムで表記した例はないの...
凡梵品がムでなく、ンで表記されているが、これは原音がm...
現在の中国諸方言で舌内と唇内との区別を有するのは、汕頭...
四
唇内韻尾をムで表記する二つの文献「天和三年版観音経」「...
また、清濁の区別を有しない点を考え合わせると、これらの...
ところでこの二資料は音の様相が似ているだけではなくて、...
伏願罪花凋謝妙菓圓成九
品臺上親受
如来記 頓悟無生之旨法界
寛親咸沾利楽此板現貯于
黄檗山寳善庵十方有縁……
と続くのだが、金剛経の方は、
伏願罪花凋謝妙果圓成九
品臺上親受
如来記 頓悟無生之旨法界寛
と、一字分繰り上がって「寛」の字を組み込んで、この行で終...
このように貝葉版金剛経と黄檗版観音経とは非常に関係が深...
次に仏遺教経に記された音は濁点が多く打たれ清濁の区別を...
このような音の様相を示すのはこの資料のみであるが、この...
以上の三資料の他の資料は分類が困難である。日母のヤ行表...
仏説梵網経を含めてこのグループは、清濁の区別を有しない...
五
以上のように黄檗唐音は資料によって字音体系の異なりを見...
有坂氏は黄檗唐音は南京音を中心に福州音が混入したものだ...
黄檗唐音の原音がどこの方音であるかという問題を離れても...
有坂氏は、
黄檗唐音に於ては、最古の最も信頼すべき資料についてみ...
として、当時の京都ではハの子音がfでなかった証拠とした。...
この中に於て支那原音faを屡ハで表しているのは、恐く最...
と解釈している。黄檗版観音経は有坂氏が用いなかった資料で...
また観音経の貝葉版では、黄檗版と異なり、有坂氏のいう「...
有坂氏は、
支那原音のfaとhuaとを共にハで写しているものはすべて長...
として、長崎におけるハ行の唇音性残存を言うのだが、黄檗唐...
haのハ表記という点で、近世唐音のハ音の状況は中世までの...
有坂氏が唐通事関係の資料については唇音性の残存を言い、...
-注-
(%1)「江戸時代中頃に於けるハの頭音について」『国語音韻...
(%2)九州大学付属図書館蔵本による。
(%3)京都大学付属図書館蔵本による。
(%4)「近世唐音弁-南京音と浙江音-」岐阜大学国語国文学...
(%5)井上隆明氏、青裳堂書店『日本書誌学大系』14
(%6)国立中央研究院歴史語言研究所単刊甲種之十二 上海
(%7)「日本漢字音に於ける頭子音の清濁-韻鏡清の字にして...
(%8)高松政雄「近世的唐音-破擦音を主として-」岐阜大学...
(%9)汲古書院『唐話辞書類集』第八集。
(%A)北京大学中国語言文学系語言学教研室。
(%B)汲古書院『唐話辞書類集』第十六集・思文閣『陽明叢書 ...
(%C)「アジア・アフリカ言語文化研究」六号
(%D)中華民国中山学術文化基金〓事会補助出版、台湾
(%E)古版である黄檗版ではハ表記され、時代的に新しい貝葉...
[付記]本稿は、昭和六十年度国語学会秋季大会での発表をも...
資料の閲覧をお許しくださいました長崎の崇福寺、宮田安氏に...
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