石垣謙二「助詞「へ」の通時的考察」
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[[石垣謙二]]
『文學』昭和十八年十月
https://www62.atwiki.jp/kotozora/pages/98.html
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はしがき
一 接着性と方向性
二 接着性より方向性へ
三 方向性の發展
むすび
<<
>>
千年一日の如く少しも渝らぬ意義用法を持ち續けてゐるやう...
一 接續性と方向性
「へ」は現在普通に助詞と認められてゐるが、少くとも現代...
摩佐豆古和藝毛 玖邇幤玖陀良須 (記下)
の如きか、或は
吉野部登入座見者 (萬葉十三、三二三〇)
新羅奇敝可伊敝爾可加反流 (同十五、三六九六)
の如く、係助詞其の他の助詞を伴ふか、いづれかであつて、形...
さて「へ」は現代に於てもその懸つてゆく用言に或る種の制...
<<
ゆく(行) 萬二八○・八○○・=二四・一六八○・一八二七よ...
やる(遣) 萬一〇五・三三六三・四二四〇・四四ニニ
のぼる(上) 萬八八六・九四四・四四七二
こゆ(越)、r萬九五四二=二八
さかる(離) 萬二七四・一ニニ九
むく(向) 紀十九・十九
いつ(出) 萬二七四六
います(往) 萬三五八七
いる(入) 萬三二三〇
かへる(歸) 萬三六九六
かよふ (通) 廿禺一二六一
くだる(下) 記下
こぐ(漕) 萬七二
しつく(沈) 歌經標式
たつ (發) 萬五七〇
ます(座) 、萬三九九六
わたる(渡) 萬二七一
右の中、「ます」の如きは、
吾がせこが久爾弊痲之奈婆ほととぎす鳴かむ五月はさぶし...
のやうに「行く」と同義のものであり、又、
ヤマトリ
いざ子ども早く日本邊大伴の御津の濱松待ち戀ひぬらむ (...
の如く動詞を伴はぬ例も一つあるが、之とても「行け」「歸れ...
さすれば之等の諸動詞はすべて甲地點を出發して乙地點へ進...
「遣る」といふ動詞は他の諸動詞と些か異つて動作主體が...
從つて之等の動詞を伴ふ「へ」は、動作の接着性を表してゐ...
韓國の城の上に立ちて大葉子は領布振らすも耶魔等陛武岐底
韓國の城の上に立たし大葉子は領布振らす見ゆ那倆婆陛武...
であつて、「向く」といふ動作は同一地點に於て單に方向を變...
又、萬葉卷一の例は、
オキむ コガジ
玉藻苅る奥敝波不榜敷妙の枕の邊忘れかねつも (七二)
であるが、「漕ぐ」といふ動詞は其れ自身先天的に動作の經由...
茲に於て、「向く」及び「漕ぐ」といふ動詞を少しく詳察し...
袁波理邇 多陀邇牟迦弊流 袁都能佐岐 (記中)
奴婆多痲能都奇爾牟加比底 (萬葉十七、三九八八)
夷乃一國邊爾…直向淡路乎過 (萬葉四、五〇九)
淡路乃島二直向三犬女乃浦 (同六、九四六)
勢能山爾直向妹之山 (同七、=九三)
海若神之女爾邂爾伊許藝趁 (同九、一七四〇)
神邊山爾立向 (同九、一七六一)
三宅之酒爾指向鹿島之崎 (同九、一七八○)
佳吉乃崖爾向有淡路島 (同十二、三一九七)
曉月爾向而 (同十九、四一六六)
の如く格助詞「に」を伴ふものであり、又「いつち(何方)」の...
伊豆知武伎提可 (萬葉五、八八七。類例三三五七・三四七...
のやうに何等格助詞を介せずにも用ゐられ、時には
天漢射向居而 (萬葉十、二〇八九。類例二〇=)
の如く、自身方向性を含有しない體言に對しても格助詞を介せ...
次に「漕ぐ」に於ては、萬葉卷十一に次の例が見られる事を...
オキ も へ
庭きよみ奥方榜出海人舟の梶執る間無き戀をするかも (二...
之は嚮の卷一の例と極めて相似た用ゐ樣であるが、唯卷一の方...
「向く」及び「漕ぐ」の語性・用法が右の如くであるのに加...
ニシ
夜痲登弊邇 西風吹きあげて (記下)
夜麻登幤邇 行くは誰が妻 (記下)
野痲登陛濔 見が欲しものは (紀十五)
夜痲等弊爾 風吹き上げて (丹後國風土記)
淤岐弊邇波 小舟つららく (記下)
の如きもので、格助詞「に」が體言にのみ附く事から之を證す...
射ゆ鹿を つなぐ何播杯の 若草の (紀廿六)
鮎こそは 施痲倍も宜き (同廿七)
等乙類の確證もある故、簡單に斷定する事は出來ないのである。
先づ現代の助詞「へ」に類するものは、
幣(紀・萬)、弊(萬・歌經)、敝(萬)、部(萬)、方(萬)、邊(...
の如く、すべて甲類である。唯萬葉の四四二二(卷二十)には、
わがせなを都久之倍夜里弖うつくしみ帶は解かななあやに...
と乙類の假名が用ゐられてゐる(註一)。然し之は都築郡上丁、...
之に對して體言又は複合語を構咸する「へ」は、前述の「ヤ...
脚ー 阿度陛 (紀)
頭ー 摩苦羅陛 (紀)
常世- 等許與弊、等許餘弊 (丹後國風土記)
等の甲類なる一方、前掲の「河へ」「島へ」等は乙類である。...
床のー 辨(記)、弊(萬)、邊(萬)、重(萬)、隔(萬)
山の1 謎(紀)、部(萬)
大君の1 敝(萬)、幤(宣命)
の如く甲類の假名が用ゐられる一方、
河の1 迦波能倍 (記下)
城の1 基能陪、基能陪 (紀十九)
岩のー 伊波能杯 (紀廿四)
山のー 野痲能閉 (萬五)
膝のー 比射乃倍 (萬五)
道のー 美知乃倍 (琴歌譜)、美知能陪 (歌經)
引津の1 比岐都能倍 (歌經)
我が1 和我戸 (靈異記上第二)
盃のー 佐加豆岐能倍 (萬五)
の如く、乙類の假名も同時に用ゐられ、而も之等乙類のものは...
本1(モト・へ) 敝巾(記.・紀)、陛(紀)
末i(スヱへ) 幤(記・紀)、弊(記)、陛(紀)
後ー(シリへ) 懲み(萬・宣命)、敝(萬、東歌)
並剛ー(マへ) 齢弊(記)、敝用(記.・紀)、陛(紀)
外1(トノへ) 重(萬)
内-(ウチノへ) 重・隔(萬)
何1(ノ・ヅへ) 敞∴邊・方 (萬)
夕1(ユフへ) 弊(歌經)(萬)
行1(ユクへ) 敝・弊・敞・方・邊(萬)、幤(丹後國風土記)
古-(イニシへ) 敝・湛堪・部・家(萬)、懲刀(萬・後紀)
退1(ソクへ・ソキへ) 敝・部・隔(萬)
水漬-(ミヅクへ) 陛(紀)
等皆甲類であり、又「沖」に對する「へ」、家の「へ」及び「...
然るに之に反して「上」の「へ」は、
宇閇(記・佛足石・尾張國熱田太神宮縁起)、紆陪(紀)、禺...
の如く、すべて乙類であり、唯一例萬葉の卷十四、三五三九に...
耶麼能謎(紀十四) ↓山の邊
野痲能閉(萬五) ↓山の上
であつて、その咸立を異にしてゐるのである(註三)。
右のやうに乙類の「へ」は全く成立を異にする事が明らかに...
かくて「向く」「漕ぐ」の二動詞を除外すれば、上代に於け...
このやうに動詞の性質によつて、「へ」の種類を區別する事...
(註一) 殆んど同一の歌を
わがせなを都久志波夜利見うつくしみえびは解かななあ...
としてゐるから、東國語に於ては「へ」と「ハ」との對・...
(註二) 乙類の「へ」を用ゐる語は、「上」の他に等虚辭陪(...
(註三) 乙類の「へ」が複合語や連語を作る時にも「ーの邊...
二矛重英、河上乎翩翔(詩經)
日o屏唄oジミ津6(1)自35勲
の如く、外國語に於ても「うへ」と「ほとり」とが同じ...
二 接着性より方向性へ
奈良時代の「へ」は、動作の方向性のみならず必ず之に伴ふ...
萎時代初期には・竹取物語.伊勢物語・土佐日記・大和轗諦を通...
詞を伴ふもののみである。
とぶがごとくにみやこへもがな (土佐、歌、一月十一日)
いかにとく京へもがなと思ふ心あれば (土佐、一月十一日)
みやこへと思ふもゝのムかなしきは (土佐、歌、十二月十...
みやこへと息ふみちのはるけさ (土佐、歌、一月十七E)
の四例は「行きたし」等の意味が既に含まれてゐると考ふべき...
次に源氏物語は、古典全集本に依ると、
かたへ む
もとより有る人だに片方へは無くていと人少ななる折にな...
といふ例があるが、河内本に「へ」の無いのが正しいであらう...
いつち ○
何方へか消え失せにけんと (須磨、二五〇頁)
も河内本では「へ」が無い。前章でも見た樣に「いつち」とい...
さすれば確實なるもの八十二例であるが、すべて經由性の動...
かしこく思ひ企てられけれど、專ら本意なしとて、鱶匙思...
といふ例がある。之は常陸守が、淨舟へ求婚した少將を自分の...
〔あなた1北の方1は〕かしこく思ひ企てられけれど〔先方...
動詞「なる」は大日本國語辭典に、古くよりの意味として、
(一) 異なる樣にかはる。此れより彼れに移る。變化す。...
(二) 時日經てそれに至る。至る。經。經過す。逹す。た...
の二義を擧げてゐるが、いづれも經由性という範疇に當てはま...
然しながら、いづれにせよ、具體性のない心理作用に「へ」...
今昔物語集には卷一より卷二十までに一八九例、卷二十二以...
其後王一人侍者ヲ具シテ歩行ニシテ王舍城へ向フ (卷一、...
老婢…正門ニハ佛在マセバ其方ヘハ不レ向シテ脇ロヨリ出ム...
の如きもので、「我レ軍ヲ引將テ彼ノ山へ可二行向一シト(卷五...
息ト思シキ方へ只這二這ピケルニ (卷十六、三五六)
オキ
若キ女三人打群テ内樣へ行ケリ (卷十七、八=ハ)
アルキ
彼方へ走リ此方へ走リ (卷十七、八二八)
後へ手掻テ (卷十八、八八四)
何方へ可レ迯シトモ不二思エ一ズ (卷卅一、一〇六一)
外必國へ迷ヒ失ニケリ (卷卅一、一〇八二)
等の「這ふ」「歩く」「走る」「手掻く」「迯ぐ」「迷失す」...
先の萬葉集の「沖へは漕がじ」の「漕ぐ」に該當するもの...
如上、平安時代に於ては奈良時代同樣、「へ」は必ず經由性...
この傾向は鎌倉時代に入つて愈ヒ結實するのであつて、先づ...
このよし院へ申てこそはといひければ (卷十二、二一二〇)
動詞「申す」には何等の經由性を見る事が出來ない。故にこの...
かくの如く「へ」が接着性のない純然たる方向性を示すに至...
(監河侯)
となりにかんかこうといふ人ありけり、それがもとへけふ...
の「乞ふ」、
御堂殿邊へはた玉りをなされけり (卷十四、二六七)
の「祟をす」即ち「祟る」等、非經由性の動詞は相當に用ゐら...
遙に補陀落世界のかたへむかひて、もろともに聲をあげて...
のやうに全く非經由的のものが生じ、從つて「向く」も、
母おほきに恨みて、この兒をいだきて、日本へむきて、ち...
の如く非經由的の意味で而も「へ」に件ふ事を得るに至るので...
右の如き例は實にこの宇治拾遺物語のものが最初であり、...
(註一) 調査に用ゐた底本は衣の通りである。
竹取物語 岩波文庫本
伊勢物語 三條西伯爵家藏傳定家筆本
土佐日記 前田侯欝家藏定家自筆本
大和物語 日本古典全集本
濁點は筆者。
(熟二・註三) 調査に用ゐた底本は新訂櫓補國史大系本、數...
(註四・註五) 今昔物語集に於ける同一の説話には夫々次の...
其ノ隣二[日一ト云フ人有リ。其ノ人二今日可ソ食キ黄ノ...
...
遙二補随洛世界ノ方二向テ心ヲ發シテ、皆昔ヲ擧テ觀昔...
丶 三 方向性の發展
平安時代からその兆候を示しつつあつた「へ」助詞の發展、...
内裏へ申されたりければ (著卷三、六五)
類例、蓉九、 一八九・卷十一、二三三・卷十八、三六六
院へ申テ公卿僉議二及テ (愚卷六、一八四)
類例、卷三、九四・卷四、=一三・卷五、一五七・一六八・卷...
此の由五宮より内裏へ申されたりければ (保卷二、四九)
類例、卷三、八二・同、八三
これによりて蒔繪師がもとへかさねて、いかにかやうなる狼藉...
宇治殿知仰あいタリケル御返事二 (愚卷四、一=一)
この酌取の法師いかにも御酒まいらぬ由をおくのかたへいひけ...
關東ヘハ君ノ御氣色ワロク候ト云テ (愚卷六、一七七)
類例、卷六、二〇〇
二條中納言定高卿、放生會に參向の時、二條宰相雅經卿のもと...
さるにても宇治へ尋ねてこそきかめとて (著卷十二、二五九)
爲家卿のもとへ御尋有けるに (著卷八、一八二)
中御門左府へ案内申されければ (著卷十八、三六六)
初ヨリ其議…兩方ニワカレテヒシくト論ジテユリユクホドニ、サ...
テヲコナフ道理也 (愚附、二一〇)
此の由都へ聞えて (保卷三、八三)
御後悔ありて復り帥かせ給はん由方々へ御所りどもあり ...
等、すべて話者の聽者に對する方向性のみを荷つた「へ」であ...
うしろへ見むきて見れば (著卷十六、三三一)
東の堤を上りに北へ向つてぞ歩ませける (保卷二、二七)
類例、卷二、二八
さらば安樂壽院の方へ御車を向けて懸けはつすべしと仰せ...
牛をはつし西方へ押し向け奉れば (保卷三、七二)
御馬の口を北の方へ押し向けければ (平卷二、一四一)
等は接着性の無い「向く」(自動.他動)「向ふ」の例である。
更に室町時代に於ては愈ヒ頻繁に用ゐられたものと見られ、...
立ちかへつて野牛へいふは (伊、七九)
をよも...
頼盛「さては力に及ぱぬ」と申してゐられた所へ清盛また...
いかにすぐれて氣高い裝ひなるお方へ申さうずることがあ...
重盛へ申されたれば (平卷一、五五)(類例、卷一、=ハ。...
國王へ奏した へ伊、二八)
夜なく天へ甲斐ない怨をないてさけぶ (伊、四九)
この事がほかへ聞えぬやうにせい (伊、一八)
日本國へ聞えさせられた木曾殿 苹卷四、一一一一〇)(類...
われ迯げうと思はうずる時は、御邊へその御意をば得まじ...
文覺のもとへ便宜の時は「……」と仰せられたれば (平卷四...
一門の人々ヘコニ草の手既に敗れたと聞えたれば人々お向...
都へ告げたれども (平卷三、一四一)(類例、瑜四、二〇一)
殿上人逹が一同にまた忠盛のことを帝王へ訴へまらした (...
此の由を法皇へ伺ひ奉つて (平卷一、五五)
三種の神器を八島へ所望せられた事 へ平卷四題、二六〇)
義經院へ奏聞せられたれば 苹卷四、二六三)
して重盛はこの事について清盛へ意見をば召されなんだか?...
右の諸例は話者の聽者に對する方向性の例。
恩を知らぬ惡人に恩をほどこさうずるときは偏へに天道へ...
法皇へ對し奉つての憤り (平卷一題、三九)
ある片眼な鹿……「われ眼を一つもちたれば、別して用心が...
火のほの暗い方へ向うて (平卷一、六)(類例、卷二、一一...
馬の鼻を東へ向け 本卷三、一九八)(類例、卷二、=九・==)
木曾殿へお目に掛りたい仔細 (平卷三、一八三)
右の諸例は接着性を伴はない「向く」の類の例。
かくの如く、「へ」助詞は純粹に方向性のみを表す場合が益...
うしろ戸のひつじさるのすみより北へ第四のまに以ての外...
四條を東へくしげまではまさしく目にかけたりけるを (著...
ツギく二履中・反正・允恭ト三人、兄ヨリオト丶ザマへ御...
かやうな例が生じ得るのは全く「へ」助詞が純粹の方向性の...
震旦の長安城より天竺舍那大城へは幾萬里ぞと問へば (平...
有木の別所へはいかほどの道ぞ へ天草本平家卷一、五三)
八島へはいかほどあるぞ (同卷四、二九四)
の如く二地點間の距離をいふに至り、特に、
も都へも無下に近かつたほどに (天草本平家卷三、一四〇)
の例に於ては、「へ」に續く用言は動詞から一轉飛躍して形容...
「へ」助詞の性質に起つた右の如き變化は、次の二つの現象...
女房の許への文 (天草本平家卷二、一三四)
ぬ かどで
西國への首途 (同卷四、二〇五)
幼い人へのお文 (同卷四、二五八)
北の方へのお文 (同卷四、二五八.二六四)
八島への案内者 (同眷四、二九四)
のやうに、準副體助詞の「の」へ直接續く「へ」が現れること...
又、第二は接續助詞的な「へ」が發生し來つた事である。國...
格助詞の接續助詞化中、第一のもの即ち其れ自身で接續助詞...
尤も愚管抄には
コノ東宮ヲバ恒貞親王トゾ申ケル、太子ノ冷泉院ニヲハ...
イザ佛道ト云道ノアンナルヘイリナントテ (卷四、一〇...
其邊二房ックリテ居タリケルヘヨセテ同意シタル者共ヲ...
の如く用言の連體形を承けるもの三例を見るのであるから...
然るに、「へ」が純粹の方向性のみを荷ふに至つて、具體的...
元來體言「所」は形式體言として或る場面を形式的に代表す...
イモウトノ女院當今ノ母后ニテヒシトカクヲボシメシタリ...
ハシマシテ、藏人頭俊賢ヲオマヘニメシテ、御モノガタリ...
の如きは、強ち「トコロ」は「場所」を意味するのでなく、む...
更に室町時代の例になると、
さうある所へ、狐そのあたり近うゐたが鷄の曉うたふをき...
、さうする所へ、五人の兄弟逹が門の内へ打入つて、「行幸は...
の如きは、大分接續助詞的色彩が濃く、又、
「すは我命を失はうずるとて武士どもが來る」と待たるゝ...
山崎の關戸の院といふ所に主上の召された玉の御輿をかき...
「……その上今度は用意もおりないほどに、迎ひの者をお待...
の諸例の如きは、寧ろ「所へ」で一の接續助詞的に見てよいも...
(註一)・(註二) 調査に用ゐた底本は家の如くである。數字...
古今著聞集・愚管抄 新訂増補國史大系本
保元物語・平治物語 國民文庫本
天草本伊曾保物語 岩波文庫本
天草本平家物語 龜井高孝先生飜字本
>>
むすび
以上を要するに助詞「へ」の變遷發展は、具體的な接着性の捨...
<<
[[【へ】]]
終了行:
[[石垣謙二]]
『文學』昭和十八年十月
https://www62.atwiki.jp/kotozora/pages/98.html
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はしがき
一 接着性と方向性
二 接着性より方向性へ
三 方向性の發展
むすび
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千年一日の如く少しも渝らぬ意義用法を持ち續けてゐるやう...
一 接續性と方向性
「へ」は現在普通に助詞と認められてゐるが、少くとも現代...
摩佐豆古和藝毛 玖邇幤玖陀良須 (記下)
の如きか、或は
吉野部登入座見者 (萬葉十三、三二三〇)
新羅奇敝可伊敝爾可加反流 (同十五、三六九六)
の如く、係助詞其の他の助詞を伴ふか、いづれかであつて、形...
さて「へ」は現代に於てもその懸つてゆく用言に或る種の制...
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ゆく(行) 萬二八○・八○○・=二四・一六八○・一八二七よ...
やる(遣) 萬一〇五・三三六三・四二四〇・四四ニニ
のぼる(上) 萬八八六・九四四・四四七二
こゆ(越)、r萬九五四二=二八
さかる(離) 萬二七四・一ニニ九
むく(向) 紀十九・十九
いつ(出) 萬二七四六
います(往) 萬三五八七
いる(入) 萬三二三〇
かへる(歸) 萬三六九六
かよふ (通) 廿禺一二六一
くだる(下) 記下
こぐ(漕) 萬七二
しつく(沈) 歌經標式
たつ (發) 萬五七〇
ます(座) 、萬三九九六
わたる(渡) 萬二七一
右の中、「ます」の如きは、
吾がせこが久爾弊痲之奈婆ほととぎす鳴かむ五月はさぶし...
のやうに「行く」と同義のものであり、又、
ヤマトリ
いざ子ども早く日本邊大伴の御津の濱松待ち戀ひぬらむ (...
の如く動詞を伴はぬ例も一つあるが、之とても「行け」「歸れ...
さすれば之等の諸動詞はすべて甲地點を出發して乙地點へ進...
「遣る」といふ動詞は他の諸動詞と些か異つて動作主體が...
從つて之等の動詞を伴ふ「へ」は、動作の接着性を表してゐ...
韓國の城の上に立ちて大葉子は領布振らすも耶魔等陛武岐底
韓國の城の上に立たし大葉子は領布振らす見ゆ那倆婆陛武...
であつて、「向く」といふ動作は同一地點に於て單に方向を變...
又、萬葉卷一の例は、
オキむ コガジ
玉藻苅る奥敝波不榜敷妙の枕の邊忘れかねつも (七二)
であるが、「漕ぐ」といふ動詞は其れ自身先天的に動作の經由...
茲に於て、「向く」及び「漕ぐ」といふ動詞を少しく詳察し...
袁波理邇 多陀邇牟迦弊流 袁都能佐岐 (記中)
奴婆多痲能都奇爾牟加比底 (萬葉十七、三九八八)
夷乃一國邊爾…直向淡路乎過 (萬葉四、五〇九)
淡路乃島二直向三犬女乃浦 (同六、九四六)
勢能山爾直向妹之山 (同七、=九三)
海若神之女爾邂爾伊許藝趁 (同九、一七四〇)
神邊山爾立向 (同九、一七六一)
三宅之酒爾指向鹿島之崎 (同九、一七八○)
佳吉乃崖爾向有淡路島 (同十二、三一九七)
曉月爾向而 (同十九、四一六六)
の如く格助詞「に」を伴ふものであり、又「いつち(何方)」の...
伊豆知武伎提可 (萬葉五、八八七。類例三三五七・三四七...
のやうに何等格助詞を介せずにも用ゐられ、時には
天漢射向居而 (萬葉十、二〇八九。類例二〇=)
の如く、自身方向性を含有しない體言に對しても格助詞を介せ...
次に「漕ぐ」に於ては、萬葉卷十一に次の例が見られる事を...
オキ も へ
庭きよみ奥方榜出海人舟の梶執る間無き戀をするかも (二...
之は嚮の卷一の例と極めて相似た用ゐ樣であるが、唯卷一の方...
「向く」及び「漕ぐ」の語性・用法が右の如くであるのに加...
ニシ
夜痲登弊邇 西風吹きあげて (記下)
夜麻登幤邇 行くは誰が妻 (記下)
野痲登陛濔 見が欲しものは (紀十五)
夜痲等弊爾 風吹き上げて (丹後國風土記)
淤岐弊邇波 小舟つららく (記下)
の如きもので、格助詞「に」が體言にのみ附く事から之を證す...
射ゆ鹿を つなぐ何播杯の 若草の (紀廿六)
鮎こそは 施痲倍も宜き (同廿七)
等乙類の確證もある故、簡單に斷定する事は出來ないのである。
先づ現代の助詞「へ」に類するものは、
幣(紀・萬)、弊(萬・歌經)、敝(萬)、部(萬)、方(萬)、邊(...
の如く、すべて甲類である。唯萬葉の四四二二(卷二十)には、
わがせなを都久之倍夜里弖うつくしみ帶は解かななあやに...
と乙類の假名が用ゐられてゐる(註一)。然し之は都築郡上丁、...
之に對して體言又は複合語を構咸する「へ」は、前述の「ヤ...
脚ー 阿度陛 (紀)
頭ー 摩苦羅陛 (紀)
常世- 等許與弊、等許餘弊 (丹後國風土記)
等の甲類なる一方、前掲の「河へ」「島へ」等は乙類である。...
床のー 辨(記)、弊(萬)、邊(萬)、重(萬)、隔(萬)
山の1 謎(紀)、部(萬)
大君の1 敝(萬)、幤(宣命)
の如く甲類の假名が用ゐられる一方、
河の1 迦波能倍 (記下)
城の1 基能陪、基能陪 (紀十九)
岩のー 伊波能杯 (紀廿四)
山のー 野痲能閉 (萬五)
膝のー 比射乃倍 (萬五)
道のー 美知乃倍 (琴歌譜)、美知能陪 (歌經)
引津の1 比岐都能倍 (歌經)
我が1 和我戸 (靈異記上第二)
盃のー 佐加豆岐能倍 (萬五)
の如く、乙類の假名も同時に用ゐられ、而も之等乙類のものは...
本1(モト・へ) 敝巾(記.・紀)、陛(紀)
末i(スヱへ) 幤(記・紀)、弊(記)、陛(紀)
後ー(シリへ) 懲み(萬・宣命)、敝(萬、東歌)
並剛ー(マへ) 齢弊(記)、敝用(記.・紀)、陛(紀)
外1(トノへ) 重(萬)
内-(ウチノへ) 重・隔(萬)
何1(ノ・ヅへ) 敞∴邊・方 (萬)
夕1(ユフへ) 弊(歌經)(萬)
行1(ユクへ) 敝・弊・敞・方・邊(萬)、幤(丹後國風土記)
古-(イニシへ) 敝・湛堪・部・家(萬)、懲刀(萬・後紀)
退1(ソクへ・ソキへ) 敝・部・隔(萬)
水漬-(ミヅクへ) 陛(紀)
等皆甲類であり、又「沖」に對する「へ」、家の「へ」及び「...
然るに之に反して「上」の「へ」は、
宇閇(記・佛足石・尾張國熱田太神宮縁起)、紆陪(紀)、禺...
の如く、すべて乙類であり、唯一例萬葉の卷十四、三五三九に...
耶麼能謎(紀十四) ↓山の邊
野痲能閉(萬五) ↓山の上
であつて、その咸立を異にしてゐるのである(註三)。
右のやうに乙類の「へ」は全く成立を異にする事が明らかに...
かくて「向く」「漕ぐ」の二動詞を除外すれば、上代に於け...
このやうに動詞の性質によつて、「へ」の種類を區別する事...
(註一) 殆んど同一の歌を
わがせなを都久志波夜利見うつくしみえびは解かななあ...
としてゐるから、東國語に於ては「へ」と「ハ」との對・...
(註二) 乙類の「へ」を用ゐる語は、「上」の他に等虚辭陪(...
(註三) 乙類の「へ」が複合語や連語を作る時にも「ーの邊...
二矛重英、河上乎翩翔(詩經)
日o屏唄oジミ津6(1)自35勲
の如く、外國語に於ても「うへ」と「ほとり」とが同じ...
二 接着性より方向性へ
奈良時代の「へ」は、動作の方向性のみならず必ず之に伴ふ...
萎時代初期には・竹取物語.伊勢物語・土佐日記・大和轗諦を通...
詞を伴ふもののみである。
とぶがごとくにみやこへもがな (土佐、歌、一月十一日)
いかにとく京へもがなと思ふ心あれば (土佐、一月十一日)
みやこへと思ふもゝのムかなしきは (土佐、歌、十二月十...
みやこへと息ふみちのはるけさ (土佐、歌、一月十七E)
の四例は「行きたし」等の意味が既に含まれてゐると考ふべき...
次に源氏物語は、古典全集本に依ると、
かたへ む
もとより有る人だに片方へは無くていと人少ななる折にな...
といふ例があるが、河内本に「へ」の無いのが正しいであらう...
いつち ○
何方へか消え失せにけんと (須磨、二五〇頁)
も河内本では「へ」が無い。前章でも見た樣に「いつち」とい...
さすれば確實なるもの八十二例であるが、すべて經由性の動...
かしこく思ひ企てられけれど、專ら本意なしとて、鱶匙思...
といふ例がある。之は常陸守が、淨舟へ求婚した少將を自分の...
〔あなた1北の方1は〕かしこく思ひ企てられけれど〔先方...
動詞「なる」は大日本國語辭典に、古くよりの意味として、
(一) 異なる樣にかはる。此れより彼れに移る。變化す。...
(二) 時日經てそれに至る。至る。經。經過す。逹す。た...
の二義を擧げてゐるが、いづれも經由性という範疇に當てはま...
然しながら、いづれにせよ、具體性のない心理作用に「へ」...
今昔物語集には卷一より卷二十までに一八九例、卷二十二以...
其後王一人侍者ヲ具シテ歩行ニシテ王舍城へ向フ (卷一、...
老婢…正門ニハ佛在マセバ其方ヘハ不レ向シテ脇ロヨリ出ム...
の如きもので、「我レ軍ヲ引將テ彼ノ山へ可二行向一シト(卷五...
息ト思シキ方へ只這二這ピケルニ (卷十六、三五六)
オキ
若キ女三人打群テ内樣へ行ケリ (卷十七、八=ハ)
アルキ
彼方へ走リ此方へ走リ (卷十七、八二八)
後へ手掻テ (卷十八、八八四)
何方へ可レ迯シトモ不二思エ一ズ (卷卅一、一〇六一)
外必國へ迷ヒ失ニケリ (卷卅一、一〇八二)
等の「這ふ」「歩く」「走る」「手掻く」「迯ぐ」「迷失す」...
先の萬葉集の「沖へは漕がじ」の「漕ぐ」に該當するもの...
如上、平安時代に於ては奈良時代同樣、「へ」は必ず經由性...
この傾向は鎌倉時代に入つて愈ヒ結實するのであつて、先づ...
このよし院へ申てこそはといひければ (卷十二、二一二〇)
動詞「申す」には何等の經由性を見る事が出來ない。故にこの...
かくの如く「へ」が接着性のない純然たる方向性を示すに至...
(監河侯)
となりにかんかこうといふ人ありけり、それがもとへけふ...
の「乞ふ」、
御堂殿邊へはた玉りをなされけり (卷十四、二六七)
の「祟をす」即ち「祟る」等、非經由性の動詞は相當に用ゐら...
遙に補陀落世界のかたへむかひて、もろともに聲をあげて...
のやうに全く非經由的のものが生じ、從つて「向く」も、
母おほきに恨みて、この兒をいだきて、日本へむきて、ち...
の如く非經由的の意味で而も「へ」に件ふ事を得るに至るので...
右の如き例は實にこの宇治拾遺物語のものが最初であり、...
(註一) 調査に用ゐた底本は衣の通りである。
竹取物語 岩波文庫本
伊勢物語 三條西伯爵家藏傳定家筆本
土佐日記 前田侯欝家藏定家自筆本
大和物語 日本古典全集本
濁點は筆者。
(熟二・註三) 調査に用ゐた底本は新訂櫓補國史大系本、數...
(註四・註五) 今昔物語集に於ける同一の説話には夫々次の...
其ノ隣二[日一ト云フ人有リ。其ノ人二今日可ソ食キ黄ノ...
...
遙二補随洛世界ノ方二向テ心ヲ發シテ、皆昔ヲ擧テ觀昔...
丶 三 方向性の發展
平安時代からその兆候を示しつつあつた「へ」助詞の發展、...
内裏へ申されたりければ (著卷三、六五)
類例、蓉九、 一八九・卷十一、二三三・卷十八、三六六
院へ申テ公卿僉議二及テ (愚卷六、一八四)
類例、卷三、九四・卷四、=一三・卷五、一五七・一六八・卷...
此の由五宮より内裏へ申されたりければ (保卷二、四九)
類例、卷三、八二・同、八三
これによりて蒔繪師がもとへかさねて、いかにかやうなる狼藉...
宇治殿知仰あいタリケル御返事二 (愚卷四、一=一)
この酌取の法師いかにも御酒まいらぬ由をおくのかたへいひけ...
關東ヘハ君ノ御氣色ワロク候ト云テ (愚卷六、一七七)
類例、卷六、二〇〇
二條中納言定高卿、放生會に參向の時、二條宰相雅經卿のもと...
さるにても宇治へ尋ねてこそきかめとて (著卷十二、二五九)
爲家卿のもとへ御尋有けるに (著卷八、一八二)
中御門左府へ案内申されければ (著卷十八、三六六)
初ヨリ其議…兩方ニワカレテヒシくト論ジテユリユクホドニ、サ...
テヲコナフ道理也 (愚附、二一〇)
此の由都へ聞えて (保卷三、八三)
御後悔ありて復り帥かせ給はん由方々へ御所りどもあり ...
等、すべて話者の聽者に對する方向性のみを荷つた「へ」であ...
うしろへ見むきて見れば (著卷十六、三三一)
東の堤を上りに北へ向つてぞ歩ませける (保卷二、二七)
類例、卷二、二八
さらば安樂壽院の方へ御車を向けて懸けはつすべしと仰せ...
牛をはつし西方へ押し向け奉れば (保卷三、七二)
御馬の口を北の方へ押し向けければ (平卷二、一四一)
等は接着性の無い「向く」(自動.他動)「向ふ」の例である。
更に室町時代に於ては愈ヒ頻繁に用ゐられたものと見られ、...
立ちかへつて野牛へいふは (伊、七九)
をよも...
頼盛「さては力に及ぱぬ」と申してゐられた所へ清盛また...
いかにすぐれて氣高い裝ひなるお方へ申さうずることがあ...
重盛へ申されたれば (平卷一、五五)(類例、卷一、=ハ。...
國王へ奏した へ伊、二八)
夜なく天へ甲斐ない怨をないてさけぶ (伊、四九)
この事がほかへ聞えぬやうにせい (伊、一八)
日本國へ聞えさせられた木曾殿 苹卷四、一一一一〇)(類...
われ迯げうと思はうずる時は、御邊へその御意をば得まじ...
文覺のもとへ便宜の時は「……」と仰せられたれば (平卷四...
一門の人々ヘコニ草の手既に敗れたと聞えたれば人々お向...
都へ告げたれども (平卷三、一四一)(類例、瑜四、二〇一)
殿上人逹が一同にまた忠盛のことを帝王へ訴へまらした (...
此の由を法皇へ伺ひ奉つて (平卷一、五五)
三種の神器を八島へ所望せられた事 へ平卷四題、二六〇)
義經院へ奏聞せられたれば 苹卷四、二六三)
して重盛はこの事について清盛へ意見をば召されなんだか?...
右の諸例は話者の聽者に對する方向性の例。
恩を知らぬ惡人に恩をほどこさうずるときは偏へに天道へ...
法皇へ對し奉つての憤り (平卷一題、三九)
ある片眼な鹿……「われ眼を一つもちたれば、別して用心が...
火のほの暗い方へ向うて (平卷一、六)(類例、卷二、一一...
馬の鼻を東へ向け 本卷三、一九八)(類例、卷二、=九・==)
木曾殿へお目に掛りたい仔細 (平卷三、一八三)
右の諸例は接着性を伴はない「向く」の類の例。
かくの如く、「へ」助詞は純粹に方向性のみを表す場合が益...
うしろ戸のひつじさるのすみより北へ第四のまに以ての外...
四條を東へくしげまではまさしく目にかけたりけるを (著...
ツギく二履中・反正・允恭ト三人、兄ヨリオト丶ザマへ御...
かやうな例が生じ得るのは全く「へ」助詞が純粹の方向性の...
震旦の長安城より天竺舍那大城へは幾萬里ぞと問へば (平...
有木の別所へはいかほどの道ぞ へ天草本平家卷一、五三)
八島へはいかほどあるぞ (同卷四、二九四)
の如く二地點間の距離をいふに至り、特に、
も都へも無下に近かつたほどに (天草本平家卷三、一四〇)
の例に於ては、「へ」に續く用言は動詞から一轉飛躍して形容...
「へ」助詞の性質に起つた右の如き變化は、次の二つの現象...
女房の許への文 (天草本平家卷二、一三四)
ぬ かどで
西國への首途 (同卷四、二〇五)
幼い人へのお文 (同卷四、二五八)
北の方へのお文 (同卷四、二五八.二六四)
八島への案内者 (同眷四、二九四)
のやうに、準副體助詞の「の」へ直接續く「へ」が現れること...
又、第二は接續助詞的な「へ」が發生し來つた事である。國...
格助詞の接續助詞化中、第一のもの即ち其れ自身で接續助詞...
尤も愚管抄には
コノ東宮ヲバ恒貞親王トゾ申ケル、太子ノ冷泉院ニヲハ...
イザ佛道ト云道ノアンナルヘイリナントテ (卷四、一〇...
其邊二房ックリテ居タリケルヘヨセテ同意シタル者共ヲ...
の如く用言の連體形を承けるもの三例を見るのであるから...
然るに、「へ」が純粹の方向性のみを荷ふに至つて、具體的...
元來體言「所」は形式體言として或る場面を形式的に代表す...
イモウトノ女院當今ノ母后ニテヒシトカクヲボシメシタリ...
ハシマシテ、藏人頭俊賢ヲオマヘニメシテ、御モノガタリ...
の如きは、強ち「トコロ」は「場所」を意味するのでなく、む...
更に室町時代の例になると、
さうある所へ、狐そのあたり近うゐたが鷄の曉うたふをき...
、さうする所へ、五人の兄弟逹が門の内へ打入つて、「行幸は...
の如きは、大分接續助詞的色彩が濃く、又、
「すは我命を失はうずるとて武士どもが來る」と待たるゝ...
山崎の關戸の院といふ所に主上の召された玉の御輿をかき...
「……その上今度は用意もおりないほどに、迎ひの者をお待...
の諸例の如きは、寧ろ「所へ」で一の接續助詞的に見てよいも...
(註一)・(註二) 調査に用ゐた底本は家の如くである。數字...
古今著聞集・愚管抄 新訂増補國史大系本
保元物語・平治物語 國民文庫本
天草本伊曾保物語 岩波文庫本
天草本平家物語 龜井高孝先生飜字本
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むすび
以上を要するに助詞「へ」の變遷發展は、具體的な接着性の捨...
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