獅子文六
小説
大衆文学大系
憑かれたやうに、視線を奪はれてゐる彼女は、久し振りに國訛りを出したことも、まつたく、知らないやうだつた。
女々郎と書いて、ヲンナメローと、讀むのであらうが、大根をデコン、石燈籠をイヅロといふ風に、萬事、舌の動きを儉約する薩摩訛りでは、"ヲナメラ"となる!それを、聞いたのが、昨夜のことだつた。
それは、まことに南蠻鴃舌に近かつた。客は、例の國鹽爺さんを除いては、婆さんと中婆さんばかりで、それに春乃とお鹿さんが入り混って、各々、百パーセントの國訛りを出して、挨拶を交はすのだから壯觀であつた。
言語の系統からいつても、天草辯といふ名はあるが、東は熊本、北は長崎、南は鹿兒島と、それぞれの方言に、強く影響されてるのである。
外国人の日本語
述べた日本語も、重助の九州辯などより、流暢に聞こえた。