#author("2023-06-29T09:36:39+09:00","default:kuzan","kuzan") #author("2025-09-14T10:34:56+09:00","default:kuzan","kuzan") [[久米正雄]] 小説 [[『大正の文豪』]] 鼻にかかった郷土弁を聞いていながら、故郷の小学校のことなぞを考えていた。 「全くわれわれの第一の欠点というのは、口が重くていけないということですよ。お互いに黙っていてはだめです。あの重い[[東北弁]]をできるだけ早くすてて、思ったことをどんどん弁じ立てるのでなくちゃあ、これからの世の中では成功はしません。ことに商売人になりますとな」 彼はそれとあてつけてかどうか、そんなことまで言いだした。傍で聞いていた私はカッとなった。けれども青年は前と少しも変わらぬ態度で、「はあ、そうでしょうな。私なぞも口が重いので、どうも不自由で困ります」と皮肉でもなんでもなく答えた。 「全くですよ。私なぞは学問のつもりで[[東京弁]]を勉強しました。おかげさまでどうやらI」 私はもう湛えられなくなった。それで一つには青年を救援するという考えで、わざと憎らしげにこう抑えた。 「でも鼻にかかるのだけはなおらないとみえますね」