#author("2020-08-18T11:11:20+09:00","default:kuzan","kuzan")
武田麟太郎

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 ぼくの浅草には十二階はない。人が浅草についておしゃべりをする時、彼は必ず十二階を云う。描き出す。追憶する。ぼくたちにその幻影を強いる。だが、浅草へ来て見給え。そんなもののあとかたちも(と云っては云いすぎかも知れぬ。その塔のあったあたりに建っている昭和座のうしろだったかに、十二階興行株式会社の事務所があるはずだから、十二階の名はまだ残っているのだろう)  とにかく、そんなものは見当らないのだ。ぼくは十二階のない浅草を語りたい。
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