横光利一
「文芸作品の関西弁」
http://web.archive.org/web/20040930180111/http://csx.jp/~amizako/yokomitsukazokukaigi.txt
東京へ出て来ると忍はいつの間にか東京弁になる癖があったが、ガードの下をくぐって日本橋の方へ突き抜けていくころには、そろそろ忍の大阪弁も東京語に近づき始めた。
軽井沢の|万平《まんぺい》ホテルヘ出かけて来た。二人は去年もここへ来たけれども、そのときはすぐ信州の野沢へ廻った。一年の違いで万平の客たちの言葉はめっきり大阪弁が増えていた。
忍の東京弁が妙にあどけなく響いたので、春子は一寸|軽蔑《けいぺつ》した微笑を浮べ
春子は大阪弁を|真似《まね》て云った。
「ぜんざい、おくれ」
と大阪弁で|註文《ちゆうもん》した。すると、花十の眼は急に高之に向って光り出した。高之はさも初めてのように、じろじろ泰子の顔や着物を|眺《なが》め廻してから、|顎《あご》をなでつつ花十の顔も眺め廻した。
「このごろは東京の人も、なかなか大阪弁がうまなったな」