三島由紀夫
綾倉伯爵は京訛のとれない、まことに温柔な人柄で
あの御所言葉をまじえた古風な京都弁、風にかすかに揺られる几帳のような、無表情でいて淡い無数の色とりどりの表情をちらつかせる京都弁
祖母は郷里の者が来ると、誰憚らぬ鹿児島弁で話したが、清顕の母や清顕には、多少楷書風なぎこちなさのある東京弁、それも「が」の鼻濁音を欠いているために一そう武張ってきこえる言葉で話した。それをきくと、清顕は、祖母がことさらそのような訛りを保つことによって、彼が難なく発する東京風の鼻濁音の軽薄さを、それとなく非難しているように感じた。
なよやかな美しく澄んだ発声をきこしめした。