中丸明
新潮文庫
マリア・ラスプーチンがシベリア訛りで、
「なんだしやん(なんだか知らないが)、おみゃあさんの声には聞きおぼえがあるだわ」
「そーも、このわしに朕になれ言やーすなら、ここはひとつ、朕々してみやーすか」
と、尾張・那古野・三河弁のごとき、重々しく雅びな響きをもつ言葉でいったが、これは彼が生まれ育ったアールガウ弁であることをお断わりしておく。
おじやという日本語は、じつはスペイン語のオージャ・ポドリーダolla podrida(腐れ鍋)が語源で、深鍋になんでもかんでもぶちこんで、どろどろになるまで煮こんだもので、フランス料理のポトフもこれをルーツにしている。
「許いたって、ちよ。殺さねやあで、ちよ」
と、カルロスの使者に教皇は、雅びなヴァチカン弁でのたもうたものであった。
この領土内にはドイツ人、マジャール人、チェコ人、イタリア人、スラヴ系のセルビア人、クロアチア人、スロバキア人、ポーランド人などを抱えてい、譬えていえば、新宿の場末のホステス・アパートのような、お国訛りのとびかう雑居状態で