中村隆資 『文学界』51巻2号(1997.2)
判官殿は少し反っ歯の歯を剥いて、馴れた京言葉でやんわりと、萌黄縅の「与一」に命じねばならない。 「どうや、宗高? 彼の扇の真ん中を射て、平家の奴らに見物させてやらんか?」 緋縅の「与一」には同じ京言葉でも厳然と命じねばならない。
お命じ下せえ」と、だん可言葉で深く言い切らねばならない。
半身の口を開いて下野訛りでお答えせねばならない。