松井今朝子

ちょっと前まで上方にいたとは思えないような早口の江戸訛りで余七がまくしたてていたことが五兵衛にはおかしく想い出される。もはやすっかり江戸者になった気でいるらしかったが、それにしても、すぐに江戸訛りが身につくというのは、よほどに器用な生まれつきと思われた。

 東海道は新居の宿を越えたあたりから、人の話すことばが聴き取り難くなっていた。
 これほどにも、ことばが違うものかということに彦三は驚いている。
 五兵衛は江戸に下るというが、果たしてことばの違う江戸で、五兵衛のいう「実」を写す狂言が書けるものなのか。

 五兵衛は相変わらず熱心に羽織衆から深川の俚言を習っている。


トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-04-23 (火) 23:52:19