今東光
水戸訛りのあった剣客の面影を忘れることが出来ないでいた。
渡り歩いた商人の信州訛りが永々と聞える
「私、日本ムスメ、好きあります。日本ムスメ、キモノ、富士の山……みんな好きあります」
ハリスはそれを外交的な修辞と思っていたのではない。片言ながら日本語をあやつって、酒が云わせる本心だった。
二人の言葉に争われない薩摩訛りがあった。
訛りだらけの江戸弁で云った。
伊牟田尚平はその陣立を見渡すと、お国訛りを丸出しにして、
恐ろしくぞんざいな巻舌で云い出した。
奥州訛りの沖田さんは剣術の麒麟児という方でしょうね。
出羽国庄内藩士で、その重厚な訛りもまた一種の威厳あるかに感じられた。