有吉佐和子
東京弁と紀州言葉の波長の違うやりとりで四方山話が続いたが、
華子の口調がひどくませて聞こえるのは紀州なまりがないせいばかりではない。
花の声と古い紀州なまりを伴わない文字では、花の心は伝えられないのであったろう。
「なんや旧家の亡霊を見てるような気がしたわ」
文緒は紀州なまりでこういい捨てた。
流れる湯川は清洌で、|畝《あぜ》に入って腰をかがめて手を浸せば雪解け水のように冷たかった。どうして湯川というのだろうか、と華子は心の中で不審に思う。岩出の堰から曳いた水で、その堰の名を六箇井というところから井川がなまったのだろうか。まさか水の豊かさを湯水のように使えると酒落たわけではあるまいと思うと、少し可笑しくなって、