横溝正史
小説
古代オリエントの楔形文字《せっけい 》や、スメールの粘土板タブレットに、ひそかな情熱をかきたてられているらしい。
終戦のとき陸軍大尉だった秋山卓造は軍人ことばがぬけきらない。
第二のタイプの考古学者は純粋に学究的な人たちだが、これにも二種ある。第一はエジプトのアマルナ文書やスメールの粘土板タブレットと取っ組んで、そこに書かれている古代の文字を解読しようという言語学者。第二はそれらを整理し、体系づけ、過去をいまに再現しようという歴史文化学者のタイプである。
かれの言語学的な素養に太刀打ちできるものは、現在の日本にはひとりもいなかった。この男はおそらく語学の天才なのだろう。齢四十にみたないかれだ、が数か国語に通じているという。もっとも数か国語に通じているということと、言語学とはおのずからちがっているが、古代オリエントの象形文字や楔形文字に通じていること、現在の日本ではこの男の右に出るものはないといわれている。
しょっちゅう駄洒落をとばしているというふうで、ときには駄洒落が皮肉になることもございました
この夫人は東北出身ときているのでことばに東北訛りがある。さすがに東京の女子美術を出ているくらいだから、ふだんはほとんど目立たないのだが、興奮してくるとズーズー弁が顕著になってくる。
速記をおわった近藤刑事が大声をあげて笑いだした。
いまどきの若い人は日本語をしらなくて困る。
どこか暗誦口調たるはまぬがれなかった。
取材にきたマスコミの連中もしまいには、この夫人のまくしたてるズーズー弁にヘキエキして引き退がるのがオチだった。
遺憾ながらこの文章の筆者は東北弁が不得手である。だから操夫人の語ることばをそのままここに移し取ることができないのは甚だもって残念千万だが、もしそれが可能なひとは、これらの言葉をズーズー弁に翻訳して読んでみたまえ。
ガゼン東北弁をまる出しにして
「おまえどこでそんな言葉覚えたんだ」
「貸し本屋から借りてくるのよ、いろんな本を、