横溝正史

「い──刺青師の張というのは──おまえさんかい」
呂律は多少怪しかったがりっぱな日本語だった。

「おや──大将、日本語ができるんだね」
「私、長いこと日本にいました。日本で刺青、勉強しました。日本の刺青、世界一すばらしい」

蟬の羽根のような薄いきらきらする支那服を着て、しかも唇をついて出る言葉といえば変に流暢な日本語、それも江戸弁で啖呵を切るんです。ええ、日本語は実に上手で、その代わり肝心の支那語はから駄目。


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Last-modified: 2024-04-22 (月) 22:59:57