横溝正史
「い──刺青師の張というのは──おまえさんかい」 呂律は多少怪しかったがりっぱな日本語だった。
「おや──大将、日本語ができるんだね」 「私、長いこと日本にいました。日本で刺青、勉強しました。日本の刺青、世界一すばらしい」
蟬の羽根のような薄いきらきらする支那服を着て、しかも唇をついて出る言葉といえば変に流暢な日本語、それも江戸弁で啖呵を切るんです。ええ、日本語は実に上手で、その代わり肝心の支那語はから駄目。