大和言葉
世の中のまゝにならぬはいなものじや
もみひく賤之女のみのも人のこゝろを
種として万のことの葉とぞなせりけり
爰にやまと詞とてあさくさ川のふか
きたは事にも風俗やはらかに艶なる詞
こそしけれと云なせり しかはあれど道ふみ
わけされはしりかたし 其流の功者に聞よる
へき便舟なけれは藻鹽草硯の水辺に
書あつめ下にことはり書して戀の詞世話
抔追加して板にちりはめ人のためにとする
のみ
十一月吉日 本屋佐七
外題「新板増補/大和詞大全 完」
世の中のまゝにならぬはいなものじや
もみひく賤之女のみのも人のこゝろを
種として万のことの葉とぞなせりけり
爰にやまと詞とてあさくさ川のふか
きたは事にも風俗やはらかに艶なる詞
こそしけれと云なせり しかはあれど道ふみ
わけされはしりかたし 其流の功者に聞よる
へき便舟なけれは藻鹽草硯の水辺に
書あつめ下にことはり書して戀の詞世話
抔追加して板にちりはめ人のためにとする
のみ
宝暦六子年孟春 京寺町通松原上ル町 菱屋治兵衛板
外題「やまと詞大成」
やまと詞之序
それ哥は天地いまだひらけざる時
より出来しとかや されば青きをふみ
てよろこぶ野辺の鶯 黄ばみ落るを
おしむ谷の鮴もちいづれか敷島の
道しるべならざらん 千早振神代の
俳優は人の世にをよんで俳諧に
つらねさかんにたのしみもてあそべ
り 是を好めるうなひ子のたより
ともなりねかしと中村氏冨丸が
心をよする波の間に〳〵ひろい集め
をきし玉をかいやり捨んも此道
の本意にあらざればとてあづ
さにちりばめんとするになを
つくば山のしげきことの葉なれ
ば此面彼面にしりがたく岩瀬
の森のいはれぬたくひはもり
ながら編なしてやまとこと葉と
名づく このおもむきをやつかれ
にいさゝか述よといふにいなみ
がたくて拙き硯をならしの
をかの露ばかり筆をくはふる
ものならし
久楽山人書
于時 享保十二丁未年正月吉日
内題「増補大和言葉」
享保十一丙午年八月吉日
寺町通松原上ル町 菱屋治兵衛板