安岡章太郎
松齢のやつ、誰かに一度詩でほめられると、それ以来ズウズウ弁まる出しの田舎なまりで、女の子を取っつかまえちゃ、「あなたに一篇のスを捧げます」なんて。やたらに自作の詩の朗読をやらかすので、みんな閉口してるって、親戚の娘がいってたぜ
この気持はやはり受験生仲間でないとわかってもらえない。彼は息子の書斎に顔を覗かせると、わざと書生言葉で呼びかけた。 「やア、またがっついてるのか」