小林信彦
小説
新潮文庫上巻
p.112
ルビで笑わせるこの方法は、辰夫の知っている限りでは、戦前のモダニズム雑誌「新青年」のコラムで始まったものである。この手は、だれにでもできそうで、じつは非常にむずかしい。漢字とルビが不即不離で、あるときはルビが一つの批評になっていなければならない。
下
p.28 急に、訛りが出た。
p.97 大阪弁をうまく使ってた
p.181 日本語そのものは流暢であるが、抑揚がまったく違っている。
p.252−3
〈リバイバル〉という英語が、説明抜きで使われるようになったのは、ごく最近で、いわば、流行語である。(中略)旧作の興行収入が新作を凌いだのは初めてであり、〈リバイバルーブーム〉なる新語が大新聞を飾ることになった。
p.260 ききとりにくい、不思議な関西弁である。
p.260 女性の速記者をつれて
p.261 速記者はすでに鉛筆を走らせている。
p.288 テープレコーダーを持ってきていないので、速記者を呼ばなければならない。しかし、この時間では、速記者のオフィスは閉っている。
p.404 雑誌の速記者は鉛筆を手にした。
p.414
「山の手と下町では、言葉までちがった。ほんの十年まえ、昭和二十年代には、まだ、そうだったよ」
「本当ですか?」
「本当だとも。ぼくは山の手の高校へ通っていたのだが、ある日、かっとなって、『てめえ、薄汚ねえ奴だな!』と怒鳴った。もちろん、良い言葉ではない。相手が殴りかかってくると思っていると、げらげら笑いだした。ぼく以外の生徒は、そういう言葉が現実に使われるのを初めて耳にしたのだ。つまり、落語の中で使われる架空の言葉だと思っていたのさ」
p.425
「中級以上の商家の主人は、非常にていねいな言葉を使う。表現も、江戸弁の名残りというか、独特なものだ。いわゆる標準語とはちがう。もっとニュアンスに富んだ、洗練されたものだよ」
「そうですか……」
「ラジオがいけなかったのだ。職人言葉を使う、妙な〈江戸っ子〉が出てくるドラマを、戦後、すぐに流した。NHKの責任だ」
p.532 都合よく、大阪弁になった。