序
近頃「君が代は」の歌に就いて種々の議論が行はれてゐる樣子である。或は民主主義に反するとか、或は元は戀の歌だとかいろ〳〵いはれてゐるといふことを友人長岡彌一郎氏から聞いたが、それらの説どもを聽きたゞすと、いつれも勝手な想像を逞くして、根據の無いことを言ひ觸らしてゐる有樣である。
かやうな輕薄な言論は或は今の時世の風潮かも知らぬが苦々しい極みである。
ここにその長岡氏の問に應じて一往の事を述べたが、更に根本に溯り、叉下りて浴革を搜りたるによりて、それらの調査を一括して後來の參考に供することとして茲にこの小册子を綴る。
昭和三十年八月一日 山田孝雄