武田麟太郎
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1135477/55


 私は、今年は最も親しい友だちを二人までも喪《うしな》っている。身近くしている仲間と、そろそろそんな別れ方をする年配に入ったのだろう。一人は私よりも一歳年齢下で、もう一人は一つ年齢上であったのを想《おも》い合せたら、そうしたことが云えるのだ。寂しがるなんて気持で書いてるんじゃない。ひょいと現実の薄い幕が、自分の眼の前で捩《ね》じめくれて、まだ知らない、あちらの世界が見えはじめる、なぞと書いても嘘になるかな。そう、そこがまだ結局は若いせいか、じっと下手に力を入れた眼をこらして了うんで何も見えやしない。そのくせ、どうすれば、その視力を調節出来るかと練習しているところが、ちゃんとある。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 10:00:55