江戸川乱歩
「そうなのですって」妙な訛の東京弁で、併しなかなか話好きと見えて、女中は快活に答えるのだ。
植村喜八は、いつの間にか浅草人の一人になり切っていた。昼席の釈場《しやくば》で箱に入った寿司《すし》を食い、江川一座《えがわいちざ》のお囃《はや》しさんや一寸法師と顔なじみになり、活動小屋の生々しい絵看板に無上の美を感じ、観音堂の乞食と口を利き、何々バーで電気ブランを引っかけ、純粋江戸弁の兄《あに》いと議論を戦わせた。