海音寺潮五郎


声に朗々たるひびきがあり、はばがあり、重みがあり、抑揚があり、なかなかの快弁だが、純粋薩摩弁のそれは、なにを言っているのかまるでわからない。
(桐野利秋)


内玄関から案内を乞うと、佐賀弁の書生が出て来た。
(江藤新平)


房州出の、ひどい訛りの太っちょの女中


疑いもなく、これは、薩摩なまりであった。この方言特有の、促音の多い、食ってかかるような調子である。


 丸山の豊かなほおは、生き生きした血色に、におっている。声が大きい。調子に、九州なまりがある。闊達な性質らしく思われた。


 おだやかな声だが、腹に、ずん、とこたえるひびきがあった。岩倉は、愛想笑いをし、つとめて軽い調子で、答えた。
 「わざわざお運びをいただき、恐縮でおます。用事というのは、今日の会議のことですがね。御承知の通り、今日の会議は、遣韓大使のことが主問題で、いうてみれば、あんたの一身上に関することどすよって、今日はひとつ欠席していただきたい、と思いましてね。その御相談に上ろう、と思ったのですよ」
 やわらかくて、いささか軽薄な感のある、京都なまりの言葉のつづく間に、血色のよい、太った西郷の頬は、きっと、ひきしまり、強いかがやきのある大きな目は、真正面から、岩倉を見すえた。


トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-02-19 (月) 11:32:49