石坂洋次郎
(ここで断わっておくが、いままでに記された貞子とあや子の会話は、じつは標準語でなく、ほとんどが岩手の方言でなされたものである。人は、疲れてる時、衰弱してる時、あるいは感情が昂ぶってる時、故郷のある人間は、識らずにお国言葉で物を言うらしい。[…] なぜ私が、方言のことをもち出したかというと、奇妙な感じがする岩手の方言で、金森あや子の肉体が汚された経過が話されたことによって、いっそう悽惨な迫真性が滲み出ていたということを、指摘したかったからである……)