遠藤周作
小説

言葉に妙な訛りがある。レントゲンがなかとなら──か。東京に長くいた人じゃないね。どこか地方から来た医者だ」

「あの訛りは九州のF市の言葉なんだね」と私は妻に教えてやった。
「なんの訛り?」
「そら、初めて俺が行った日、レントゲンを忘れて言われたろう。レントゲンがなかとなら−って」
 妻も私も東京生れだから本当にそれがF市の言葉であるかわからなかった。けれどもその発音がいささか滑稽だったので私たちは笑いだした。

「早口のF市弁」


勝呂は同じ研究生の戸田と話をする時は何時も片言の関西弁を使う。学生時代からいつの間にか二人の間ではそういう習慣が作られていた。昔はそれも彼等が自分たちの友情を暗黙のうちに証言する符牒《ふちよう》だったのだ。


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 10:07:49