藤原定家
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下官集 一巻一冊
下官抄とも言ふ、書中に「下官用之」「下官付此説」の如く撰者自称の「下官」なる文字があるに因み後人が假に附した書名で、原の書名は判らない。定家の撰とも云はれるが詳かでない。文永三年寫本、赤堀又次郎氏の語學叢書所収本がある。本書は單に歌人の心得を書いたものであるが、その中「嫌文字事」の一條は定家假名遣の附録(定家卿口傳)と略々同じもので、を、お、え、へ、ゑ、ひ、ゐ、い、ほ、ふ、の假名を含む語を擧げてゐる。而してその材料を平安朝後期以後の文獻に求めた爲後の歴史的假名遣とは一致しないものがあるが、古文獻によって假名遣を一定せんとした點や、「定家假名遣」よりも古いものであるらしい點に、この書の歴史的價値を認め度い。本書は餘り世に行はれなかったらしいが、もし「定家假名遣」が本書から發展したものであったなら、間接的に後の和歌者流に大なる影響を與へたものと云ひ得る。
(亀田次郎「国語学書目解題」)