安岡章太郎 小説 土佐弁会話
運転手はラジオを止めると、ゆっくり信太郎の方をふり向いた。そして、殊更のような大阪弁になりながら、「ははア、これでっか」と、自分の頭を指した手を空で二三度ふりまわすと、
家と学校とで言葉をつかい分けることは何と重い負担だったろう。せっかく憶えかけた新しいアクセントの言葉で話していると、大学生の従兄がやってきて、「おっと、信ちゃんは江戸っ子弁で話しよるの?」と、いかにもオウムの芸当に感心するような口調で云うのだ。