有吉佐和子

「竹子さん、その大阪弁はなんとかならないかねえ」
「へえ、人阪は私の生れて育ったところですさかい、ここで江戸ッ子になれ云われても、土台無理ですがな、奥さん」
大阪弁が悪いと云ってるんじゃないんですよ。大阪弁にだって、もっと品のいい言葉づかいがあるでしょう? あんたの云い方は、まるで場末のチャブ屋の女みたいですよ。どんないい道具を置いたって、あんたの日本語で滅茶滅茶だ」
 竹子はキチンの窓口で私を見かけると傍へ寄って来て愚痴をこぼした。
「三十年便うて来た言葉やさかいな、どないしても直れへんわ。私が船場や芦屋《あしや》で育ったんやないことぐらい、分りそうなもんやけどな。


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Last-modified: 2023-07-10 (月) 17:39:01