亀井孝ほか『日本語の歴史』平凡社
亀井孝大藤時彦山田俊雄


第一章  近代への羽ばたき
  一 口語への視野
 口語は流動してやまないということの意味するところ
 研究の立場における口語と文語の関係
 カ行四段活用の動詞の音便形にある例外 
 そこには他方言からの借用があるか
 文献にみる「イテ」と「行って」の関係 
 口語の流動にみる体系の組み替え 
 ここになまなましい口語の例がある
 口語にもまた層がある
 口語における新旧の交代
 口語における規範の意識の芽ばえ
  二〈ざうたん〉様式
 イエズス会天草版平家物語
 天草版《平家物語》の資料的価値
 〈ざうたんのてには〉による新しい様式
 ハビヤンが用いたテクストの問題  
 〈ざうたんのてには〉による改変 
 様式の統一をくずさない苦心
 表現の選択にみせたハビヤンの配慮 
 少数の例を例外的な〈かたこと〉とみうるか
 様式と規範とのかかわりあい
 天草版平家にみられる「こそ」の係り結びのみだれ
 「ござる」にあらわれる敬語表現
 「ござる」対「おりやる」と「おぢゃる」
 「まらする」というととばのたどった道
 「まらする」は「まゐらする」の省略形
 時代に先行したハビヤンの立場
  三 伝統にもたれかかる規範のゆらぎ
 規範とはなにか
 キリシタン版が教えるハ行音の音価 
 日本語におけるp音の位置
 室町時代、P音はさかんに用いられた
 《古今集》の歌にp音が伝えられる
 P音の推移をたどる方法
 ハ行音におけるfからhへの推移
 室町時代の笑話にみる四つ仮名の混同
 〈四つ仮名〉の混同とはどういうことか 
 小牛(コウジ)と小路(コウヂ)とは同音になりえた 
 ジとヂの音価のことは別の問題に属する 
 キリシタン版にも四つ仮名の不統一がある
 四つ仮名の混同の根はふかい
 方言にはタ行音とサ行音の混乱もあった
 四つ仮名の混同の背景にある長い歴史  
 〈開合〉の面にも混乱があらわれる
 開合の混同があらわれる古い例
 動詞の活用にみる規範の動揺
 二段活用の一段化ということ  

第二章  上方語江戸語
  一 対立する二つの方言圏
 東西二方言の対立
 京都のもつ商業的な性格
 大阪が〈天下の台所〉となる
 江戸は最大の消費都市
  二 江戸時代における標準語の対立
 日本語の歴史にあらわれた大事件 
 上方方言江戸方言のちがいとは
 両方言のもっと大きなちがい
 アクセントのちがいの深刻さ 
 アクセントのちがいの意味
 アクセントのちがいはどこからでたか 
  三 京都アクセントの変遷をたどる
 アクセントの現象は早くから注倡された 
 アクセント史の資料はいつからあるか 
 平安時代のアクセント
 鎌倉時代のアクセント
 室町時代のアクセント
 室町時代のアクセントと鎌倉時代との差 
 江戸時代のアクセント
 平家琵琶の伝えるアクセント
 京都アクセントの変遷の動向
  四 関東・関西、二つのアクセントの関係
 関東方言はどのように関西方言から分かれたか  
 アクセントが注目される理由
 関東・関西両アクセントの中間体がみつかった  
 関東アクセント関西アクセントからでた
 その分離の時代はいつか
 飛鳥・奈良時代より古くはない
 平安時代の初期に想定する考え方  
 関西式から関東式に移ったことの意味
 こういう現象はアクセントの退化ではない
  五 上方語と江戸語の世界
 上方語江戸語との時代的なずれ
 上方語と江戸語をつちかった土壌
 上方語による言語作品
 江戸語の世界を探る
 六方詞による作品
 江戸語の宝庫は《浮世風呂

第三章 社会のひろがりとことば
  一 ことばに寄せる庶民の知恵
 文芸における俗語の登場
 雅語とロ語の使い分けは言文二途に通じる
 短詩型文学としての俳諧
 俳諧にみられる用語の日常性
 文芸にあらわれる日常的視角
 旧文芸の否定から出発した俳諧
 文芸に登場する世話(つまり諺)
 諺にみる時代的な消長
 諺が定着してゆく過程
 諺が世話でありえた理由
  二 限られた社会の特殊なことば
 八丈島にある正月祝ことば
 忌詞の発生は古い
 山ことばも一種の忌詞である
 山ことばに類する沖ことばの例
 特定社会のことばが一般にひろがった例
 女房詞の発生はいつごろか
 女のことばに「お」の字をつける風習
 女房詞が普通語になった例
  三 農山漁村への漢語の浸透
 コビタことばとはなにか
 当世のことばと古いことば
 漢語の地方へのひろがりを探る
 農村に漢語を伝えたもの
 農村で漢語の意味が変わった例
 地方によっても漢語の意味はちがった
 謎字や宛て字も珍しくない
 もともと漢語の日本化はあった
 その来歴は今後の研究課題

第四章 近世文学にみる発想法の展開
  一 文芸に俗語を登場させた俳諧
 現実肯定の新しい文学様式
 俳言の詩としての俳諧
 戯笑の文学が登場する背景
 連歌から俳諧の道を開いた松永貞徳
 談林の風俗詩がうまれる
 談林と貞門との論戦
 談林の俳諧化と寓言
 新しい境地としての客観的立場
 俗の詩性の発見
 「松の事は松に習へ」
 「俗談平話を正す」
  二 近世演劇の言語的性格を探る
 近世の精神は演劇にも反映する
 古浄瑠璃には文学性がない
 金平浄瑠璃の誕生
 浄瑠璃を飛躍させた濡れ場の発達
  三 新しい文章様式としての新説話文体
 浮世草子に先行する仮名草子の時代
 談話調の文学・昔語り
 談話調の文学・百物語
 舌耕-軍談講釈などの類い
 舌耕-落咄といわれるもの
 口頭話の調がもつ六つの特色
 西鶴・《好色一代男》の出現 
 西鶴の文章にある俳諧的技法
 《好色一代男》の文章の基礎は俗文
  西鶴の描写にみる具象的表現  
 散文家としての西鶴の面目
 西鶴は日本の文学ではじめて醜悪を描いた
  四 俳文の完成を芭蕉にみる
 新しい散文詩があらわれる
 俳文のきざし
 俳文についての蕉門の考え方
 俳諧的詩性をそなえた美文
 近世の後半への橋わたし

第五章 江戸時代の出版と教育
  一 出版の前史となった経典の印刷
 出版を可能にした基礎的条件
 日本における出版の歴史
 鎌倉時代は経典印刷史に一時期を画す
 〈南都版〉にかわる〈五山版〉の登場
 中世末期の出版にみる新しい傾向
  二 画期的な展開をみせる近世の出版
 日本の出版に革命をもたらした二つの技術  
 江戸時代の出版の多彩さ
 家刻本の開板にまつわるエピソード
 中世における刊経の頒布方法 
 本屋の名が刊記にあらわれてくる
 いわゆる〈町版〉の種類と点数
 書物の価格は安くはなかった
  三 国語辞書としての《節用集》の周辺
 近世の言語生活にかかわる字書の位置 
 平安末期の《色葉字類抄》の意義
 漢和字書国語辞書との二系列
 近世初頭では漢字の字書の利用が多い
 字書の字体が行・草体をもつ理由
 日常語としての漢語の増加が字書にも反映
 《片言》の辞書としての位置 
  四 寺子屋とその教科書
 町人を背景に普及した寺子屋
 寺子屋の起源を探る
 幕府がとった寺子屋の保護政策
 〈手習い〉が寺子屋教育の主眼
 書簡文範としての〈往来物〉の歴史 
 幕府の政策は教科書にも反映 
 しかもなお文盲者は多かった

第六章 言語の学問としての国学
  一 国学の前史ともいうべき時代
 古代憧憬にもとづく中世の古典研究
 中世における古典語研究の諸相
 〈国学〉への転換が芽ばえる
 契沖の学問の新しい性格
  二 契沖から賀茂真淵へ―その国語学的業績
 国学における契沖の画期的位置
 契沖と百人一首との結びつき 
 契沖の学問と宗教との関係
 本居宣長契沖評価
 国語学における契沖の業績
 古典語の学としての国語学
 国語の基準が百人一首に求められた
 賀茂真淵における国学の基盤
 真淵の思想にうかがえる自然観
 真淵の言語研究の実績
 《語意考》にみる真淵の国語研究  
  三 本居宣長とその後継者
 《古事記》ととりくんだ本居宣長
 宣長の国学における文芸的基盤
 《古事記伝》のはたした役割
 宣長における〈心〉と〈ことば〉と〈事〉
 〈事〉の尊重が宣長の真髄
 古学の階梯として考えられた宣長の国語研究
 宣長の国語研究はどう行われたか
 宣長における国語研究の意識
 語学の学問としての国学の終焉
 その後の国語学の流れ

別欄


日本人イルマン,ハビャン 
《閑吟集》 
半濁音を鳥獣の音とする説 
《音曲玉淵集》について
《蜆縮凉鼓集》 
江戸と大阪との《職人歌合》 
関東・関西両方言アクセント対照表
類別語彙表 
現在諸方言アクセント対応表(一) 
《字鏡》にみる声点
京都アクセントの時代的変遷
現在諸方言アクセント対応表(二) 
関西アクセントから関東アクセントへの変化
講釈と落語
《毛吹草》
正月ことば〈イネツミ〉
〈ネズミ〉ということば 
斎宮の忌詞 
農村に多い仏教の諺 
農村用語になった漢語
幽斎とその周辺の人びと 
貞門と談林 
打越(去嫌)
《毛吹草》にみる諸国の物産 
〈古典の四書〉
江戸時代の〈書籍目録〉
どんな仮名書があったか
いろは引きの《節用集》 
方言辞書《物類称呼》
《庭訓往来》
道徳教育書《実語教》
三つの手習い教科書 
漢字の知識と遊び 
真淵の説く用言の活用 
国学の四大人 
《字音仮字用格》の〈おを所属弁〉 

月報


とぼとぼと 亀井孝
かな文書 森末義彰

執筆者

ISBN:9784582766165
解説 岡島昭浩


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Last-modified: 2022-08-08 (月) 10:07:24