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詞の玉橋 ことばのたまはし 語学書 二巻
【著者】富樫広蔭
【成立】文政九年十二月成る。弘化三年四月訂正。
【刊行】明治二十四年。
【内容】主として、活用係結の事を研究もたものである。初めに、活用については我師本居春庭の「詞八衢」に丁寧懇切に説いてあるが、同書は義理深幽、且つ詞辞簡約であるから、学者でさへも難解としてゐる。依つて初学者のために「詞八衢」「詞の玉緒」(各別項)の説に依り、これに自分が考へ得た前人未発の説を加へて説くと云ひ、なほ本書を見る前に、「辞玉襷」(後出)に記した言葉の規則を記憶する必要があると云つてゐる。
さて本文に入つて、国語は「言」「詞」「辞」の三種に分類すべきである。
(一)「言《こと》」とは世間のあらゆる物事を言ひ分つ音で、その語尾は活用しないもので、世に体言と言つてゐるものである。これに形言・様言の二種ある。詳しく分けると五種になる。
(1)形言(物の形を指別つ語、月・花・山・雪等)。
(2)様言(物の様を指別つ語、物・事・是・故等)。
(3)居言(詞の韻を言ひ居《す》ゑたもの。謡・宿《やどり》・恋等)、
(4)略言(詞の韻を略したもの。歌.長《なが》・宿《やど》等)。
(5)合言(春日.秋風等)
これである。
次に、(二)詞は万物の有様働きを言ふ語で、世に用言と云はれるものである。これに六種ある。
(1)四韻詞(旧名四段活)。
(2)一韻詞(奮名一段活)。
(3)伊紆韻詞(旧名中二段活)。
(4)衣紆韻詞(旧名中二段活)。
以上四種は正格の活用。
(5)変格詞(加行、佐行、奈行、良行の変格)。
(6)雑音詞(久活及び志久活)
この六種である。
次に(三)辞《てにをは》とは物事について思ふ意象《こゝろ》を顕はし尽すもので、これに
(1)動辞(活用する手爾波。助動詞に当る)と、
(2)静辞(活用せざる手爾波。現在の文典で云ふ手爾波)
とがあると云ひ、これ等の一々について説明してゐる(以上上巻)。
下巻には上巻の説明の足らざるを補ひ、又一般に文法上誤り易い点について記してゐる。即ち「仰となる詞辞の事」「禁辞二種の差別の事」「俗語に変例ある事」「しか・しが差別の事」「しし・せし差別の事」「の・がの用格差別の事」「四韻詞古き一格の事」「一韻詞古き一格の事等。
【価値・影響】本書に於て注目すべきは、品詞の分類である。本書以前に、富士谷成章.鈴木朖・東条義門(各別項)が一、品詞分類を試みたが、広蔭の言(名詞)、詞(動詞・形容詞)、辞(助動詞及手爾波)と三種に分つたのは、前三者の分類に比すれば格段の進歩である。その進歩した点は「辞」の一類を立て、これを動辞と静辞とに分類した点にある。この分類法は、爾後の学界に頗る大なる影響を与へた。明治大正の時代に於て、品詞を体言・用言・助辞の三つに大別する学者は、すべて直接、或は間接に広蔭の影響を受けてゐるものである。勿論広蔭の分類にも欠点は必ずしも少くない。「言」を五種に分つ如きは首肯し難いものであり、「辞」の中の「属」と称する一類の如きは、その分類に破綻を齎らしてゐるものである。品詞分類の外は、別に注意を払ふ程のものではない。
が、「言」「詞」「辞」と云ふ大綱を立てた点に於て勝れてゐるのである。活用に於ては、四韻詞・一韻詞の如き、新しき名称を設けたに過ぎない。而して活用を凡て五段にし、動詞・助動詞の類に、命令形を逸してゐるのは大なる欠点である。
【末書】堀秀成著 「蘿鬘《ひかげのかづら》」(別項)
【附記】広蔭には「詞八衢捷径 詞玉緒統括 辞玉襷」と題する一枚刷の図表がある(文政十二年刊)。著者の所謂「詞」及「辞」の活用及び係結の図表で本書より前に成つたもので、本書と併せ見るべきも
のである。 , 〔亀田〕
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokaidai/k5/kokusyo_ko091.html>
ことばのたまはレ
詞の玉橋 二巻 富樫廣蔭《トガシ 》
言語の分類、語尾の變化、てにをはの調へ等を示せり、文政九年丙戌〔二四八六〕の編か、弘化三年丙午〔二五〇六〕改正出版す。
◎富樫廣蔭は鬼島と稱し、言幸舎といふ。明治六年癸酉〔二五三三〕八月二十四日歿す。http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/syomokukaidai/ka/kaidai_ka150.html
詞の玉橋 二巻二冊(或は一冊)
文政九年富樫廣蔭著。弘化三年改正、明治廿四年刊。主として活用係結の事を研究してゐる。初に活用の事については「詞の八衢」によく説いてゐるが 説く所 義理深幽且つ詞辭簡約なる爲 初學者には難解と思はれる故 今 自分は「八衢」や「玉緒」の説に依って、自分の創見をも加へて解り易く説くと云ってゐる。本文では國語は「言」「詞」「辭」の三種に分類すべきであると言って三大綱を立てその各を更に数種に分けてゐる。(一)言とは世間のあらゆる物事を云ひ分つ音でその語尾は活用しない。所謂體言と稱するものである。これに形言・様言の二種あり詳しくは五種に分たれる。(1)形言(物の形を指分つ語)(2)様言(物の樣を指分つ語)(3)居言(詞の韻を言ひ居ゑたもの)(4)略言(詞の韻を略したもの)(5)合言等である。(二)詞とは萬物の有様働きを言ふ語で世に用言と言はれるものである。六種に細分される。(一)四韻詞(四段活)(2)一韻詞(一段活)(3)伊紆韻詞(中二段活)(4)衣紆韻詞(下二段活)(5)変格詞(加・佐・奈・良行の変格)(6)雑音詞(久活志久活)(三)辞とは物事について思ふ意象を顕し尽すもので、(1)動辭(現在の助動詞)と(2)靜辭(現今云ふ手爾波)とがあると云って一々説明し、又一般に文法上誤り易い點について記して居る。この品詞の区別は本書中最も見る可きもので、殊にはその「辭」の一類を立てゝこれを動・静二辞に分けたことである。本書以前に成章・朖・義門等夫々品詞の分類を試みたが本書はそれ等に比し格段の進歩である。この品詞を三大分類した事はその細部に於いては缺陥あるにせよ とに角勝れたもので明治大正の學界にこの説を奉するらのが少くない。
【末書】* 「[[蘿蘰]]」、[[堀秀成]]著。別頃多照。【参考】
* 「詞八衢捷徑 詞玉緒統括/[[辭玉襷]]」[[富樫廣蔭]]著。文政十二刊。著者の所謂「詞」及び「辞」の[[活用]]及び[[係結]]の[[一枚刷]]図表である。(亀田次郎「国語学書目解題」)
小林賢次「富樫広蔭自筆本並びに自筆書入本『詞玉橋』について」 http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001583618/jpn