亀井孝ほか『日本語の歴史』平凡社
亀井孝・大藤時彦・山田俊雄
第一章 古代語の残照
一 上代特殊仮名づかいの崩壊
なお消えぬ古代語の残照
万葉仮名が物語る二類の分用
古代日本語にみられる母音交替
〈上代特殊仮名づかい〉という呼び方
二類の仮名づかいの混同
なぜ混同を生じるようになったか
音節結合の法則がくずれる過程
結合法則を崩壊させた別の要因
混同はどういう方向をとったか
二類の崩壊をもたらした基層の変化
方言にみる二類の分用の混乱
八母音体系から五母音体系へ
二 音便の発生
文献に登場する〈音便〉
〈音便〉の完成は平安時代の中期ごろ
平安中期以降の文献にみる特殊な例
音韻史から音便を眺める
音便をうんだ音声的条件
はね音便とつめ音便の発達
はね音便をうんだ漢字音(促音) 《「つめ音便をうんだ漢字音(促音)」の誤りであろう》
つめ音便をうんだ漢字音(撥音) 《「はね音便をうんだ漢字音(撥音)」の誤りであろう》
音便は文法にも影響する
音便による非母音音節形成の意義
三 音韻を変えた基層の変化
奈良から山背《やましろ》へ基底方言の変化
平安初期百年のことばの空白
非連続的なことばの交替
山背方言の基層にある漢字音の影響
〈基層説〉は実証困難のケースが多い
帰化人の二重言語性と漢字音の影響
帰化人基層説が唯一の仮説ではない
第二章 五十音図といろは歌の文化
一 五十音図の成立を探る
〈いろはかるた〉の位置
生活にしみこんだいろは歌
五十音図が占めてきた位置
日本最古の五十音図
《孔雀経音義》の音図とハ行転呼音
原音図の成立年代とその作者
音図作製の動機ばなにか
二 あめつちとたゐにの歌
〈あめつち〉の歌が登場する
最後の十六字の意味について
〈あめつち〉は五十音図の組み替え
〈あめつち〉はなんのためにつくられたか
五十音図と〈あめつち〉との相違点
〈あめつち〉とアクセントとのかかわり
〈あめつち〉が発音されたアクセント
〈あめりち〉が改訂される必然性
〈たゐに〉の位置をどこにおくべきか
三 いろは歌はなぜつくられたか
〈いろは〉歌の成立
〈いろは〉と〈たゐに〉との先後関係
現伝する最古の〈いろは〉
日本語のアクセント理解の作用
わりに理想に近い高低の配置
語の意味をはなれた七字区切り
四 五十音図といろは歌のになった役割
五十音図における清濁の対立
濁音音節のアクセントについて
濁音音節の四行がつくられた理由
五十音図の用いられた世界
悉曇学者、明覚の役割
五十音図と歌学の世界
〈いろは〉歌の用いられていた場
なぜ〈いろは〉歌の「す」は濁音に読むか
〈いろは順〉の辞書が登場する
仮名づかいと五十音図・〈いろは〉歌
第三章 古典語の周辺
一 中世歌学に芽ばえる古典意識
中世は古代憧憬の時代
古典書写にのこる定家の業績
中世における古典意識とはなにか
中世和歌の古典は《古今集》
中世の歌道にあらわれる復古と新風
〈本歌取り〉の手法が流行する
〈本歌取り〉は古代憧憬の産物
〈本歌取り〉のうえに成立する新古今の歌風
微妙にゆれる《古今集》の評価
和歌が物語に対して占める優位
二 言語の面からみた連歌
連歌はその発想法に特色をもつ
連歌には用語の自由があった
連歌のもつ言語遊戯としての性格
付合が連歌の世界を飛躍させた
語感が問題となる素地
連歌は古典の素養を基礎とした
〈水無瀬三吟〉があらわす連歌の世界
俳譜の連歌はもっとも言語遊戯的な連歌
形式的な遊びにした要素〈賦物〉
三 散文の世界に照明をあてる
平安時代は言文一致の時代
言文二途に開ける
《徒然草》にあらわれる古典意識
兼好のみせる古代憧憬
兼好は《平家物語》をどうみたか
《徒然草》と《枕草子》との関係
《徒然草》の文章は一様でない
素材・内容と文章スタイルとの関連
《平家物語》の散文にある韻律性
拍群にとらえる散文・韻文の移行
〈語り〉の本質はどこにあるか
《平家物語》の文章スタイルも一つではない
第四章 新しい口語の世界
一 下積みの口語
時のまにまに推移し流動する口語
新しい景観をひらく口語の世界
〈係り結び〉の法則とはなにか
〈係り結び〉の法則崩壊
口語は無色な表現の確立にすすむ
終止形の廃滅がもたらした影響
連体どめが価値を失う事情
日本語にあらわれる屈折語的様相
二段活用の一段化が意味するもの
〈こそ〉の係り結びの退化
〈こそ―已然形〉の運命
〈係り結び〉の崩壊は一つの文法の廃滅
表現の世界に口語が露出する
二 学問の場に登場する口語
《愚管抄》は歴史哲学の書
慈円はなぜそこに口語を用いたか
〈法語〉にも和文がみられた
〈抄物〉が登場する時代相
中世初期の〈抄物〉の例
〈抄物〉の流行は応仁の乱前後
〈抄物〉の口語的性格
三 《御伽草子》にとらえる時代の口語
《御伽草子》が登場してくる背景
お伽話の原型がそこにあった
御伽とは読んで聞かせる意味
《御伽草子》に俗語の露呈をみうるか
言語資料として《御伽草子》のもつ価値
どこまでが江戸時代の混入かは問題
ざんそう(讒奏)
ねうばう(女房)
ゐねうかつがう(囲繞渇仰)
せうし(笑止)
じんぶつ(人物)
たがやす(耕)
かつぐ
そこに時代の口語がどれだけあるか
稀有の例といえる〈猿源氏〉の呼び声
口話の生きた表現を他に求めるなら
四 狂言に使われた口語の時代相
狂言〈末広がり〉が成立する基盤
京の町に聞かれたさまざまな物売りの声
狂言は《御伽草子》に対する世話物
「ござる」体が狂言を連想させる
狂言台本は時代によってちがう
台本がことばの定着する過程を示す
舞台語としての定着
生き生きとした口語
狂言は社会生活に密着していた
狂言にみる虚構と人間性
狂言はどこまで口語を反映しているか
五 方言の源流をたどる
方言は古代にもあった
現代方言の源流はどこまでたどれるか
ダとジヤにみる東西東西方言の対立
中世の中央語シェ・ジェが方言にのこる
〈四つ仮名〉が〈二つ仮名〉と〈一つ仮名〉に
中世の両唇摩擦音[F]を伝える地方
二段活用の一段化にとりのこされたもの
室町時代にはじまる〈京へ筑紫に坂東さ〉
中世のととばは多く九州方言にのこる
九州方言にのこっていない中世語
形容詞の語尾がカとなる例
九州語彙と中世語との比較
琉球方言のおかれた位置
琉球方言と九州方言とは似ている
琉球方言は九州方言の基層語か
日本語と琉球語との分岐の時期
第五章 外国人の日本語観
一 ポルトガル人の日本発見と伝道
東洋の夢の国ジパング
コロンブス《東方見聞録》を読む
ポルトガルの東洋進出
〈銀の島〉日本の発見
スペインとポルトガルとの新世界発見競争
イエズス会士フランシスコの登場
キリシタン・バテレン・イルマン
宣教師の日本語の知識
聴罪師の知るべきことば
説教師の知っていたことば
宣教師はどの程度に日本語が書けたか
ニ イエズス会士の日本語研究
フランシスコのみた日本の漢字
フランシスコの一つの着眼
教会用語を大日からデウスヘ
ガゴ、教会用語を決定す
平仮名でしるされた〈くるすのもん〉
有名な大道寺創建許可状
外国人が書いた漢字や仮名の筆跡
日本語研究のみちを開いたルイス・フロイス
フロイスは日本語をどうみたか
巡察使伴天連ヴァリニャノの来朝
印刷機械を日本にもちこむ
ヴァリニャノの三回目の来朝
三 キリシタン版の文典・辞書・教科書
ラテン文典から日本文典をつくる
日本語に十品詞をたてる
ロドリゲスの《大文典》と《小文典》
日本語の辞書もラテン語の辞書を手本にした
ロドリゲスは《日葡辞書》の編集を主宰していない
漢字字書としての《落葉集》
のちに追補された《小玉篇》しょうごくへん
日本語の教科書
教科書にみられる編集方針
とくに日本人のために編集されたもの
日本語研究にあらわれた規範性の問題
キリシタン資料をどう扱うか
四 朝鮮・シナにおける日本語の研究
朝鮮の日本語通訳の養成
諺文創造に関係した申叔舟
申叔舟と秀吉の朝鮮出兵
捕虜として日本に渡った康遇聖
《捷解新語》にあらわれた日本語の特色
シナにとって日本は島国の夷狄
倭寇対策としではじまった明の日本研究
別欄
有坂秀世の母音交替の法則
音便の種類
母音音節の三つの特性
促音節と撥音節
犬も歩けば棒にあたる
反切は漢字音の表示方法
音義について
韻紐図と《韻鏡》
四声から出たアクセント
中世歌学の系譜
六百番歌合と千五百番歌合
《詠歌大概》という歌論書
西行と実朝の位置
中世の古典研究
《菟玖波集》にみる漢語使用の連歌
難波の芦は伊勢の浜荻
連歌の長・宗祗
賦物という約束
軍記物語としての《平家物語》の位置
膠着語
五山文学
《御伽草子》二十三編
奈良絵本の起こり
狂言の台本
琉球方言のひろがり
《おもろそうし》
琉球方言のもつ特色
シャヴィエルの署名
吉利支丹と切支丹
《日葡辞書》
《海東諸国記》
月報
「秀句」の伝統 林屋辰三郎
キリシタン時代の日本人はどのように外国語を習ったか アルカディオ・シュワーデ
ゴア瞥見 土井忠生
ISBN:9784582766127
解説 米井力也